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ジュウニントイロ  作者: 御萩
第二話フジノヤマイ
10/14

フジノヤマイ #5叶えたかった夢

***


目を覚ます。


昨夜の就寝時間から予測するに、大体10時ぐらいだろうか。


…ずいぶん遅い時間になってしまったけど早く謝りにいかないと。


そんなことを思いながら体を起こすため、腹筋に力を入れる。


「…?」


足に違和感を感じ、視線を下へと向ける。


「……愛梨ちゃん!?」


見ると、愛梨ちゃんがぼくのひざ元で顔をうずくめていた。


「……歩…?」


愛梨ちゃんはぼくが起きたことに気付いたのか、顔を上げる。


「…歩!ごべんなさい!昨日、わだしがゲーキ、食べぢゃったがらぁ!歩の分がなぐなっでぇ!それで翔も怒っちゃっでぇ!」


愛梨ちゃんは起床早々にぼくに泣きながら謝り続ける。

ぼくは驚きながらもまだ眠っている頭を起こし、言うべきことを告げる。


「待って!愛梨ちゃん!」

「歩……?」

 昨夜、川渡さんに言われたことを一言一句思い出しながら、愛梨ちゃんに話す。


「……ぼくの方こそ、君たち二人に黙ってケーキを譲って、ごめん。…ぼくは自分がぎせいになって二人が幸せならそれでいいと思ってたけど、それで残された二人がどう思うかなんて、考えたことがなかった。だから、これまで本当に、ごめんなさい。」


ぼくはこれまでの自分の行いを反省し、目の前の愛梨ちゃんに頭を下げる。


「………………」


愛梨ちゃんはあっけにとられて、ボーっとぼくを見つめている。


「……私のごと、怒ってないの……?」

「…そんなわけー」


愛梨ちゃんはガバッとぼくを抱きしめた。


「うわっ!」

「ぼんどうにぃ!本どうにごめんなざいぃ!」


愛梨ちゃんはわんわん泣きながら何度も謝る。

その姿を見ていると、ぼくは本当に友達に恵まれていたんだなと常々思う。


「……ありがとう。ぼくの方こそ、ごめんね。……ほら、そんなに泣いてると目がはれちゃうよ。」

ぼくは優しく頭をなでた。


*


しばらくして、愛梨ちゃんは少し収まって、言った。


「…昨日のケーキ、『Cafe Florist』のものでしょ?その体で、そんなとこまで………」


愛梨ちゃんはベッドから降りて、冷蔵庫からゴソゴソと何かを取り出す。


「…本当に、昨日はごめんなさい。…今度は三人で一緒に、ケーキ、食べよ?」


愛梨ちゃんは、3つ入ったケーキの袋を、ぼくの前に置いた。

それを見ると、ぼくも自然と涙がこみ上げてくる。


「……ありがとう。」


ぼくは、涙でぐちゃぐちゃの顔で、せいいっぱい笑った。


「…そういえば、翔は?」


愛梨ちゃんは答える。


「…翔は歩に言ったことをそうとう気にしてたみたいで、『歩、四つ葉のクローバーぐらいで許してくれるかなあ…。でも、オレが歩にしてやれることはこれしかねぇしな…。』とか言って、今朝から四つ葉を探してるみたい。」


「…翔らしいね。ぼくからも、何かー」


ダァン


突然、寺島さんが部屋にかけこんできて言った。


「歩君!愛梨ちゃん!…翔君が……!」


*


一目散に一階にかけ下りると、救急車から担架で担ぎ下ろされる翔の姿が目に入った。


「翔!!」


呼びかけるが、返事はない。

人の波を押しのけ、翔のそばによる。


「!!………」


近くに来て目を疑った。


本来あるはずの右足が、無い。


ダッダッダッ


続いてかけ下りた愛梨ちゃんも言葉を失う。


「嘘!?翔……!!」


愛梨ちゃんが膝から崩れ落ちる。

ぼくは担架を運ぶ院長先生に声をかける。


「院長先生!翔は、助かるんですよね!!」


院長先生は切羽詰まった表情で答える。


「…おそらく、命に別状はない。処置さえ正常に完了すれば死ぬようなことはないだろう。しかし…」


命は助かると聞いて一瞬安堵したが、院長先生の表情が一層険しくなるのを見てさらに不安が心を覆う。


「……この怪我では、義足を付けざるを得なくなるだろう。……これまで通りの日常を送ることは困難になるだろうな。」


院長先生の重い言葉に、ぼくは目の前が暗くなる。


「…そんな!!……翔!しっかりして!!」


ぼくは必死に呼びかけるが、やはり反応はない。


「……歩、くん。」


院長先生はぼくをまっすぐ見つめると、言った。


「私は今から翔君の処置に入る。……その間、………外で無事を祈っていてくれ。」


院長先生は翔を連れて集中治療室に入った。


「…翔!翔!!」


ぼくは翔の名を必死に叫ぶ。


これまでずっとサッカーを頑張ってきて、誰よりも努力してきたのに、こんな形で夢を失うなんて、そんなの、あんまりじゃないか。


なんで、神様は夢を奪っていくんだ。


ドサッ


見ると、後ろで愛梨ちゃんが膝から崩れ落ちていた。


「私だ。私が来なければケーキはあって、翔が車に轢かれることは無くて、それなのに、私が、私が、」


愛梨ちゃんは自分を責め続けている。


……いや、愛梨ちゃんのせいじゃない。これは自分の弱さを他人に押し付けてしまったぼくの責任だ。


ぼくは愛梨ちゃんに言おうとしたが、彼女はもうぼくの言葉が届いていないようだった。


……なんで、翔が。なんで、翔が!


