プロローグ
-昔々、まだ世界に神様がいた時代に、一匹の狐がおりました。
この狐はたいへん賢く、また高い高い霊力を持っておりました。
日に日に強くなっていく力をこの狐は悪事にばかり使っておりました。
なまじ力が強かった分、狐には悪戯でも人間には被害が大きかったのでしょう。
業を煮やした時の朝廷は、ついにこの狐を討伐する事に決めました。
その時、部隊の隊長を勤めておりましたのが水戸篁(みとのたかむら)という男でございます。
えぇ、そう志乃介様の御先祖様でございますね。
素晴らしい力を持った御仁であったそうで、この水戸家の繁栄に大きな影響を与えました。そもそも水戸家とは…
あっ、はい。すみません。お話ですね。 えぇと、どこまで話しましたか…
あぁ水戸篁が登場したんですね。
そう、それで狐を討伐しに向かったのです。
しかし相手は神として祭られることさえある、強力な狐です。
部隊は苦戦を強いられました。
その戦いは七日七晩続きました。
最後は千いた部隊も篁一人となりましたが、ついに狐を封印することが出来ました。
その後、篁は狐を改心させ契約しました。
こうして狐の力にも守られて水戸家は今日までの繁栄をしてきたのです。
えっ?その狐ですか?はい、そうです。この狐こそ志乃介様の守護霊にして、教育係である、この氷雨(ひさめ)でございます。
…はい、ありがとうございます。氷雨も志乃介様が大好きでございますよ。
この氷雨、一生志乃介様にお仕えいたします-
そこで、俺は目が覚めた。
ふぅー、嫌な夢を見てしまったな…
あれから十年、色々なものが変わったけれど俺はアイツを見つけることが出来るだろうか…
氷雨を殺したアイツを…
「おっはよーぅ、志乃。今日もいーい天気だぞぉー!!」
でっかい声を響かせながら僚の扉を開けて入ってきたのは、我が幼なじみ、柊さららだった。
「…うるさいよ、さらら。」
「おっ?起きてるじゃん、めっずらしー」
「今朝は嫌な夢をみてな…」
「あ…氷雨さんのこと?」
「ん、まぁ」
さららは小さいころから一緒に遊んでいるから氷雨のことを知っているんだ。
後氷雨のこと知っているのは生徒会の人達だけ。
まぁ、あんまり話したいコトじゃないし。
「ごめん…」
「気にすんな。それに氷雨がいなくなってボロボロだった俺を慰めてくれたのは、さらら。お前だろ?」
「そうだけど…」
「な、だから元気だせよ。何時ものさららが一番だぞ?」
「い、一番?そ、そうかな…?」
「ああ、そうだって」
「…うん、そうだね!元気なのが私の取りえだもんね!じゃ志乃、朝ご飯食べるから着替えて下に降りてきてねっ。もうみんな待ってるよ~」
「うぃーす」
ふぅー、いったかー。
やっぱり、しんみりしちまったなぁ…
だからあの話はしたくないんだ。
少なくとも、こんな晴れた気持ちいい日にはしたくない。
さて、着替えますか。皆さんお待ちかねのようだし。
「志乃ぉー、遅いー腹減ったぁー」
「あー悪い悪い」
制服に着替えて、下の食卓に降りると鼻に掛かる声で非難された。
彼女は式上詩歌。黒髪をおかっぱにした美人さん。しかし食べること大好きな大食い。なのに太らない、むしろスレンダー。全くどんな胃袋してんだ。きっとコイツの胃袋は四次元ポケット出来ているに違いない。俺がのび太ならこんなドラえもんいらんな。…話がそれた、とにかく詩歌は神代学園高等部に通う一年生だ。ついでに生徒会執行部書記だ。
ちなみに俺も一年生で生徒会、役職は会計。
これは俺たちだけじゃなくて、ここの人達みんな生徒会。
何故かというと、俺が住んでいるこの「さくら荘」
は神代学園の生徒会限定の寮なんだ。
十部屋以上ある中で使わているのは八部屋だけ。
