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ジュウニントイロ  作者: 御萩
第二話フジノヤマイ
8/14

フジノヤマイ #3優しい心で

***


目が覚める。


目覚まし時計のアラームがなる直前でぼくは起きる。


「よいしょっと…」


時間を見ると、朝9時にさしかかっている。

ぼくは身支度を整えて一階に向かう。


「おはよう、歩君。準備出来た?」


一階に下りると寺島さんが迎えてくれた。


「はい。今日はよろしくお願いします。」


ぼくはかるくあいさつをした後、テーブルに置いてあった茶封筒を手に取った。


「やあおはよう歩君。元気かな?」


振り返ると院長先生が話しかけていた。


「おはようございます、先生!おかげさまで今日は体調がいいです!」


ぼくがそう言うと院長先生はほほえみながら言う。


「それはよかった。……ところで歩君。」

「なんですか?」

「今日は、寺島君と出かけるのかな?」

「はい!ケーキ屋に行くんです!」


ぼくがそう言うと院長先生は言った。


「そうか、ならこれを持っていきなさい。」


そう言って院長先生が渡してきたのはー小さな紙袋だ。


「……ありがとうございます。でも、どうしてこれを……?」


ぼくは疑問に思い聞くが、院長先生は笑って答える。


「それは秘密だよ。さあ、楽しんでおいで!」


少し疑問が残るが、ぼくは今日の予定を目いっぱい楽しむことにした。


「はい!行ってきます!」


*


「忘れ物はない?」


寺島さんが荷物を確認するぼくを見て言う。


「……はい、大丈夫です!」

「なら、行こうか。」


ぼくは寺島さんと一緒に病院を出る。


「いい天気だね!こんな日はお散歩したくなっちゃうね!」


寺島さんが歩きながら言う。


「そうですね!あっ、あそこにリスがいる!」


ぼくが木を指さすと、寺島さんは笑う。


「ははっ、ほんとだ!可愛いね!」


リスはぼく達を見るなり、どこかへ走り去っていった。


「行っちゃった……」

「元気でいいじゃない!……いつか歩君もあんな風に走れるように、きっとなれるよ。」

「……はは……」


そんなことを寺島さんと話しながらぼくたちは街を歩く。少し歩くと商店街に入るが、今日はそこを通り抜けるらしい。

そのまま進んでいくと駅前の大通りに出た。


「あ、見えるかな?あれだよ!」


寺島さんが指差す方向には、『Cafe Florist』と看板のついた小さなお店があった。


「あそこにケーキ屋さんがあるんだよ!」

「へー!あんな駅前にあるんだ……すごいですね!」


ぼくが言うと寺島さんは言う。


「そうだね。あの店、ものすごく人気店なんだ!……さあ、着いたよ。」

「わあ!」


その店は外観からしてとてもオシャレだった。まるでどこかの国の宮殿のようだ。


「……お洒落だねぇ……」


そんな感想をこぼしながらぼくたちは店内に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませー!」


店内に入ると、店員さんが出迎えてくれた。

ぼくたちはケーキが入ったショーウィンドウの前に移動する。


ぼくはお父さんに渡されていた今月分のおこづかいを確認するため茶封筒を開ける。


「……1000円……か…。」


ぼくはただでさえ入院費でうちにあるお金も少ないだろうに1000円もおこづかいをくれたお父さんに感謝をしつつも、お金の少なさにいきどおりを感じた。


「どうしたの?歩君。その1000円札は君のものだから好きなものを買って構わないよ?」


「いえ、1000円だけだと翔、寺島さん、院長先生の3人分を買うのにはこの480円のショートケーキでも買えないなぁ…って。すみません。せっかく連れてきていただいたのに……」


「3人分って……自分をいれてないじゃん。折角ケーキ屋さんに来たのに、自分の分はいいの?」


「えっ?だって、いつもお世話になっている皆さんの分から決めないとお金なくなっちゃいません?」


いきなり何を言ってるのだろう。寺島さんは。

ぼくが返すと寺島さんは突ぜんみけんを手でおさえて言った。


「……ごめんごめん。少し試させてもらったよ。まさか君がこんなにも他の人の事を想っている人だったとは……。子供なのに偉いね。お姉さん、少しウルッときちゃったよ。……さっき院長先生から貰った袋を開けてごらん。」


