1軒目 中華料理店にて
本の町神保町の夜は怪しく深けていく
「そりゃ辛い方がいいでしょ。あんた達どうせ会社でタバコいっぱい吸って会議で怒鳴りあったりしてるんでしょ。繊細な味なんか食道が喜ばないよぉ。いつもの青椒肉絲、ピーマン全部青唐にしとく?」
「そんなの食べられるわけないじゃん!せいぜい8:2くらいにしておいてよ。もう相当喉がやられてるんだからいたわってあげないとね」
「もう遅いって!」
店の主人はいつもフロアで料理や酒を運びながら満遍なく客あしらいする。カールした髪とひょろりとして飄々とした感じが何代か前の総理大臣に似ていると言われがちだ。
「S井ちゃん、今日もたくさん飲んでってね」
そう言いながら1杯目目の生ビール大ジョッキにショットグラスをポトーンと落とす。
「マジかぁ…来たかぁ…」
主人の手荒いもてなしなのだがそのショットグラスの中は白酒、いわゆる 中国の焼酎。それも日本ではなかなかお目にかからない強烈な度数の、まさにメガトン爆弾なのだ。場合によっては店にいる間何度か投下されるから、たまったものじゃない。
「そういえばやっと半蔵門線がこっちまで来るね。客も増えるんじゃない?」
「もうこれ以上来なくていいよぉ。あんたらと坂の上の会社の人たちで毎日お陰様で満員御礼、ありがとうございます!」
確かに来るたびに会社の人が誰かしら来ている。神保町はかつて東京の中華街と言われ、大小の中華料理店がひしめき合っていた。都内の上海蟹の卸を一手に行なっているS菜館、冷し中華の元祖を謳うY菜館を両巨塔に、周恩来も留学中に通ったというK楼、元気女将のR楼、チャーハンの大盛りは子供の頭ほどある盛りの多いT殿、ちっちゃな作りだが決して調理人が姿を見せず壁の穴から料理が出てくる謎のR楽、餃子一本槍のS包子、明け方まで中華鍋の打音が尽きることのない編集部の味方S園、使い込まれた土鍋の麻婆豆腐では都内に比肩なしのG酒家など店ごとに同時のカラーでまんべんなく客を集めていた。今日のこの店T興は小さな取次店が軒を並べる一角のアットホームな台湾家庭料理屋なので、クールな世界に日々浸っているファッション誌の女性編集者たちにとってもオアシスのような場所になっていた。
「お待ちどうさま。そこそこ辛い青椒肉絲ね。それと餃子2枚、雲白肉、タクアン卵焼き。毎回同じの食べてるけどよく飽きないねぇ」
「どれ食べてもおいしいけど、なんかこうなっちゃうんだよね」
「そういえば最近T﨑さん来ないじゃない。週に2回は来てたのがぱったりだからさ」
「今出張だよ。グループ連れてハワイに行ってる。今頃海に入れて撮影してるんじゃない」
「お~、彼ら連れてってるのかぁ。今彼らは夏休みだもんな。去年は俺たちは沖縄の弾丸出張だったねぇ」カメラマンのハッシーことH本はすでに赤い顔。酒だけでなく先週のグアムロケ焼けだ。
「H本さん、ひどかったよね。俯瞰の画が欲しいからって、俺に肩車させてさ。90Kgの巨漢をだよ!ただでさえ日焼けした肩にのしかかってくる重み…、でなかなか撮らないんだ」
「何言ってんだよ!S井だって水中の表情が欲しいからって俺とタレントの背中を水中に押し続けてたよな。死ぬかと思ったわ。タレントに何かあったらどうすんだよ!」
「タレントは押してないって!聞き捨てならないわほんと」
