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穏和スキルが仕事しすぎるようです。

勇者のための花束

掲載日:2023/02/03

【ご注意】

男尊女卑とかするつもりは毛頭ございません、

気になる方は、お読みになるのをおすすめいたしません。

バーーーンッ!!

巨大な扉が荒々しく開いた。


「おいっ、そこのっ!

 ネロ王子はどこへ行かれたっ?!」


地を這うような声が響き、扉の横に立っていた警備担当は顔を青くしながら目を彷徨わせた。

元々怖い顔を鬼の形相にして狭ってくる声の主は、恐怖そのものだ。


「あ、あ、あ、あのっ。え、えっと、……ですね。

 ね、ネロ様は……「どこだっ!さっさと答えろっ!」 ヒッ!」


「大きな声がしたと思ったら、……パットン将軍か。」


「あっ、ガイウス殿下。良いところに!

 ネロ殿下をお探ししていたところなんですが、何処にいらっしゃるかご存知ありませんか?」


怖い顔の男――王族付きの戦闘教官パットン――は、威厳ある衣装を着こなした少年に礼をとりながら問いかけた。


「……………まさか、兄上はまた抜け出したのかな?

 確か今は、戦闘訓練の時間のはずだろう?」


「はい。ネロ殿下のサボり癖には、困っているのですよ。

 もう少し王太子としてのご自覚を持っていただかねば、我々魔族の未来はどうなることかっ。

 ガイウス殿下からも言っていただけませんか?」


「……………僕では無理だろうね。」


少年――魔王国の第3王子ガイウス――は長い間の後、パットンの嘆願を断った。


「そこを何とかっ!

 私の言葉では、全く聞いてくださらないのです。」


「はぁ……、兄上は魔族には珍しい【穏和】スキル持ちだからね。

 戦闘訓練には消極的なんだ。

 未だに隙あらば僕に王位を譲ろうとするしね。」


「なっ!そ、それは本当ですかっ?!

 それが本当なら、由々しきことではありませんかっ!」


「ああ。残念だけれど、本当だよ。

 正直、僕も困っているんだよ。

 君も知ってるように、兄上の魔力は量も質も折り紙付きだ。

 次期国王は、兄上でなくては国民も納得しないだろう。

 パットン将軍にはこの際、兄上をきっちり納得させて欲しい。」


「そ、それは…」


「兄上は、能力だけなら魔族随一だ。」


「ええ。ネロ殿下は戦闘センスもおありですし。

 魔法も歴代王族の中でもトップレベルかと…。」


パットンは重々しく頷いた。

ネロ王子の魔族としての資質は類稀なものだと、彼は常々思っていた。

それなのに……。

パットンの中から悔しさが込み上げてくる。


「だからね。

 パットン将軍には頑張って欲しい。

 兄上のこと、宜しく頼むよ。」


「で、殿下っ。

 いささか、私には荷が「パットン将軍。」」


「期待してるよ?」


ガイウス王子はイイ笑顔で言い、反論を許さなかった。






魔王国カラカラには、3人の王子がいる。

(魔族にしては)病弱な第1王子セロ、(魔族でありながら)【穏和】スキル持ちの第2王子ネロ、魔力・体力・知力と(王族としてはそこそこ)優秀な第3王子ガイウス。

セロとネロは双子の王子で、出生と同時に潜在能力の高いネロが王太子と決まっていた。


決まってはいるのだが。


ネロは、戦闘や戦争というものに興味のない王子だった。


勇者からの決闘を断り続け、いつの間にか聖女と園芸仲間になっている。

そんな王子だ。




”そんな王子に、この国を任せて良いのか?” と。

魔王国の大臣たちは不安な日々を送っている。


戦い好きな魔族、その中でも特にカラカラ国は争いごとの大好きな国民性を有している。


そんな国民を纏めていけるのか、心配らしい。






 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ



『あ、カトリーヌ。今、大丈夫かな?』

『ネロ? どうしたの?』


魔王城の戦闘訓練場(その23)の端、結界を張られた一画に一人の青年が座り込んでいた。

しっかり耕し、草らしきものが植えられた、そこで。

青年は、とある女性と遠距離念話しようとしていた。


遠距離念話は、割りと高度な技術だ。

魔族にとってはお手軽でも、人族には少し難しい。

発信者から魔力パスが通るからこそ、維持できる技だ。


というか、事前に魔力パスの交換を行っていないと、魔族同士でも難しい。


『うん。ちょっと人族の薬草について、聞きたいことがあってさ。』

『薬草?