ぼくは言われるがままに袋を開ける。


「……えっ!?これ、10000円札じゃないですか!どうして!?」

「院長先生からのサプライズだってよ。これで好きなケーキを買いなってさ。それに…」


「明日は君の8歳の誕生日でしょ?余ったお金で好きなものを買って欲しいんだって。」

「あっ……」


ぼくは明日が自分の誕生日であることを思い出す。


「院長先生から伝言、『誕生日おめでとう』だって。」


ぼくは泣きそうになるのをこらえて、言った。


「ありがとうございます!」


*


ぼくたちは翔、院長先生、寺島さん、…そして自分の分のケーキと、本を買って大通りを出る。


「本なんかで良かったの?別に、歩君の趣味を否定するわけではないけれど、折角の誕生日ならもっと高いもの買っても良かったのに。」


「いえ、ぼく本読むのが好きですし、あまり高いもの買ったら院長先生にお返しする分がなくなっちゃうので。」


それにーと言葉がもれそうになるが口をつぐんだ。


『もう長くは生きられない』なんて言って寺島さんや院長先生にめいわくはかけたくない。


「もう……!本当に、いい子なんだから……!」


寺島さんはなぜか少し涙ぐんでいたが、ぼくは特に気にせず、ぼくたちは病院にゆっくり歩いて帰ってった。


「おかえり。歩君。…好きなものは買えたかな?」

「院長先生!…はい、おかげさまで。お金、ありがとうございました!こちら残った分と院長先生の分のケーキです!」


ぼくはおつりとケーキの入った袋を手渡す。


「私にかい?……嬉しいね。ありがとう。」


院長先生はそう言って受け取り、軽く頭を下げた。


「じゃあ、院長先生。私はこれで失礼します。」


寺島さんが言うと院長先生は少しほほえんで返す。


「ああ……今日はありがとう。歩君とのデートは楽しかったかい?」

「えっ?デッ⁉」


いきなりの発言にぼくは変な声をだすが、寺島さんは笑って答えた。


「はい!とても楽しかったです!歩君。今日は一日、ありがとね。」


そう言って、寺島さんは職員室に帰った。


「歩君。今日はどうだった?」


院長先生がぼくに聞く。


ぼくは少し考えるまでもなく答えた。


「とっても楽しかったです!今日はありがとうございました!」


***


昼食を終え、ベッドの上でさっき買った本を開く。


「本当に、良い一日だったな……」


ぼくが呟いた時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ?」


ぼくが言うとドアが開き、寺島さんが入ってくる。


「やっほー!歩君!」

「あっ、こんにちは。……どうしたんですか?」


寺島さんはぼくに少しいたずらっぽい笑みを浮かべると言った。


「はいこれ、私からのプレゼントだよ!」


そう言って渡されたのは小さな小びんだ。


「ありがとうございます!……これは?」


ぼくは疑問に思い、聞く。

すると、寺島さんは答える。


「その小瓶が私からのプレゼントだよ!……ほら、よく見て?」


ぼくは言われるがままに小びんを覗き込む。


「これ、『忘れじの砂』じゃないですか!」


それはぼくの好きな小説に登場するアイテムの一つだ。孤独な魔王が死ぬ前にできた唯一の親友に自分を忘れないで欲しいって願いをこめて自分自身を砂に変えた、ってものだったかな。


「そう!歩君ならきっと喜んでくれると思ってね!」

「本当にありがとうございます!大切にしますね!」


ぼくは寺島さんにお礼を言う。


「…そういえば歩君はケーキ、まだ食べなくていいの?」

「はい。翔が来たら二人で食べようと思っていたので…。」

「そっか……じゃあ、冷蔵庫に入れておくね!」


寺島さんは二人分のケーキを備え付けの冷蔵庫に入れてくれた。


「ありがとうございます。」

「んじゃ、私は仕事があるから下に行くけど何かあったらすぐに呼んでね。」


そう言って、寺島さんは部屋を出ていった。


ガタッ


寺島さんがいなくなったとたん、窓の方から音がした。


何かと思って振り返ると、イロさんがいた。


「あーけーてー」

「分かりましたよ。よっこら…せっと。」


ぼくはベッドから降りて窓を開ける。


「どうしたんですか?前みたいにすり抜ければいいのに。」

「実体化してると何かに触れたりできるようになる分、普通の人みたく物理的干渉を受けるようになるからねーーはい、これ。」


そう言ってイロさんは何かを取り出した。ーこれは、花?

