タベルモノ #1ぷろろーぐ
第三話であるタベルモノはここから始まります。
第三話は滅びてしまった世界で出会った少年とのお話を天使の視点からお送りします。
また、第三話なので作品全体の世界観や設定の説明は大分少なめになると思いますのでご了承願います。
それではご覧ください!
僕は胸元のペンダントを開いて、目の前の少年に言う。
「…さあ、キミの願いを、言いな。」
少年はちらりと視線を動かす。
少年が視線を向けた先を見ると、もう一人全身黒づくめで今にも死にそうな小柄な子がいる。
少年は弟から僕に向き直り、言った。
「…俺の命。そんなもので弟の空腹を満たせるのなら、残りの寿命なんて、くれてやる。だから、こいつが今後食うに困らないだけの飯を、出してくれ。」
少年が願いを告げるとペンダントが白く光り輝く。
それと同時に、無から大量の食べ物が降ってくる。
「……うっ………!」
願いを告げた少年はその場に倒れ伏した。
「…………!」
大量の食べ物を見た弟は、鷲掴みにしてガツガツと食べ始める。
「………キミの兄さんの願いだ。キミが叶えてやりな。」
僕は小さく呟いてその場を後にしようとした。その時ー
「…ありがとう!しろいおにいちゃん!」
少年が、明らかに僕に向かって、お礼を言った。
「…………………………。」
僕は羽ばたこうとしている翼を引っ込め、少年の方に向き直る。
ー…運命は、残酷だなー
「…こんにちは、小さな少年君。僕は天使。寿命と代償に願いを叶える存在さ。」
僕は、目の前の余命僅かな少年に、自分の存在を、告げた。
***
「てんし!」
少年は、目を輝かせている。
「そう、天使。…キミの兄さんはね、自分の残りの寿命を代償に願いを叶えてもらったんだ。」
伝えるべきか迷ったが、何も知らないで一人にするのはあまりに酷だと思い、僕はそれを口にする。
「じゅみょう?」
不思議そうな顔をして少年は聞く。僕は少年の方を向いて続ける。
「……それはね、キミが残りの人生、もう二度とご飯が食べられない日は来ないようにする、というものだよ。」
「ごはん!」
少年は、際限なく湧き出る食べ物の山を見て目を輝かせている。
「そう、ご飯。キミはこれからずっと、もう二度とお腹が空くことは無くなるんだ。」
僕は少年に優しく語りかける。
少年の食べるのを眺めながら、先程この子の兄が伝えた願いで明らかにおかしかった部分を頭の中でまとめる。
本来ならこの弟が未来永劫飢えることが無いようにして欲しい、なんて願いを叶えるには寿命一週間ではとても叶えられる願いでは無いはずだ。
それでも願いが叶ったということは、この子に残された寿命が非常に少ない事になる。
この子の死因は餓死では無い。ならば、何故ー?
