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第六章 松ちゃんとの事

「契約書を作るけどあなた未成年だから法的には成立しないんだ。だけど私はそれでもいいよ、あなたは?」東郷はまじめな顔になって尋ねる。

「結構です。約束は守ります」泰子はキリッと返事をした。

「よし、それなら約束は成立だ。詳しい話をするよ」東郷は石黒に契約書を用意させながら話を続ける。

「まずお金は十万円、それを五年で返してもらう。言い方を変えれば五年はウチで働いてもらうということだ。衣食住つきだからね、結構いい条件だぞ。暮らすのは楽だ。ときどき私の気が向いたらお小遣いも出すよ。最初の三年は主にホテルの掃除係だな、十八歳になったら私の店でホステスをやってもらう。いいね。ホステスっていうといかがわしい感じを持つけど立派な仕事だ。で、二十歳で契約は終わりだ。あとは好きにしていい」どう? という感じで東郷が泰子を見る。泰子は完全に納得した。願ってもない待遇と思える。

「ホステスをちゃんとやれるか自信はないですけど、頑張ります。契約してください」泰子は嬉しそうに答えた。

「オッケー、じゃあ乾杯だ、慣れるためにちょっとお酒を飲めよ」

「はい」泰子はグラスを受けた。

「あのね、あなたなんか特技ある? 歌うまいとか、何か」と東郷が問う。

「歌なら少し自信あります」といって、泰子は童謡、演歌、ジャズを披露した。

「何か踊れる?」さらに東郷が問う。

「母に教わりました。シングシングとか、バレエもちょっとできます」といって振りを見せた。

 東郷はそれを興味深く見て頷く。

「オッケー、じゃあ、そこの机でこれに記入して」東郷が書類を出した。

「石黒、石黒」東郷が石黒を小さく呼ぶ。

「すげえ掘りだしもんだ、おまえよくやった」と小声で言って東郷は石黒の肩を「ポンポン」と叩く。

 泰子が契約書に記入し終わった。

「はい、十万円、ちゃんと数えてね」東郷が『大須賀堂』と印刷のされた封筒を渡す。

「あのな、こんなにお金持って帰るとお母さんがきっと不信に思うから、大須賀堂が指輪の値段を間違えたと言っときゃいい」と東郷が知恵をつける。

「わかりました、ありがとうございます、ほんとにありがとうございます」泰子は深々と頭を下げた。

「じゃあな」

「はい」と挨拶をして、泰子は嬉しさのあまり、寮までステップを踏みながら帰った。


「石黒、あの娘すげえぞ、すでに歌も踊りも一級品だ、スタイルも抜群だし、なんたって顔がいい。いまは垢ぬけねえ恰好してるから目立たねえが、十七、八になって化粧させたら女優としても通用する。どうやって稼がせるか、いまから楽しみだぜ」