イロさんはぎ問に思うぼくをよそに鮮やかなオレンジ色の花を片手に続ける。


「…誕生日、おめでとう。……前にとても花を大切にしていた友人がいてね。その時に花の美しさとか、花の生息地とか色々教えてもらったんだ。」


イロさんはどこか悲しげに話す。


「……この花はカランコエ。花言葉は『幸福を告げる』。…ごめんね。こんなものしか用意できなくて。」


「そんなことないですよ。…ありがとうございます。大切にします。」


ぼくはイロさんから花を受け取り、頭をさげる。


「喜んでくれてよかった。」


イロさんはそう言った後、どこか遠い空を見上げていた。


「……?」


*


それからしばらく本を読み、時刻は3時半にさしかかった。


「……『魔王と友達』………ねぇ………。歩君はこの本のどこが好きになったのかな。」


隣でたなにあるぼくの小説を読みながらイロさんはぼくに聞いた。


「全部読みました?…ぼくはやっぱり、ラストでこれまで残ぎゃく非道の限りを尽くしてきた魔王がその罪を悔いながらも、親友に自分を忘れないでいて欲しい、って人間らしさを出して砂となるシーンですかね。……うまく言葉に出来なくてすみません。」


「……残虐非道………ね…………。」


そんな話をしているとタッタッタとろう下を走る音が聞こえ始めた。


ダァン


「あーゆーむー!たんじょーび、おめでとー!」

「ちょっと⁉もう少しゆっくり歩きなさいよ!せっかく折ったのに壊れちゃうじゃない!」

「……翔、いいかげんドアの開け方を覚えてくれないかな。……って、愛梨あいりちゃん⁉何しに来たの⁉」


ドアをけ破って入ってきたのは翔と、ぼくのクラスメートである愛梨ちゃんだった。


「いやさー、今日歩のたんじょーびじゃん?みんなで何かあげられねーかなーって、千ばづる?をクラスみんなで折ったんだ!歩のびょーきが早くよくなりますよーにってな!」


二人は千羽鶴をぼくに手渡す。


「私はただの付きそいよ。コイツ一人に任せたら色々危ないしね。学級委員であるこの私が来てやったんだから感しゃなさい!」

「よくゆーぜー。あんなに行きたい行きたい言ってたくせによー。」

「ちょっ、ちょっと!それは言わない約束でしょ!」


愛梨ちゃんは顔を真っ赤にしながら翔をポコポコとたたく。


「………二人とも、ありがとう!クラスのみんなにも、ぼくのために千羽鶴折ってくれてありがとうってぼくが言ってたこと、伝えてくれるかな?」


「もちろんだぜ!」

「当然よ。」


翔と愛梨ちゃんはそろって答えた。


もらった千羽鶴を見ると、その数は折り紙の限界をこえていた。紙が千切れていたりするものや折り方がつたないものも多かったが、みんなの心遣いはしっかりと伝わってくるものだった。