 あなた、そんなことにまで手を出し始めたの?』


ちょっと呆れたような溜息が聞こえ漏れる。


『あー、うん。まぁ、お試しで?』

『魔王国の土じゃ、育てるの難しいと思うわよ?』

『そうっ!そうなんだよー。

 ちょっと難しくてさー。困ってるんだよねー。』

『あのねー。私が魔王国のことなんて知る訳ないでしょ?

 あなたがローランとの喧嘩を躱しまくってるから。

 私は魔王国に行ったことなんかないのよ?』


それは、そうだろう。

面倒事を避けるため、妨害工作しまくって勇者の魔王国遠征を阻んでいたので、勇者パーティに同行していた聖女も当然ながら魔王国の土を踏んでない。

聖女カトリーヌが、カラカラ国について詳しい訳がない。


『あー、ははっ。

 そういえば、ローランは元気でやってる?』

『……………魔王と戦わない勇者に、価値なんてあると思うの?』

『いや、俺、(まだ)魔王じゃないし。』


『はぁーっ。

 魔王でも、魔王子でも、似たようなものでしょ。

 ローランが可哀想だと思わないの?

 一度くらい、やり合ってあげなさいよ。』

『えー。わざと負けるの?

 多分、ローランだって気づくよ?』

『それでもよっ。一応、格好はつくじゃない。』


魔王に負ける勇者とか、もっと価値がない。

つまり、魔王軍側が負けてみせるしかないのだ。

魔王軍の面々が、それを許してくれるとは思えないけど。


『んー。

 でも、ローランはそんなの望んでないんじゃない?』

『あーもー!言い訳の多い男ねっ。

 モテないわよっ?!』


『んー。

 モテたら困るんだけど。立場的に…。』

『…………………………魔王に同情するわ。

 会ったことないけど。』

『ええー。』


『ネロって、一応、王子よね?』

『カトリーヌだって、いちおう聖女でしょ?

 引く手数多で、困ってるんじゃないの?』


一瞬の静寂、の…後。


『あんたがっっっ!

 ローランを避けてまくってるせいでっ!

 勇者とも、王子とも、結婚話が進まないのよねっ!!

 お約束な展開が、ぜーんぶ空振ってんだけどっ!!!』

『お、おう……。なんだか、ごめんね?』


勢いに押されるように、謝罪の言葉が溢れてしまう。

そして、なぜか疑問形。


『………こほんっ。

 ま、まぁ、そんなことは、どうでもいいのよ。

 えーっと。それで、薬草の話だったっけ?』

『あー。うん。そう、そう。

 ドクタタミってさぁ――――――』




―――はぁ…。口は災の元って、本当だな。

―――カトリーヌがあんなに怒るなんて思わなかった…。

―――人族の……結婚適齢期、だっけ?

―――やっぱ、いろいろあるんだろうなぁ。


―――うん、男で良かった。


―――ってか、魔族で良かった。

―――人族より寿命長いし。

―――強ければ、あんまり煩いことも言われないし。


うん、うん、と頷きながらネロは草の表面をそっと撫でた。






 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ



「はぁ〜〜〜〜〜っ。」


「おい、おい。今代の勇者が溜息とかヤメてくれよ…。」


「あ、ああ。悪いな。」


「そう言ってやるなって、オスカー。

 勇者様だって、人間だぜ?

 悩みの1つや2つあるだろーよ。

 ってか、悩みがないとか言いやがったら、リア充すぎて仲間やめたくなるゾ。」


「キュリオス…。それはそれで、人としてどうなんだ?」


「うっせー。ほっとけ。」


勇者と聖騎士と斥候職の男が酒場にいた。


「で?