 翌日の放課後、泰子は勇んで病院に向かう。

「おかあさん、見て、大須賀堂で追加のお金もらったの」と封筒を見せる。

「ええー、ほんとに」和子は封筒を確かめる。

「十万円追加よ。店の前通ったら呼び止められて、このまえ金額を間違えたって」と泰子は嬉しそうに言う。

「すごい親切ね、そんなことあるのかしら、本当に……でもこれ、現実なのね」和子は半信半疑だが札束を数えると確かに十万円だ。

「ありがたい、あの指輪はほんとうはこのくらいの値打ちがある物なのよ。もう一度そのお店に行ってお礼を言うのよ」和子は封筒に手を合わせる。

「そうする」泰子は頷いた。

 これで入院を続けられる。泰子は安堵した。

 病院を出ると、ちょうど向こうから多田さんが坂を上がってきた。

「泰子ちゃん」多田さんが手を挙げて挨拶をする。

「すいません、もう帰るとこなんで」泰子は申し訳なさそうに会釈をした。

「あぁ、そうなんだ、じゃあ私、飯食ってないんで一緒に軽くタコスでも食べる?」多田さんは軽食に誘ってくれた。ベースの前まで行けばビートルという名のタコス屋がある。

「ほんとにタコスで足りる? おなか空いてない?」多田さんはそう言ってくれるが泰子にとってタコスは贅沢な食べ物だ。申し訳なくて恐縮している。

「あの、自分の分は自分で払います、そんなにお世話になったら母にしかられます」

「いや、たまにはいいじゃん、私が持つよ」

「いや……でも……」と言ったがあまり断るのも返って申し訳ないと思い直す。

「じゃあ、いただきます」

「全然、オッケーだから、長い付き合いなんだからさ」と多田さんは嬉しそうだ。

「フーッ」食事が終わると多田さんはうまそうにタバコをふかす。

「泰子ちゃん、現実的な事だけどさ、入院の費用って安くないじゃん、お母さんあと一か月で退院できるかっていうと難しいんじゃない? お金大丈夫?」と多田さんはちょっと首を傾けて泰子を見る。

「あの、それ、大丈夫になりました」と泰子は力強く言い切った。

「お父さんの形見のダイヤモンドの指輪が売れたんです。それで、えーと十万円になりました」

「えっ、そんなにぃ」多田さんは少々驚いたようだ。

「大須賀堂さんで買ってくれたんです」

「大須賀堂って、石黒がやってる店だろ、知ってるよ、あいつ同級生だから。へえ、あそこが……」多田さんはしきりに感心する。

「十万円か、そりゃすごい」と言いながら多田さんはタバコをふかす。

「そうか、でも良かったじゃんか。当面入院費の心配はなくなったね」

「そうなんです、運が良かったんですかね」泰子は多田さんを見つめてほほ笑んだ。

「私、このままじゃ比護さん、病院を出なきゃならなくなるだろうって思ってさ、何か方法ないかって考えてきたんだけど、そりゃあ良かった。真面目にやってるといいこともある」と多田さんは「ウン、ウン」と自分で頷いてまたタバコをふかした。

「じゃあ、お大事に」

「お世話になりました」泰子は手を振って多田さんを見送った。


 日曜日だった。泰子は今日も昼から病院に行き、洗濯物を整理している。母の世話をしているということが、むしろ充実感となっている。母が生きている間に少しでも何かしてやれるということが。

「こんちわぁ」大きな声で、なんと松ちゃんが病室に入ってきた。手には紙袋を下げている。

「あのう、これ、お見舞いです」慣れない言い方で待つちゃんは紙袋を差し出した。

「わーっ、松ちゃん、ありがとう」泰子はほんとうに嬉しそうにそれを受け取る。

「すいませんね、松ちゃん」和子も起き上がり笑顔でお礼を言った。

「どうですか、具合は」松ちゃんが心配そうに尋ねる。

「どう、見た目元気そうでしょ」和子は肩を回してわざと元気そうに振舞う。

「はぁ?」松ちゃんは母が相当具合悪いと予想してきたので、ちょっと拍子抜けしたようだ。

「昨日、沖縄寮に行ったらさ、二人ともいないじゃん、そんで何人か聞いたんだけど知らないって言うんだ。しょうがなくて裏のサンちゃんに聞いたらたまたま知ってて、ヨセフ病院に入院したみたいって言うからさ、病院に電話入れたら確かに入院してるって分かった」と松ちゃんが経緯を言う。

「えーっ、確かに私から皆に知らせてはいないけどさ、知らないって? そうかなぁ」泰子は学校から病院に直行してしまうので、寮の皆と話す機会も特にない。でも、多田さんが募金までしてくれたのだから、皆は知っていると思っていた。必ずしも全員が知ってるとは限らないけど、ちょっと不思議だ。