「神様!お願いです!もし、この世界にいるならば!翔を!治してやってください!」


ぼくは天へ向かって必死に叫ぶ。


誰でもいい。ぼくがいなくなった後、夢もなくなってしまった翔が、どうやって生きていくっていうんだ!


「……神様ではないけれど、キミが願うのなら、彼を治すことは出来るよ。」


ぼくの願いを聞き入れたかのようにー


「イロさん!」


天使長、イロさんはぼくの前に、姿を現した。


ぼくはイロさんの姿を確認するとすぐにお願いをする。


「イロさん!お願いです!願いの力、使います!」


しかし、イロさんは首を縦に振ろうとしない。


「…橙歩君。昨日の慶蔵の話を聞いた上で、その願いでいいのかい?」


ー自己犠牲は相手に必ずしも幸せを呼ぶものではないー


昨日の川渡さんの言葉が脳裏をよぎる。


もしぼくがここで願いを叶えてしまったのなら、川渡さんが残した最期の意思はぼくがなかったことにしてしまうのではないか?


一瞬頭にその考えが浮かび、ぼくは戸惑う。


「……もし、キミが心からその願いを望むのなら、………僕はその願いを叶えよう。」


イロさんはぼくを覆い包むように話した。


…そのおかげで、ぼくは自分のやるべきことが明確に見えた。

仮にぼくがお願いをしなくとも、ぼくはどうせ残りわずかしか生きることが出来ない。

…ならばー


「ー構いません!ぼくの残りわずかの寿命で友達の夢が叶えられるのなら、ぼくは、翔に全てを託します!」


ぼくは真っ直ぐにイロさんの目を見て伝える。


「…………そうかい。それがキミの願いなら、天使である僕はそれを叶えなくちゃ、ね。」


イロさんはペンダントを開く。


…ごめん。お父さん、お母さん。


これまでぼくを大切に育ててくれたことに対する感謝と最期に顔も見せられなかったことの詫びの気持ちを両親に抱く。


ぼくはイロさんからペンダントを受け取り、願いを、告げる。


「…お願いです!ぼくの残りの寿命を全て捧げるので、どうか翔の右足を治してやって下さい!」


ぼくが願いを言うと、ペンダントからまばゆい白い光があふれ出した。

ーその直後、


ドクン


心臓に、鋭い痛みが走る。


「………うっ……!」


ぼくはあまりの衝撃にその場に倒れる。


………苦しい…………


激痛とともに息苦しさが肺を覆う。


「…⁉︎歩⁉︎」


倒れたぼくに気づいた愛梨ちゃんがぼくにかけよる。


「歩!しっかりして!歩!あゆむ!!」


うすれゆく意識の中、愛梨ちゃんがぼくの名前を叫ぶのを聞きながら、ぼくは、目を閉じた。


***


目が覚める。


視界に入るのは、真っ白な天井。


たなの方を見ると、時計の針は12時半になろうとしていた。


「…ここは…」


オレは、なぜここにいるのか。直前の記憶を思い出す。


そうだ…オレは、四葉を見つけて、興奮のあまり飛び出してしまって…!


オレは体を起き上がらせ、違和感に気づく。


右足が、ある。


「…どういうことだよ…」


ふと、視線を下にやると、愛梨がひざもとで顔をうずくめているのに気づく。


「……翔………」


*


「…そんな、こと。」

「…嘘は言ってないわ。私も信じられないけど、でも歩は死んで、翔は右足が生えて…」


愛梨は目に涙をためて言う。


オレは、自分の右足を、殴った。


ドゴッ


…結局、歩にめいわくしかかけてねぇじゃねぇか。


オレは自分の右足が憎かったが、それ以上殴ることは出来なかった。


「医者になる夢があっただろ…………歩……………」


***


一人上空で窓から三葉翔の病室を眺める天使は言う。


「…歩君。キミの願いは、確かに翔君の夢を守ったよ。でも…」


天使は三葉翔、愛梨がいる病室から、橙歩の父親、母親のいる部屋。そして寺島看護師と院長のいる部屋に視線を移す。

そして、視界に入った橙歩(だいだいあゆむ)と関わりのあるもの皆が大粒の涙を流しているのを見て天使は言う。


「…キミの、キミの願いは多くの人の心に不治の病を植え付けた。」


ー幼いながらも友を失うといった経験をした翔君と愛梨ちゃんは、今後トラウマを抱えていくことになるだろう。それも、自分たちのせいでとなったらなおさらだ。ー


天使は三葉翔達の未来を案じたが、それでも橙歩の残した夢は二人にとって間違いなく生きる根幹になるであろうことも理解していた。


「……どうすれば、良かったのかな。」


孤独な少年は小さく呟き、そして、病院から姿を消した。

第二話であるフジノヤマイはこのお話で最後になります。

ここまで読んでくださった皆様に感謝しかないです。

第二話は以前投稿したときとてもいい評価をいただいて、皆様からの評価がとても高かったので今回やや改良を加えてみたのですがいかがだったでしょうか。

今後第三話以降ですが、僕のストックがもうじき尽きるため投稿頻度はかなり少なくなると思います。

ゆっくり投稿していきますがそれでも皆さんの納得できるような作品に仕上げますのでそれまで待って頂ければなと思います。

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