 何かあったのか、ローラン。」


「くくくっ。

 そんなん、聞かなくても分かるだろーよ?」


「キュリオス。

 ほっといてやるから、お前は少し黙ってろ。」


現役冒険者のキュリオスは、場を和ませようとしてちょっと悪ノリすることがある。

根は悪い男じゃないのに。


それはキュリオスの長所でもあるのだが、オスカーにはどうしても短所に見えてしまう。




話を要約すると―――。


勇者ローランは、聖女カトリーヌに惚れていた。

(うん、それは知ってた。みんな。)


心底、心底、惚れていた。

(うん、それも知ってた。みんな。)


王家の依頼の通り、魔王軍に勝利したらプロポーズするつもりだった。

(うん、そうだろうなぁとは思ってた。みんな。)


それなのに、進軍はままならなかった。

自然災害が多すぎたのだ。

魔王国への道中のあちこちで災害が起こり、その一次復興を手伝い…と続けているうちに、物資も資金も危うくなり、立ち止まらざるをえなかった。


魔王軍も人族の支配地に攻めてくることはなかったので、結局自然消滅のような形になってしまい、プロポーズの切欠を見失ってしまったらしい。




オスカーにしてみれば―――。


勇者も聖女も、短くはない期間 旅を共にしてきた仲間だ。

その過程で、愛が芽生えてもおかしくないだろう。

確かに功績としては微妙かもしれないが、旅の終結とともに結婚を…というのもアリなのではないかと思う。


穏やかな愛。


それはアリだろう。


騎士として、常に護衛や戦闘を意識している身としては、非戦闘を想起させる穏やかさは最上の癒やしだとも思う。




「ローラン。愛に激しさは必要なのか?」


「どういう意味だ、オスカー。」


「プロポーズしたいなら、すればいいじゃないか。

 その切欠に、戦勝は絶対必要なのか?

 愛してるんだろう、聖女様を。」


「あっ!……ああ。」


「そう、そう、そうっ!

 そうなんだよーっ。

 意外と、優しさとか誠実さとか求めてる女はいるんだせー。

 冒険者にそんなもん求めるなよ、って話だけどなっ!」


「キュリオス…。

 だから、お前は少し黙ってろと――「あ?かなり静かにしてただろーがっ。」

 はぁ。もう、いい。」


オスカーはローランの肩を軽く叩き、キュリオスの首根っこをひっ掴み、引き摺りながら酒場を後にした。


変わらず騒々しい酒場で一人、勇者は考えていた。






宿に戻った勇者は、ベッドサイドに3本の花が束ねて置かれているのを見つけた。

添えられたカードには、こう書かれていた。


 < 勇気ある者よ。

   花とともに愛を語れ。 >


「…………………………。

 オスカー、か?

 これで、プロポーズをしろ、と?

 ベタだけど、花は…アリか。

 うん。そうだな。

 友人のアドバイスは聞くべきかもな。」






 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ



魔王城の戦闘訓練場(その23)の端には、若々しいピンク色のチューリップらしき花が咲いていた。

花粉は金色に輝いている。


「ドクタタミは上手くいかなかったけど、こっちは上手くいったねー。」


うん、うん、と頷きながらネロは葉の表面をそっと撫でた。




『ちょっと、ネロ!

 あんた、何してくれてんのっ?!』


突然、魔王子ネロに念話が入った。

座り込んでいたので、あまりの念波の大きさに、思わず後ろに転けた。


『………カトリーヌ?

 どうしたの?』

『どうしたの、っじゃないわよ!

 あんた、ほんと、何してくれてんのよっ!』


―――元平民の聖女様は、たまに素が出るなー。


『人族からの遠距離念話って、かなり高等な技術だと思うんだけど。

 カトリーヌは、やっぱ凄いねー。』

『そんなことは、どーでもいーのよっ!』

『うん、ちょっと落ち着こうか。』

『落ち着いてられる訳ないでしょっ。』


ふー、ふー、とまるで荒い息遣いが聞こえてくるようだ。


『何かあったのは分かったから、とりあえず順番に話してみよーか。』

『はっ? なに、恍けてんのよっ。』

『んー?』

『あんた、ローランにチューリップを渡したでしょっ。

 それもご丁寧に、3本! ピンクの花弁のをっ。』

『んー。

 それ、貰ったの?