「おばさん、元気そうでオレ、安心した」と松ちゃんが和子に微笑む。

「ありがとう、そういえば寮の人でお見舞いに来てくれたのは多田さん以外では松ちゃんだけね、皆、気を使ってくれてるんだきっと」と和子は想像する。

「そう、オレ、気づかいなんかしねぇからな」と松ちゃんは自虐的に言う。

「ハハハッ、そうだね」泰子が笑った。

「泰子、多田さんだけじゃないけどね、いつも言ってるようにあんまり他人にお世話になっちゃだめよ。特にお金もらっちゃだめ、覚えといて」と和子は諭すように言う。

 東郷さんからお金を借りた件、母には分かるはずがない、でもなんとなく見透かされているようで、母の言葉がズシッと刺さる。


 日が暮れかかっている。泰子は帰り支度を始めた。

「泰子、タコスおごるから行こうぜ」松ちゃんが誘う。

「えっ、タコス? ハハハッ、悪いね」なんでみんなタコスなの? 私『タコス娘』かなぁ、と思いながら泰子はちょっと笑って受ける。

「松ちゃん、悪いわね、泰子、ハードタコが好きみたいだから」と和子が松ちゃんに泰子の好みを説明する。

「お母さん、私、特にそんな好みないよ。たまたま前に食べたのがハードタコだっただけ、決めつけないでよ」と泰子が少し反抗する。

「きょうは大工の棟梁から小遣いもらってるから『ふところ』温ったかいんだ。なんでもいいぜ」と松ちゃんは余裕を見せる。

「松ちゃん、ごはん食べてたら日が暮れちゃうからさ、今日あたりドブ板、ネイビー(米兵)でいっぱいじゃん、危ないから悪いけど泰子を寮まで送ってくれる」と和子が松ちゃんに頼む。

「あっ、いいよ、送ってくよ」松ちゃんは、にこりとして片手をあげる。

「松ちゃん、泰子をよろしく」和子が急に神妙な言い方に変わる。二人はビクッとして『気を付け』の姿勢になった。

 お母さん、わかってるのね。泰子は母の配慮がうれしい。


「今日は確かにネイビー多いな」食事が済んだ二人は手をつないでドブ板を通過する。空母が入港しているのだろう。普段の二、三倍の人出だ。

 相当に酔っぱらった米兵がフラフラと近寄ってきた。

「ビジン・サン ネ アーユー ボーイフレン?」と言いながら米兵が強引に松ちゃんから泰子の手を離そうとする。

「この野郎! てめえ!」大声をあげ、凄い形相で松ちゃんが米兵に殴りかかろうとする。相手はニメートル近い大男だ。

「ノーッ」二人のペアになってドブ板の警戒をしている米軍のSP(ショアパトロール員)が飛んできた。

「ソーリイ、ソーリイ」米兵は慌てて泰子から手を離す。ドブ板通りには大量にネイビーが出たときにはSPが増員される。警察官はほとんど姿を表さない。明確な傷害事件でも起きないかぎり日本の警察は動かないのだ。ドブ板の治安は基本的にSPに任されている。


「バカ野郎、おととい来い!」松ちゃんが米兵を蹴るしぐさをする。

 松ちゃんが守ってくれた。泰子はそれがすごく嬉しくて松ちゃんに体を寄せる。

「松ちゃん、提案、今日さ、お風呂入って行こう」

 沖縄寮へ上る石段より少し先に銭湯がある。泰子はさっぱりしてから寮に戻りたいのだ。

「うん、フフッ、このまえ、いきなりやっちゃったもんな」松ちゃんが笑う。

「私、恥ずかしかった。だからさぁ」泰子は下を向く。


「フーッ」松ちゃんは泰子が女湯から出てくるのをタバコをふかしながら待つ。もう七時、あたりは静かだ。

「ごめん、待たせた」泰子が髪を触りながら出てきた。

「湯冷めしちゃうから急ごうか」二人はすぐ寮にむかって歩き出した。

「泰子よう、おまえ進学どうなったの?」石段を上がりながら待つちゃんが尋ねる。

「あぁ、それね……あきらめた」

「そうか、お母さんがあれじゃな、やっぱ無理だよな……」

「それよりさぁ、松ちゃんの仕事はどうなの」泰子は話を逸らす。

「仕事は、あんまり変わんねえ。あいかわらず準備と片付けがほとんだよ。棟梁がまだなんにもやらしてくれねえ。でもよ、力はついたぞ、ほら、さわってみ」と松ちゃんが力こぶをつくる。