「……本当にありがとね……みんな。」


ぼくは二人に向かって改めてお礼を伝える。


「おうよ!」

「……ふん。」


二人は笑顔で返事を返す。

ぼくは本当に、本当にいい友達にめぐまれたなぁ………。


………………………………………………


「そうだ、二人とも。せっかく来てくれたんだし、何か食べる?」


ぼくはそう言いながら冷蔵庫から二人分・・・のケーキを取り出す。


「え、いいの?」

「いつもありがとなー!歩!オレたちの分まで用意してくれてよー!」


二人はそう言いながらケーキを受け取る。


「…じゃ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。ありがとね。」


愛梨ちゃんはぼくにお礼を言ってケーキをパクパクと食べ始める。


「……おい、歩の分は?」

「…ぼくはもう食べちゃったからね。そのケーキ、とっても美味しいから早く食べてみなよ!」

「……そ、そうか。」


翔はぼくに言われるがままにケーキを食べ始める。


「うまっ!これスッゲーうまっ!」

「ホント甘くておいしいわね!このケーキ!」


そんな二人の様子を見てぼくは安心して息をいた。


「……歩君はよかったの?自分の分まで二人にあげちゃってさ。」


ずっと横で見ていたイロさんが突然口をはさむ。


「…………別にいいでしょ、そんなこと。…ぼくはどちらか片方にしかあげない、なんてマネはしたくない。」


ぼくはイロさんにしか聞こえないぐらいの声で返す。


「……そう。キミがいいと思うなら、僕もいいと思うよ。ただー」

「その場を凌ぐだけのためのウソは、いつか対価を払う時が来る。…たとえ良かれと思ってやったことでもね……。」


イロさんはそう言って再び本を読み始める。


「…………」


*


二人がケーキを食べ終えると、今度は学校の話になった。


「…でさー、そん時先生なんて言ったと思う!?『コ、コノ漢字辞典はオカシイ!ワタシのイウコトをキキナサーイ!』だぜ!?さすがにそれはないだろ!って愛梨と二人でつっこんだんだよなー!」


「ホントよね!……まぁ、それを真に受けた私たちも私たちなのだけれど……。」


翔はいつものようにまくしたて、愛梨ちゃんは少し反省をしながらも笑う。


「……あははっ」


そんな二人を見てぼくも自然と笑みがこぼれる。


「おっ!歩が笑ったぞー!」


翔はそう言うとぼくの頭をわしゃわしゃとなでる。


「ちょっ、ちょっと!やめてよ!」


ぼくは少し抵抗するも、翔の勢いには勝てなかった。


「……でも、よかった。……本当に良かった……!」


そんなぼくたちを見て愛梨ちゃんは涙ぐむ。


「あ、愛梨ちゃん?どうしたの?」

「歩君が思ってたより元気そうでよかったわ!先生の話だと、歩君、ずっと部屋で寝てたみたいだったから……!」


ぼくが聞くと愛梨ちゃんは涙をぬぐいながら答えた。


「……うん、大丈夫。もう少しで病院も出られそうだよ。」


ぼくは愛梨ちゃんの目を見ずに答えた。


「そーかー。歩ももうすぐ退院かー!」


翔はそう言ってまたぼくわしゃわしゃとなでる。


「あいりー、よかったな!また歩といっしょに学校行けるぜ!」

「…………はっ!」


愛梨ちゃんは何かに気付いた後、全力で顔を真っ赤にしながら翔をポコポコたたく。


「も、もう!あんたなんでそういう……!……ああもう!とっとと退院しなさいよね!バカー!!」


愛梨ちゃんは翔をポコポコとたたき続けながら叫んだ。


「いてててて!そろそろいいだろ!?かんべんしてくれよ!」

「いいから!ほら、そろそろ帰るわよ!これ以上お邪魔するわけにもいかないし!」


時計を見ると5時を過ぎていた。

もうこんな時間か…。


「あ、そっか。ありがとな!歩!今日は楽しかったぜ!」


そう言って二人は病室から出ようとする。


「うん、こちらこそ。」


そんな二人にぼくはお礼を言う。


「……なんかさ、歩が笑うところ久々に見た気がするよ。」


さりぎわに翔が言う。


「え?」

「……今までずっと暗い顔してたからさ、オレもどう接していいのかわかんなくてな。……だから今日は本当に良かったぜ!あらためて、お誕生日おめでとうな!愛梨も良かったな!」


翔はぼくにそう言って愛梨ちゃんに連行される。

…ほんと、今日はありがとね。


「…まったく…!かーけーるー!アンタはほんと、どこまで人をおちょくれば…あたっ!」


愛梨ちゃんがドアを開けるより先に向こうからドアが開いた。


「あら、ごめんね。…って愛梨ちゃんじゃん!久しぶりー!」


ドアの向こうから出てきた寺島さんが愛梨ちゃんに軽くしゃざいする。


「あっ、お久しぶりです!寺島さん!」


愛梨ちゃんはぺこりと頭を下げる。


「……で、歩君は元気?……って、あれ?なんか顔赤くない?」


寺島さんがぼくの顔をまじまじと見る。……え!?なんで!?