もちろん一人一部屋でしかも敷金、礼金、家賃タダ!なんと素晴らしい…ここに住めるのは生徒会に入って唯一良かったことかも知れん。
「何一人でブツブツ言っている?早く席に付け、志乃介会計。」注意が飛んできた。む、漏れていたか…。この人は二年生で書記。真っ黒で綺麗な髪をストレートにし、キリッとした目元と口元が日本人形のような美しい女性だ。でも口調が時代劇っぽい。そこがいい!って言う人が多数いるけれど。
「へーい、失礼しやした姉御」
「姉御というなと何時も言っているだろう!私の名前は桑原小夜だ!」
「知ってますよ、小夜先輩。知っててからかったんですよ。」
「ぐっ…貴様には一度先輩の何たるかをその身に刻み込んでやらねばならぬな…」
「こーら、小夜ちゃん止めなさい。志乃君も先輩をからかわないの。」
「はーい」
「う…うむ、綾奈さんが言うなら仕方がない…」
俺が恒例の小夜書記いじりをしていたら、副会長の三条綾奈さんに止められた。
そのつややかな茶髪(地毛なんだって)を肩口辺りまで伸ばした、超がつく美少女で、成績優秀、スポーツ万能、おまけに性格まで良いという、ミスパーフェクトだ。天はこの人に一物も二物も与えられるだけ与えてしまった。
でもそんな学園のアイドルには、一つだけ欠点がある。それは…
「おはよう、志乃。今日はメイド服を着てくれ。」
「…おはようございますバカかいちょ「勝彦様!綾奈が!綾奈がその服を着て勝彦様にご奉仕致します!も、もちろんあんな命令やこんな命令でも喜んで遂行いたします。やーん、勝彦様、いえご主人様~」」
アホ極まりない言葉を吐きながら体をくねくねさせる綾奈さん。…そう、彼女の欠点とは会長を見ると変態になってしまうことだ。二人は親どうしが決めた許嫁で学園の名物カップルとなっている。
綾奈さんが強烈な行動しているから、会長はスルーされてしまったけれどヤツも立派な変態だ。
彼の名前は土方勝彦。キリッとした端正な顔立ちにメガネがインテリジェンスな雰囲気を醸し出しており、成績は常にトップをキープする超優等生。が、しかし!それは表の顔。本性は破天荒な性格をした変態ヤローだ。 全く…アイドルを返せ。
「メイド服か…いいなぁ。志乃是非着てくれ!」
「隼人さん…」
はぁ、ここにも変態がいたか…
この人は二年の高島隼人文化部部長。うちの学園の文化部を取り締まるひとだ。 長身で顔が良いジャニーズみたいな人だが、俺の“しの"の姿に一目惚れして以来志乃介の時にまで言い寄ってくる可哀想な人。
「がっはっはっは。朝からカオスだな、おめーらは!」
「そう思うなら収集つけるの手伝って下さいよ、剛さん…」 「無理だな!」
がっはっはーなんてマンガみたいなとっても男らしい声で笑うこの人は、姫宮さん家の剛君だ。
姫宮なんて可愛いらしい名字とは裏腹にゴッツい体をしたキン肉マンだ。
そんな剛君は二年生で運動部部長。…だろうね。この人にデスクワークなんてすげー似合わない。
さてこれで全員なんだけど、俺が何時も思うのは…「生徒会でまともなのは俺だけか…」
「何いってんの!志乃が一番異常でしょうが、女装男なんだからー。」
「さらら!それは違う!あれは氷雨の姿だーっ!」
…俺は氷雨が死んだときに氷雨の妖術でその力を全て託され、自由自在に操れるようになった。
しかし、甘い話には落とし穴があるようにこのことにも思わぬ弊害があったのだ。確かに力は使えるがそれは氷雨の姿での話。俺は力を使おうとすると、もしくは使うためには氷雨の体、顔にならなけばならないのだっ。 てゆうか、変身しちゃうのだ。
つまり、俺は女の子変身することが出来るんだ。
はぁ、氷雨ヒドいよ。俺の男のアイデンティティを破壊するつもりか?