「どーれ」泰子は服の上から松ちゃんの力こぶを触ってみる。けっこうカチカチだ。

「すごーい、腕全体が太くなった感じね」泰子は松ちゃんがどんどん逞しくなってるのが自分の事のように嬉しい。


「ちょっと待って、おかあさんが入院してからカギかけるようになったの」沖縄寮の部屋に着いて泰子が古いカギをガチャガチャと開ける。

「いいわ、どうぞ入って」泰子が振り向くと、もう松ちゃんの目が座ってる。

「きゃっ」松ちゃんがすごい勢いで泰子を押し込んだ。そのまま押し倒す。

「ちょっ、ちょっと、松ちゃん、大丈夫だからさぁ」と泰子が押し戻す。

「ごめん」松ちゃんは我に返って、大いに照れた。

「やっぱ、布団、敷かなきゃね」

「はいっ」松ちゃんが神妙に正座して待つ。

 布団を敷きながら泰子のドキドキが強くなってきた。松ちゃんを見ると目をつぶって仏像のように背筋を伸ばして座っている。たぶん松ちゃんもドキドキしてるんだろうな。そう思って泰子は横向きに座り、ジリジリと松ちゃんに体を寄せてゆく。

 泰子の肩が当たってビクッとし、松ちゃんが目を開いた。

「泰子、好きだ」松ちゃんはそう言って泰子を抱きかかえながら唇を寄せる。

 泰子は答えようとしたが、唇をふさがれて「うん」としか言えない。体が密着するとドキドキはさらに高まり、松ちゃんのドキドキも伝わってくる。泰子は応えるように自分も松ちゃんの背中に手をまわして引き寄せる。――あっ、すごい――ゴツゴツした男の体の感触が心地よい。