S井こと私もH本も神保町の某出版社の芸能誌で働いている。一時は人気グループのおかげで異常な伸びを示し180万部だった部数も、今は100万部前後に落ち着いている。それでも100万部は媒体としてひとつのカリスマ性をもつ尺度となる。日本の人口での芸能誌購読世代の割合から行くとクラスで数名は読んでいることになり、こっそり学校に持ってきて来て回し読みするのが普通だったりするので、いわゆる閲覧数は部数の数倍になるわけだ。ほぼ世代の大半が見ていることになる、よって影響力は半端のないものとなる。もちろんタレントも大忙しなので毎月の撮影時間をもらうのはかなり骨の折れる作業だ。海外はおろか都内で2時間でも時間調整は困難を極め、テレビ番組収録の合間を縫って局の玄関に待機させたロケバスに乗ってもらい近くの公園などへ行って速攻撮影。事前に陽光の具合や撮影アングルなどを綿密に下調べしテストしてあるので、到着してこちらが用意した衣装に着替えメイクを整えるとすぐに撮影に入る。見開きページで最低でも寄りと引きで2カットは欲しいので、カメラマンは三脚に据えたカメラであらかじめ決めた立ち位置にタレントに立ってもらい36枚撮りフィルム2本ほど撮ったら、肩にかけた別のカメラで今度はぐっと近寄って撮る。その間あれこれ最近のニュースやおいしかったものなど肩ひじ張らない話題でタレントの喜怒哀楽を引き出す。担当タレントとは毎月こうして会うことになってるので数年連載しているタレントとはニックネームで呼び合う仲になるのだ。そうなると多少の無理な要求にも応えてくれるからより良いカットが取れるようになる。撮影の合間には編集者もレフ版を当てたりして撮影の手伝いをしつつインタビューがてらタレントの近況や今撮影中のドラマの裏話などを聞き出すのだが、大抵はドラマ撮影現場も怒涛のように行っているのでほぼプライベートが無い日々で、話せるようなエピソードはなかったりするのだ。そうなるとここからは編集者のインタビューテクニックで、ほぼ誘導尋問のように”今月の私”を引き出す。”疲れて家に帰ったら、やっぱりお風呂に入って寝るまでは録画しておいたものを見る感じ?その時は何観ますか?”、”毎日ロケ弁当だとそろそろ好きなベスト3とか言えたりするんじゃない?”など。撮影が終わったらここからがまた忙しい。取材日が出るのは雑誌の進行的にかなり押せ押せのタイミングだったりするので、その日のうちにレイアウトまで済ませなくていけないのだ。タレントを局に送り届けたロケバスでまずは現像所へ向かう。撮影フィルムをすべて渡すと編集部へ戻り、誘導尋問したイエスノーの一連のやり取りを、撮影時の一挙手一投足の印象を絡めて本人の言葉に作り上げていく。
~「昨日の撮影は深夜に及んだけど、家に帰ってしっかりお風呂に入って撮りためたビデをを見るんだけど、だいたいそのまま寝落ち(笑)。でもね、なぜか朝5時に起きちゃうの。カーテンを開けるとまぶしいくらいの日差し、このドラマはこれまでで一番私っぽい役だと思うから気合入ってる。今日も頑張ろう!って思っちゃった」そういいながら彼女は8月の青空に両手を広げ大きな深呼吸をした~
原稿に取り掛かっていると現像の済んだポジフィルムがカメラマンのもとに届く。一般のネガフィルムと違いポジフィルムで撮影したものはフィルム幅の小さなサイズではあるが、ルーペを使えばそのまま撮影した画像を見ることができるので、いちいち全部をプリントにしては大変な無駄なので雑誌の撮影はたいていポジフィルムで行うのだ。カメラマンは編集部に数台あるビューワー(電灯が仕込まれたライティングテーブル)の一つを陣取り、フィルムを広げる。連写した写真たちにはブレたものや目をつぶったものなどが混じるのでそれらを見極めながら誌面に使う候補となるカットを選別し、一連のスリーブに袋の上からどんどんダーマトグラフ(写真を傷つけないよう芯の柔らかい赤鉛筆)で印をつけていく。カメラマンの脇には撮影にも同行したアシスタントが控え、印のついたスリーブを慎重に袋から出し、選ばれたカットをハサミで切り取り、透明ビニールの小さなポジ袋に入れていく。2時間で撮影した十数本のスリーブから候補カットを全部切り出したら重なることの無いようビューアーに全てを並べ、まずは担当編集者がさらに選別にかかる。先月からの変化を感じる表情、過酷なドラマ撮影の日々の中、インタビューでも話していた”気合”を感じさせる表情・ポーズなどを1枚一枚にルーペを当てながら時間をかけて見ていく。今回は扉おこしの3P なので、どのページにどのように写真を配置するかをイメージしながら選別し隣のビューワーにページの流れに沿って写真を配置させたところで、待機していた副編集長K屋に確認を依頼する。