僕の脳裏に、花束を抱えて幸せそうに笑う青髪の青年が映る。
『天使サマ!イロサマ!!私ニそのお姿ヲお見せ下さり、本当ニー』
…もう、これ以上見てみぬふりはしたく無い。この子の死の運命を、回避させないと。
「ごちそうさま!」
少年がお腹を膨らませ、満足そうに言った。
僕は残った食べ物を消して少年に話す。
「…さて、改めて僕は天使。僕が見えるということは…残念だけどキミは一週間以内に死ぬことになるね。」
「し?」
少年は無垢な瞳でこちらを見つめる。
「…あー……。だけど、幸運にも僕を見つけられたキミは、残りの寿命を代償に何でも願いを叶えることが出来る。それにー」
脳裏に青髪の青年の最期が蘇り、過去の自分の愚かさを深く感じ取る。
同時にこの子からは絶対に目を離したりはしないという覚悟を決める。
「ーキミの事は僕が守る。絶対に、死なせたりしない。」
「しぬって、いたいの?」
「んー、そうだな……。キミは、痛いのは嫌かい?」
僕がそう聞くと、少年は少し考える素振りを見せてから答えた。
「……やだ!」
「そうだね?僕も痛いのは嫌。そもそも痛覚を享受できる人間なんて、もうこの世にはいやしないさ。…………だから、キミが痛くならないよう僕が守るよ。」
僕は少年の頭にポンと手を置いて言う。
「まもる?」
「そうさな……例えばー」
僕は背中にある翼を大きく広げて見せながら言う。
「この翼で、キミは空を飛ぶことが出来る。これさえあれば地上の些細な危険なんてひとっとびさ。」
途端に少年は目を輝かせる。
「おそら!とびたい!」
僕はあたりの景色を見渡し、言った。
「ならさ、今飛んでみる?…この荒れ果てた世界じゃ、あまり良い気分では無いと思うけど……。」
「とびたい!」
「…分かった。危ないから、しっかりつかまっててね。」
「うん!」
少年は僕の手を取り、空へ飛び立ったー。
***
バササッ
「わああ……!!」
少年は、空から見える果てしなく世界に感動した様子で言った。
「……どう?空を飛ぶ気分は楽しいかな。」
「うん!きもちいい!」
「……そうかい。それは良かった。」
僕は少年に微笑むと、スピード上げた。
「わあっ!?」
「さあ、しっかり掴まりな。」
「……うん!」
少年は決して僕の手を離さまいと、ぎゅっと力を込めて握った。
「わああ……!!」
少年の喜ぶ声を聴きながら僕は翼を羽ばたかせる。辛い世界を生きてきたこの少年にとって、少しでも
良い思い出になればいいなと思いながらー
「てんししゃん!あれ、なあに?」
少年は遠くの方の空で渦を巻いている雲を指さして言った。
「ん?あれは……竜巻、だね。」
僕は少年の指さした方向を見て言う。
ーかなり大きいな。この子の安全を考えてもあまり近づくのは良くなさそうだ。ー
「たつまき?」
「うん。…まあ簡単に言えば大きな風だよ。」
「おおきいかぜ!」
少年は目をキラキラさせる。
「……気になるかい?」
僕が聞くと、勇気ある少年は大きく頷く。
…あまり得策ではないと思うけど……でも、この子が望んでいるのならば…
「……よし、なら行ってみるか!」
僕は少年をしっかりと抱きかかえ、渦の中へと飛び込んだ。
ゴオオオオオオ
竜巻の風圧は強く、僕は吹き飛ばされないように必死に羽ばたく。
「うわあああああ!すごいいいいいいいい!」
少年は楽しそうにはしゃいでいる。
「危ないから、あんまり暴れちゃだめだよ。」
僕は少年に言う。
「うんんんんんんん!」
少年は頷いてぎゅっと僕に掴まる。……が、楽しくなってきたのかまた体が揺れ始める。
「わああああ!あはははああああっ!!」
「……全く、しょうがないなあ……。」
僕は少年の体を支えながら、竜巻の中を飛び続ける。
「そおれ、行くよ!」
僕は竜巻の中心に行き、そこから上空めがけて真上に飛び上がる。
「えれれえれえれれれえれれえええ!!」
ギュンと素早い音とともに僕達は竜巻から脱出する。
「……ハァ………ハァ……」
流石に疲れたのか少年が息切れしているのが聞こえる。
「どう?楽しかったかな?」
しかし、僕が少年に聞くとすぐにー
「…うん!」
と、元気な返事が返ってきた。
その後、僕達は雲の上の景色を眩く光り輝く太陽の光を背に、時間を忘れて飛び回った。
***
夕陽がチリチリと背中を焼く頃、遊び疲れた僕達は地上に降り立った。
「……楽しかったかな。」
僕が少年に言うと、少年は満面の笑みで答える。
「うん!」
そのあまりにも眩しい笑みにー
『ありがとうな!イロ!お前のおかげでー』
緑の瞳の彼女が重なる。
…………………
僕は、不安のあまりに聞いてしまう。
「……キミは、まだ生きていたいって、思っているかな。」
「……?」
少年は不思議そうに僕を見つめて言う。
「てんしさんといると、たのしい!だから、かおる、まだまだいっしょにあそびたい!!」
……なんて純粋な子なんだろう。
なんて、明るい子なんだろう。
その満面の笑顔からは数時間前に兄を失った悲しみなんて微塵も感じられない。
………………………………
…僕のために尽くしてくれた、あの二人を、失敗とは言いたくないけど。あの二人の経験から得たものを使って、絶対にこの笑顔を守り抜きたい。
…ブランダ……由那………そして、ヤキョウ………
今度こそ、守ってみせるよ。
「…そうかな。それは良かった。」
僕はカオルと名乗る少年に微笑みを返す。
「にぃにもどう!?かおるまだてんしさんとあそびたい!」
カオルは後ろを振り返って、ある事に気づいた。
「…にぃにがいない!!!!??」
………今?