 しばらくのキスの後、松ちゃんが力を抜いた。

「泰子、ちょっと立って」促されて泰子は立ち上がる。

「フフッ、服、脱ごうか」泰子は自分から誘う。もう恥ずかしくはない。松ちゃんが望むようにしたいのだ。

「お、おうっ、ちょっと待って」その言葉に松ちゃんは慌ててポケットからタバコの箱を取り出す。

「バサッ」ポケットから別の箱が畳に落ちた。

「あっ」松ちゃんがさらに慌ててその箱をポケットに戻す。

「それ、なに?」泰子に見られて松ちゃんは何とも言えない壊れた笑顔を返す。

「ん、これ、プレゼント……じゃないな、へへっ」――別に隠すことないじゃん。松ちゃんは思い直す。

「これ、薬局で買って来たんだ」と、取り出したのは、カラーコンドームだった。

 昭和三十五年、このころコンドームはまだ薬局でしか手に入らなかった。数年前に初めてカラーのコンドームが発売され、避妊用具がファッション化されたのである。

「新発売のカラーのやつ、三百円だったけど、まじめに必要じゃん」と松ちゃんは泰子に同意を促す。

「えー、どんなやつなの、カラーって、色つきなの?」と、とりあえず聞くが、泰子は松ちゃんが最大限自分に気を使ってくれていること自体がうれしい。

「フーッ」松ちゃんがタバコを大きくふかす。その前では泰子がスリップを脱ごうとしているところだ。

「ちょっとそのままでグルッと回ってよ」松ちゃんが注文をつける。

「えっ、いいよ」泰子がバレエの回転のようにきれいに回ってポーズをつけた。

「なんか踊れる?」

「じゃあ、モダンバレエのパートをちょっとね」といって泰子は口で曲を奏でながら踊ってみせた。スリップがひらひらして色っぽい。

「かわいい!」そう叫ぶと松ちゃんが飛びついてきて泰子を押し倒す。

 もう止まらない、転がりながら泰子はスリップを脱ぎ、下着も脱ぎ捨てた。松ちゃんが息を荒げて抱き付いてくる。

「アアッ」松ちゃんがキスをしながら泰子の胸をつかみ、乳首を刺激する。予想していた行為だが、泰子自身が期待していたせいか、すごく心地よい。自然に声が出る。

「起きて」松ちゃんが泰子を抱き起す。座ったまま松ちゃんは後ろに回り、キスをしながら胸をもむ。その手はだんだんと茂みの部分まで降りてきて止まった。

「わかる?」松ちゃんは熱く硬い物を泰子のおしりのあたりに押し付けた。

「うん」

 その言葉を合図に松ちゃんは泰子の茂みを探って指を溝に沿って滑らせる。

「アアアッ」指の当たり方で変わるが、敏感な所はさらに敏感になり、中心部のヌルヌル感が増している。

「見て」松ちゃんが体を離し、充血したそれを見せる。

「うん」泰子は目をそらさず見つめると全身がカアッと火照った感じになってきた。

「アレ、私が付けるの?」泰子はコンドームの付け方が分からない。

「オレ、自分で付けるから」と、松ちゃんは慣れた手つきで装着する。

「自分で付けてるとさ、なんか興奮が醒めてきちゃって緩くなっちゃうんだよな。だから次から泰子が付けてよ」と松ちゃんがニヤケながら言う。

「そうなんだ、分かった」

「泰子、ちょっとうつぶせになって」と、松ちゃんが促す。

「はい」泰子は布団にうつぶせになる。

「そのままおしり上げて」

「えー、やだ、恥ずかしいよ」泰子は真後ろから見られるのはさすがに恥ずかしい。

「恥ずかしくないよ」松ちゃんはそう言うと泰子のバックに回り込んだ。

「これ、女の子はすごく気持ちいいんだぞ」と言って松っちゃんが泰子の腰を押さえる。

「アーッ」泰子は大きな声を出してしまう。松ちゃんが入ってきた。

「アーッ、アーッ、アーッ」松っちゃんの動きに合わせて、どうしても声が出る。

「パタッ、パタッ、パタッ」リズミカルな音と周期的な刺激が泰子の肉体的な反応をどんどん上げてゆく。

「アア、アア、アアッ」肉体と感情が一緒になって大きな感覚が頭に抜けた。

「アーッ……」特別に大きな声をあげて泰子は頭が真っ白になるのを初めて体験した。体がしばらく波打つ。

「ハアッ、ハアッ」呼吸が荒いまま。しばらく動けない。

「気持ちよかった?」松っちゃんの言葉に意識が戻った。

「う、うん」泰子はかろうじて返事をする。

「じゃあ、こんどはオレが気持ちよくなる番だ」と、松ちゃんは泰子を仰向けに戻す。

「後だと顔が見えないじゃん。表情が見えないと男は気持ち入んないんだよ」と松っちゃんは正常位で入ってきた。

「アーッ」興奮状態が続いている泰子は、気持ちのままに声がでる。

 松ちゃんは覆いかぶさって泰子の両手首を掴む。強くキスをしながらゆっくり腰を動かす。

「ハッ、ハッ、ハッ」松っちゃんの呼吸が荒くなってきた。

 泰子も体と感情が同時にグーっと上がって、泣きそうな顔になってきた。松ちゃんはその顔を見ると、動きのピッチがさらに上がる。

「ハーアッ、ハーアッ、ハーアッ」呼吸はさらに荒くなる。

「アッ、アッ」泰子も呼吸が同期する。

「おおっ、おっ、おっ」腹の底から声を出し、松っちゃんが静止した。「アーッ」泰子は小さな声を出した。松っちゃんの熱い物を体の奥に感じたから。


「フーッ」松ちゃんが大きく煙を吐いた。

「よかった?」

「うん、この前より全然……」

「オレも……」

「ハハハッ、ハハハッ」二人は一緒に笑い出した。

 泰子はしばらく無言で天井を眺める。裸電球が満月のように黄色く光っている。天井の板を訳もなく数える。「アッ、大きい蜘蛛」天井の隅で蜘蛛が巣を張っている。

「疲れたね……」と小さく言って横の松っちゃんを見ると、もう寝入っている。泰子も知らないうちに眠りについた。

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