「お~出来たかあ。彼女あれだけ忙しいから連れ出すのも大変だったでしょ。どれどれ」
ルーペで並んだ写真をのぞき込む。白髪が混じり始めた副編集長の天然パーマの後頭部を見つめながら、チェックした感想を待つ。
「やっぱりノッてるコは違うねぇ、寝てないはずなのにやりがいでキラキラしてるね」
表紙候補はOKが出たようで、脇にずらして右手の指先でビューアーの天面をトントンしている。“これは決まり”のサインなのだ。次の見開き候補はなかなか”トントン”には進まず、カメラマンの切り出したポジの束のほうものぞき始める。その中から数カット引っ張り出してきて確認していたビューワーの写真と入れ替え始める。天然パーマ越しにパズルのように並べ変わるポジフィルムを見ていると、確かに私が並べたものからぐんぐんタレントが動き出しページが華やいでイメージできた。
「こんなのでどうかな?今の彼女っぽくない?」
「断然これですね!急ぎタイトル考えます」
ここからは容易ではない。”8月の気合っ”なんて安直なものを提出しても到底K屋のOKはもらえない。席に何時間も張り付き、椅子の背もたれに寄かかって天井の電灯に選んだ写真をかざしながら、何度も見ては色んな方向からたくさんのタイトルを考えこれだと思って提出してはダメ出しされ、4時間後に出したタイトルがかろうじてK屋の加筆の上OKが出た。あとは写真やタイトルの配置、本文の字数、写真のキャプションの字数などをレイアウト用紙に指示書きし、アートディレクターに持ち込めば明日以降のレイアウトを待つだけだ。
「よし、H本さん行きましょう!」
ということでT興に繰り出したというわけだ。
「おおっ、お姫様のお出ましだ」
主人がそう言うとガラス戸を開けてシャネルスーツの女性が入ってきた。Kさんだ。数人の中堅若手社員といっしょだ。主人はお姫様という表現を使ったが社内ではお蝶夫人と呼ぶものあり、さらには生粋の日本人なのにフランス人扱いするものまでいる。これはかつて会食の席に早めに着いたKのことを店の女将が「先にフランスの方がお着きになってますよ」と間違えたことに由来する。このバブル時代の申し子のような華やかな存在なのだが、毎日お社交のフランス料理では疲れるので、やはり安らぎを求めてこの店にやってくるのだ。
「みんな何飲むの?私は白」
そんなリクエストにもすっかり慣れており、ちゃんとシャブリが野菜庫の中に冷やされてる。グラスは雑然とした店内では危なっかしいので無骨なワイングラスだが。姫に付き合って初めの1杯目から全員分のグラスが並び、シャブリに合う岩牡蠣やオムレツ、ではなくてアサリのにんにく炒めやタクアン卵などが並ぶ。やっとこっちに気付いたようで
「あら、S井くぅん。ちょっとふっくらした?」
人によっては結構傷つく会話だが新入社員の頃同じ職場でずいぶん優しくしてもらったから私においてはむしろ嬉しい気遣いだ。
「ほぼここで毎晩満腹になってますからね。Kさんはいつもエレガントで…。ところで最近、隣の会社のIさんと噂になってますよ」
Kさんの連れのメンバーは一同青ざめたが、当の本人は
「あ、こないだのミラノでしょ?みんな酔うのが早いんだもん。最後までIさんがお付き合いしてくれたんだけど、何か?もちろん何もないわよ」
