第13話:恋する姫と休日の魔法、ふたりきりのデート日和
「今日くらいは、“普通の女の子”でいたいの」
――朝、迎えに来たセレスティア様がそう言って微笑んだ。
いつもの学園制服ではなく、淡いローズベージュの私服ワンピース。
編み込まれた金の髪にはリボンの飾り。
美しすぎて、一瞬、息を呑んだ。
「ど、どうですか……?」
普段見せない、少しだけ不安そうな表情。
「あのっ……とっっても、すてきです……! やばいです、息できないです……!」
「ふふっ、それは困ったわね。じゃあ、手、つないでおきましょうか?」
ああ、今日わたし死ぬかも――幸せで。
デートの舞台は《王都セントリア》の中心街、恋人たちの聖地と呼ばれるエリア。
カフェ、雑貨店、恋占いの館、ペアアイテム専門店……すべてがカップル仕様。
「こ、この空間、情報量が……甘すぎます……」
「慣れれば平気よ。大丈夫、私がついてるわ」
――完全にリードされている。
途中、ペアのスノードームを選んだり、
街角ピアノで即興連弾したり(梓はまともに弾けなかったが)、
カップル用のラブ占いに挑戦して……
【恋人相性:限界突破】
「このふたり、近々“運命の選択”に直面するでしょう」
「……運命の、選択?」
セレスティア様の表情が少し曇ったのを、私は見逃さなかった。
午後、王都公園の丘の上――
少し早い夕焼けと、緩やかな風。
「梓。……聞いてほしいことがあるの」
セレスティア様は真剣な顔だった。
「私は、本当は“王家直属の婚約枠”に入る可能性があるの」
「……え?」
「この世界で、“恋愛スキル”は戦争にも外交にも関わる。
だから貴族や王族は、強い恋愛適性を持つ者に政略を持ちかけるの。
最近、私に“王配候補”の話が来たの。……でも、私は――」
風が吹き、金髪がなびく。
「私は、あなたが好きなの。心から。……でもそれが、わたしだけの気持ちなら、困るわ」
梓の視界が揺れた。
「そ、そんな……セレスティア様は、わたしの……初めての恋で……はじめて手を繋いでくれて、優しくしてくれて……っ」
言葉にならない感情が、込み上げる。
「――だから、選んでほしいの。わたしを、世界を、未来を」
セレスティア様の手が、そっと頬に触れる。
「わたしと……この先も、一緒に生きてくれる?」
まるで、プロポーズ。
そのとき、背後の茂みがざわめいた。
忍び寄る魔力の気配――
黒衣の刺客が、ふたりの会話を狙っていた!
「梓、下がって!」
セレスティア様が立ち塞がる。
しかし敵の矢が放たれ――
「っ……!?」
梓が無意識に、セレスティア様を庇って飛び出していた。
彼女の胸に、微かに光る“恋愛防壁スキル”が発動する――