ジコマンゾク #5自己満足な結末
***
「………」
俺は天使の話を黙って聞いていた。
「…彼女は会社でのキミを自分と重ねてたのかな。キミに部長を押し付けた事に責任を感じてたみたいだけど、その分部長の事に関して相談に乗ろうとしてたみたい。」
天使は俺のポケットからスマホを取り出す。
『恭弥君、さっきはああ言ってたけど大丈夫?部長の事。何か悩みがあるならいつでも相談してね!』
…5時間前に宮川からLINEが届いていた。
「……クソッ!!!」
クソッ、クソッ、クソッ!
宮川はずっと悩んでいたんだろう。
俺に対して敬語をとらせたのも今思えば彼女の自己肯定感の低さ、自分への罪悪感からだろう。
名前で呼ぶように促したのも、家族を嫌っていたからだろう。
…ずっと部長と一緒にいて、精神的に限界だったのだろう。
「…相談するべきは自分だろ。何で一人で抱え込むんだよ…鈴…」
俺は彼女の痛みに気づけなかった自分を責めた。
4年間も一緒にいて彼女に好意しか向けられなかった自分を責めた。
いくらそんな事をしたってもう意味が無い事を受け入れられない自分を、責めた。
「……何で今更話すんだよ。彼女の望み、分かっていながら。」
「…僕がそれを話すことでキミは何をするか、分からないとでも?」
「……そうであって欲しかったよ。」
それなら、俺の身勝手で済んだ。
「…ただの自己満足、さ。彼が生きていることが受け入れられない僕自身への、ね。」
「…ありがとう、イロ。……願いを、言うぞ。」
俺は一人の少年に願いを告げた。
***
午前8時50分、田村が出社する。
昨夜あんな事があったのによく来れるもんだなと俺は内心思う。
午前10時23分、俺は田村に呼び出される。
「赤井君、ここの書類の三行目だがーー」
直後、俺は右手からナイフを生やし、奴の腹部に深々と刺す。
ドスッ
肉をかき分ける感触が掌の先にある刃先から伝わってくる。
ーキャー!ー
ー何だ⁉ー
俺は周りから聞こえる悲鳴を気にせず、刺した勢いのまま、窓から押し出した。
ー確実に、殺すー
鈴のためにも。
「死ね。」
俺は深々とナイフを押し込み、そのまま奴とともに地に落ちた。
***
「…僕が彼女にかける言葉が違ってたら、何か変わってたのかな。」
一人、上空に佇む天使は言う。
「結局、僕も彼も自己満足のために田村を殺した。…でも間違ってたとは思わないよ。約束を守るには田村は危険すぎる。」
地上で騒ぎが起こり始める。
「キミは幸せになれない運命だったのかな。…ヤキョウ。」
誰にも聞かれる事は無い独り言を呟き、少年は約束を果たすために飛び立った。
第一話はこの話で終わりになります。ご精読ありがとうございました。
第二話以降も以前のように掲載しなおす予定ですので待っていただければ幸いです。