雑誌協会の研修で毎年海外の雑誌事情を視察に行くツアーに各出版社が参加するのだが、もちろん仕事が終わった夜は懇親会が毎晩行われる。研修同期として東京に戻っても定期的に集まったりする呉越同舟の業界ツアーだ。
「ですよね。お目立ちになるのだからお気をつけくださいまし」
もはや白酒爆弾で訳のわからない敬語になっている。
「ありがと」
マネの女性絵画ばりに2席くらいの椅子に横になりながら私の方に向けてくれていた体を立て直しすっかり待たせていた連れたちと乾杯していた。
「S井もすっかり世界が変わったねぇ。シャネルからアロハかぁ」
「何言ってんだよ、俺がシャネルなんか着れるわけないでしょ。俺にはアロハが一番!」
「だわな。お前の飲み方は懐かしいよ。俺が駆け出しの頃よく飲みに連れていってくれたK屋さんは帰る先が会社なんだよな。だから朝まで飲んでもすぐに帰れるわけなんだけど、最近現像室の暗幕の中って言ういい寝場所を見つけたからすっかり飲みまくってさ。寝てると顔の脇をネズミが走っていくんだよ、って嬉しそうに話すんだけど俺にはさっぱりわからねえ。お前も何かそれに似た感じなんだよな」
「勘弁してくださいよぉ。俺はちゃんと家に帰りますよ。玄関で起きることも多いけど」
「な、変わんねえよ」
餃子が運ばれてきた。ここの餃子は皮が手作りだからちょっと厚めだがそれがもっちり感を出している。水餃子もいいのだろうがやはり焼きを頼んでしまう。確実に神保町三大餃子のひとつだ。と言うことは東京でも指折りと言っていいのかもしれない。空いたジョッキを片付けながら主人が、
「ところでS井ちゃんさ、俺はよくわかんねえんだけど、あの女子大生のたくさん出てるオールナイト何某っていう番組って何が面白れえんだ?朝までキャーキャー言って最後は湘南や千葉のサーフィンの波の高さ伝えて“いってらっしゃい”だと?見てる奴がみんなサーファーだと思って作ってるのかねぇ。あんなに在学中の大学名晒して、怖いお兄ちゃん達がシャコタンでさらいにいっちゃうよ」
「どうせ学校なんかにはいってないんだって。適当に代弁たのんで試験時も優等生に甘い話してノートのコピーもらってさ。でも毎週見ちゃうんだわ。あんな子がキャンパスにいたらやっぱ毎日毎日学校行こうかなって思うじゃん」
「だからさ、大学は勉強しに行くところだよぅ」
「でもさ、プワゾンの香りぷんぷんさせて同じ教室にいられたら上の空になるって」
「そうやって運よく今の出版社に入ってこうして毎晩酔い潰れてると」
「ひどいなあ、親父さんに会いに来てるのに」
「まあ酒も社会勉強の一つだからどんどん勉強しなさい」
「そうします」
4杯目の爆弾入り生ビールを飲んでる頃やっと気が付いたのだが、店の左奥の壁に隠れた席にO山さんがいたのだ。40代半ばで今も独身。決してモテる雰囲気はないからかもしれないが、そんなことを気にするそぶりも見せない明るいO山さんを私は嫌いではない。いつか二人で飲んだとき、
「俺は家で難しい本を読みながら酒飲む時が一番幸せなんだ」
と言ってたが、そんなはずはないと適当に聞いていた。やはり美女と過ごす夜が良いに決まってる。モテない中年の負け惜しみだ。そんな私の気持ちを悟ったのか芋焼酎のロックが入った湯飲みを額の脇に固定しながら
「でS井はスキーは続けてるの?俺も山形にいる頃は遊びはスキーだったからさ。今度の冬は北海道にでも行こうか?アゴアシマクラは俺がもつよ」
と女に言うようなセリフをこちらに言ってきたが“まさか同部屋?”と不安がよぎったその顔も悟ったようで
「もちろんそれぞれの部屋を取るよ」