しかし、そんな半妖怪は俺だけじゃない。
「さららだって牛魔王の娘じゃん!」
「う、うるさい!その名を呼ぶなーっ」 そう、さららは妖怪と人間のハーフで、お父さんはかの有名な悪役、西遊記の牛魔王だ。
何でも三蔵に説法されて改心したんだとか。
その後ずっとボランティア活動をしていて、最近人間の女性と結婚し子供が産まれた。その子供がさららだ。
牛魔王パパはさららを溺愛しているが、さららには避けられているようだ。
南無。
話は変わるが、さららの身体の特徴と言えばその大きな胸だ。ショートカットの髪もくりっとした二重な目も可愛いらしいけれど、ぱっと見てどこに目が行くかと言うとやはり胸だ。あんまり語っていると変態になってしまうから言わないけど、一言だけ言わせてくれ。
魔王でも、牛は牛か、と。
「二人とも、ご飯に致しましょう?」
「あ、大家さん」
「すいません、さくらさん…」
ニコニコしてこっちを見ているのは、この「さくら荘」の大家さんでその名もズバリさくらさん。
腰まで届く黒髪をした妙齢の女性だ。
この人も妖怪らしいのだが、何の妖怪かは知らない。
とりあえず、さくら荘最強の存在だ。
「では皆さん、いただきます。」
「「いただきます!」」
みんなで"いただきます"をして、さくらさん謹製の朝食を頂く。くぅー、ウマい!
「美味しいですぅ」 ガツガツ食べながら詩歌さんが言う。
何時もながら見事な食べっぷりだ。
「ふふ、ありがとう♪」
「うむ、本当にウマい。修行の後には堪らないな」と小夜さん。
「また、修行してたんですか?」これさらら。
「あぁ、陰陽師たるもの修練を欠かしてはならぬからな」
「大変ですねぇ」これは俺ね。
「それもこれも志乃介、貴様に勝つためじゃ!もう幻術には引っかからんぞ」
「どうですかねぇ…俺の幻術は千年の重みがありますから」
俺と小夜さんは何度か手合わせしたことがあって、そのたびに俺は狐の得意な幻術で小夜さんを倒していて負けず嫌いな小夜さんは再戦し勝つために修練に明け暮れる、ということになった。
「皆さんはやらないんですか?修練?流派は違えど同じ陰陽師でしょう?」
「えぇーだるいぃー」
「志乃が女の格好をするならやるよ」
「わしはやっているぞ。肉体の鍛錬だがな」
「僕はやらなくても、部下が戦えばそれでいい」
「勝彦様、あ~ん」
なんか後半明らかにおかしいのあったけど気にしない。
あれはきっと空耳さ。
ところで、この生徒会にはなんでこんなに陰陽師が?っていう疑問が湧くがそれは、神代学園の理事長が超高名な陰陽師で学園で次世代を担う若者を育成としたからだ。
でも、それは生徒会だけの話でそれ以外は普通の学生が通う普通の学園だ。
だから普段俺たちは理事長から命令され、日夜妖怪退治に励んでいる。
まぁ普通の学校行事なんてものの運営もしているが。
おっと、もうこんな時間か…早く食べて学校いかなければ。
「「ごちそうさま」」
これまたみんなでごちそうさまをして朝食を終える。
一年生は上級生よりも登校時間が早いからもう行かないと。
「さらら、行くぞ」
「うん!」
「「行ってきまーす」」
いやあ、書いてしまいました。変態を。
冒頭のシリアス何だったんだって感じですね。
この小説だいたいこんな感じです。それでも良いという方はどうぞ楽しんで頂ければ幸いです。