「そっ、そんなことないですよ!?」


ぼくはあわてて否定するが、顔が赤いのは自分でもわかっていた。

そんなぼくを愛梨ちゃんがじーっと見つめる。


「……ふーん。まあいいや。」


寺島さんはくるっと部屋を見回して、言った。


「あ!ケーキ食べたのね!二人とも、やっぱりあのショートケーキの苺、絶品だったと思わない⁉︎」

「いちごかー。けっこうジューシーでうまかったなー。」


翔が寺島さんに同意する。


「はい、私もそう思います。」


翔に続いて愛梨ちゃんも同意する。……してしまった。


「えっ?」

「え?」

「私は歩君と翔君に言ったつもりだったのだけど……!!」


そこまで言いかけて寺島さんは気づき、口を押さえる。ーしかし、


「どういうことだ?歩。」


いち早く翔が言及する。


「お前、さっきもうケーキ食ったって言ってたよな?」

「………。」

「オレらがさっき食ったケーキ、お前は食ってないのか?」

「…………。」

「……なんで言ってくれなかったんだよ!歩!」


翔は怒りながらぼくに叫ぶ。


「ごめん……。」

「ごめんじゃねーよ!お前、誕生日だろ!?何で自分が!食べないんだよ!」

「……そういうわけじゃないんだ。ただ……」


ぼくもここで自分が言おうとしている事に気づき、口をおさえる。がー


「…私の、せい?」


遅かった。


愛梨ちゃんは目に涙をうかべながらぼくを見つめる。


「ち、違うよ!愛梨ちゃんのせいじゃない!」


僕は必死に否定する。ーが、再び翔が追及する。


「…歩。お前が言ってくれればオレはケーキなんか、ぜんぜんいらなかったのによ…。」


その言葉にカッとなり、翔に言い返す。


「だから!そういうんじゃないって言ってるだろ!?」

「じゃあなんだって言うんだよ!」


翔の叫び声が病室に響きわたる。


「じゃあぼくがケーキのこと、黙ってあとで一人で食べればよかったのか!?」


「ちげえよ!いつも自分ばかり不幸になる選択をして!たまにはオレを頼れって言ってんだよ!オレたち、親友だろ!?」


「そうだよ!親友だからこそ、翔にはケーキを食べてもらいたい!そして、自分たちだけ食べながら、愛梨ちゃんは見つめるだけになるって選択はぼくには出来ない!」


「だったらなんで相談してくれなかったんだよ!」


翔が必死に叫ぶ。


「だから、いつも言ってるだろ!ぼくは君と親友でいたいからー」


ぼくもそれに全力で答えようとする。


しかし、翔との言い合いに夢中でさっき口走った言葉の重さを自分でも理解出来ていなかったー


「…やっぱり、私のせい、なんだね。私が勝手に、来ちゃったから、ケーキの数が足りなくなっちゃった、んだよね。」


見ると、愛梨ちゃんがボロボロ涙をこぼしていた。


「ちが、そんなんじゃ!ー」

「ごめんね。私なんて、来なきゃよかったのにー」


愛梨ちゃんは寺島さんを押しのけ、ろう下を走って帰っていった。


「…何で、そんなに怒るんだよ。ぼくはキミを想ってケーキをゆずったのに。」

「…そう思うのが自分だけだと、思うなよ。」


翔もドアに向き直り、愛梨ちゃんを追って翔けていった。


「…ごめんね。私がケーキの事、言わなければ……」


寺島さんも泣きながら、ぼくに言った。


長い嫌な沈黙がぼくたちを包み、夜へといざなった。

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