それならもちろん断る理由もないのでご相伴に預かった。初めての北海道のパウダースノーとススキノの炉端焼きは最高だった。そのO山さんは仕事先の製紙会社と思われる人と歓談している。いつものように顔を真っ赤にしてウヒャウヒャご機嫌のようだ。店を出るときに挨拶すればいいかなと思いとりあえずそのままこっちに向き直した。
「ハッシーはさっき親父さんが言ってた番組って見てる?」
「俺は実家住まいだからあんな深夜にテレビつけてると申し訳なくてさ。見てみたいけどそのために自分の部屋にテレビ買うのも馬鹿馬鹿しいし」
「VHSも買えば部屋でエロビデオ見れるじゃん」
「それだってボリュームあげられないだろ。ヘッドホンで聴いたとしてもいつオカンがドア開けるか気になって画面よりドア見てることになりそうだわ」
「2階のS野さんは高校の頃まさにその時慌ててて右手とスイッチとどっちを止めるか迷ってるうちに両方とも晒すことになったらしいよ。まあ早く一人暮らしすることだね」
「そのためだけにかよ。どうせ出張続きで家にもろくすっぽいないし、その金があったら車を新しくしたいね。パジェロとかさ、雪道をガンガン走れるやつ」
「そりゃいいね。去年の冬に網走に流氷の取材で行ったんだけど、案内してくれた地元の人の運転がすごくてさ、踏み固められた真っ白のワインディングを下りでもアクセル踏んでガンガンに攻めていくんだよ。まあ、パリダカにも出た人なんだけどね」
とりあえず手の空いた主人がふら~っと私たちのテーブルをかすめる。私たちが話してるのが仕事じゃない話題と思うと何気に会話に入ってくる。
「パリダカかぁあこがれるねぇ。4WDで砂漠を爆走!気持ちいいよきっと。俺はせいぜい買い出し用のラッタッタ(原付バイク)で築地まで爆走ってとこ」
「親父さんの爆走姿ってのも笑えるね」
「なんでだよ本人はレーサー気取りだよぉ」
という主人が私たちのテーブルに顔を寄せていかにもひそひそ話を始めるようなポーズをとったから、こっちもそこに顔を寄せる。
「買い出しっていえばさ、こないだラッタッタで(国道)246走ってたらさ青山のベルコモンズの脇で見ちゃったんだよ…」
「って言うよりなんで親父さんがラッタッタであのオシャレなところにいるのよ」
「まあそれは置いておいてさ。あなたのところのあのほら角のテーブルに座ってる…」
「O山さん?」
「そうそう、割とうちに来てくれるからあんまり悪いこと言えないんだけどさ、あの人が女の人と歩いてるの見たんだよ。それもかなりの美人と」
「それっていわゆる同伴?」
「いや日曜の朝だよ」
「ますます何で親父さんそんなところに」
「まあいいから!その美人がさサングラスしてたからわかりづらいんだけどどっかで見た人でさ」
「この辺の人?」
「いやテレビにも出てるような…、あーっ多分時代劇なんかによく出てる女優さん。ほらあの細身のさ」
「それじゃあ全然わからないけど、結構やるじゃんO山さん」
聞こえた訳じゃないだろうがこっちに気がつき手を振って来たので慌ててお辞儀し返した。
「あの人が女優とねえ…」
たくさんの女性タレントを撮影してきたH本は怪訝な感じだ。これまでも女優と浮名を流した社員は何人かいたが今回は信じがたい。どうやらO山さんたちは店を出るようで、製紙会社らしき人がトイレに行ってる間に勘定を済ませるため我々のテーブルの方にやってきた。
「S井も来てたんだな。もう紹興酒でヘロヘロだよ」
「ディープな会合お疲れ様です。ところで日曜日、あの女優さんと青山で何されてたんですか?」
単刀直入に切り込んで見ると、あたりをキョロキョロしながら顔を近づけてきて
「おいおい見られてたのかよ。人には絶対に言うなよ…ところでこの後時間ないか?」
H本は聞き出してほしいから
「どうぞ俺は帰るから」
と笑っている。
「大丈夫です、是非!」