え、さっきまでずっと二人だったじゃん。
今更気付いたのかい。
「にぃにー!!どこー!?」
不安げに辺りをキョロキョロ見渡すカオルを見て、考えを改める。
…いや、きっと気付きたくなかったんだろうな。兄が死んだ事実を心が受け止め切れず、潜在意識のようなものがきっと記憶を排除したんだろう。
「てんしさん!どうしよう……。にぃに、まいごになっちゃった………。」
今にも泣き出しそうな目でカオルはこちらを見つめてくる。
……………………………………………
「…そうだね。キミの兄さんはどこかで迷子のキミを探しているかもしれない。」
「そんな!いそいでさがさないと!」
「待って!…今日はもう遅いし、明日から一緒にお兄さんを探そう。」
「…でも、でも!」
迷う少年に僕は告げる。
「…きっとキミのお兄さんも同じ気持ちでカオルの事、とても心配してると思う。だから、こんな暗くて危ない時間には探しにきて欲しくは無いんじゃないかな?」
「……うぅ…」
「だから、明日明るくなってから、僕と一緒に探そう。ね?」
「…うん…わかった…」
カオルはしょんぼりして言った。
「ほら、今日はもうご飯食べて寝て、明日早く起きて探しに行こう。」
僕はカオルの兄の願いの力を使ってハンバーガーを生成する。
「…はんばーがー……!……うん!かおる、ごはんたべてねる!」
カオルはハンバーガーにかぶり付き、ムシャムシャと食べ始めた。
***
その日の夜、スヤスヤと眠るカオルの横で僕は憂鬱な気持ちになっていた。
「…なんで、嘘なんかついたんだ……。この子の兄は、もうこの世にいないのに……」
希望なんか持たせても、絶望しかないのなら早く真実を伝えてあげるべきじゃないのか?
…いや、理由は分かっていたはずだ。
先日の大地震で荒れ果ててしまったこの土地で、子供たった二人でさまよっていたという事はもう、恐らくはそういう事なんだろう。
そんな時に兄が死んだとこの子が知ったらどうなる?
一度潜在意識が完全に拒絶した事実を、この子が受け止め切れるはずがない。『死』の概念を知ればこの子も後を追ってしまうかもしれない。
…いや、僕が見えている以上遅かれ早かれそうなる運命だったのだろう。
そんな事、僕がさせない。
もう、目の前から大切な人が消えていくのを黙ってみていることも、騙されて無慈悲に笑うことも、もう二度としない。
それが、命を賭して僕に教えてくれた彼らに出来る僕の、唯一の贖罪だから。
…それでもー
「…ごめんね。」
この子には叶わない希望を持たせてしまうことになる。
それがどんなに罪深いことか分かっていても、僕はそれを破ることは出来なかった。
僕はカオルに呟き、明日に備えて羽根を折り畳んで休息を取り始める。
…もういないこの子の兄を、永遠に探し続けるために。
いかがでしたか?
お話のストックがここで尽きてしまったので次のお話からは大分ゆっくりな投稿頻度になると思いますが、待ってていただければ幸いです。
では、またいつか。