 やったね、カトリーヌ。おめでとう!

 それで、それで? 何て答えたの?』


一瞬の静寂、の…後。


『う、う、う、煩いわねっ!

 そうよ、受け取ったわよ!

 仕方ないでしょっ。王宮でいきなり渡されたのよ?

 つき返せる訳、ないわよねっ?!

 金の花粉よっ!あり得ないでしょっ。

 あんな目立つもん、目立つとこで、目立つ奴から渡された私の気持ちなんて、あんたには分かんないでしょうねっ。』


―――きっと、凄く赤い顔をしてるんだろうなー。


不機嫌そうに眉を寄せてる癖に、口端は幸せを隠し切れずに歪んでる。

そんなカトリーヌの表情(かお)が、念波の向こうに見える気がした。


 < あなたを愛しています >


そのメッセージをカトリーヌが知らない訳はない。


『ローランのことが嫌い?』

『くっ。………き、嫌いなんて思ってないわよ。

 一緒に旅した仲間、だし…。』

『んー。

 それは、好きってこと?』

『ゔっ………。』


―――カトリーヌは聖女なだけあって、根が清純なんだよなー。


『聖女様は勇者様がお好き、と。

 ハッピーこの上ないね。お祝い、する?』

『う、う、う、うー。』

『勇者様の(プロポーズの)お言葉は聞かないでおいてあげるよ。』

『………そこは、………聞きなさいよ。』


―――あー、ツンデレ属性持ちだったかー。

―――でも、それ、ローランの前だけにしといた方が……

―――まぁ、指摘しないでおくか。


『あー、うん。

 聞いてもいいけど、ネタにさせてもらうよ?』

『あんた、悪魔なのっ?!』

『いや、魔族だけどね?』


『あ、………そうだった。

 あなた、一応、魔族の王子様だったわね。

 忘れてたわ……。』


―――あー、やっと少し落ち着いてきたっぽいねー。


『でも、まー、これで俺も恨まれずに済みそうで良かったよ。』

『はぁ?』

『ほら。俺のせいで、勇者とも王子とも結婚できないとか言ってたでしょ?』

『あ………ああー。

 …………………………えええぇ。

 それで、魔王が聖女と勇者をくっつけるとか思わないし………。』

『いや、だから、俺、(まだ)魔王じゃないし。』

『だからっ!

 魔王でも、魔王子でも、似たようなもんだって言ってるでしょっ。

 ま、まぁ、今回は………感謝…しとくわよ。』


『あのさぁ。

 言うのやめとこうと思ったんだけど、やっぱ言うね。

 ツンデレ聖女とか、勇者の前だけにしといた方がいいよ?』

『……………は、はぁぁぁっ?!』


『何はともあれ、おめでとう!

 末永く、お幸せにっ!』


ネロは素早く、念話を切断した。

暫く受信しないように、魔力パスをオフにするのも忘れない。


―――大体さぁ。人族の魔力でこれ以上の念話とか、ムリでしょ。

―――ムダ遣いしすぎだから。


―――あ、後で何かお祝いでも贈っとかなきゃなー。






聖女カトリーヌと勇者ローランの成婚の儀にて。

金色の花粉が降り注いだ、と人族の書には書き記された。


そして、二人の家の庭には、金色の花粉を持つピンクのチューリップが一年中咲き誇ったという。


人々はそれを「祝い花」と呼んだが、聖女自身は「呪い花」と言ったとか、言わないとか。


真実は、謎のままである。






 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ



「どこだっ!

 ネロ王子はどこへ行かれたっ?!」


バーーーンッ!!

と、今日も魔王城の扉は荒々しく開く。




いつも通りに駆けていくパットン将軍を見送りながら、第3王子の執務室前に佇む警備担当は小さく呟いた。


「魔族に穏和スキルとか、呪いだよな…。」

短編は初めての投稿になります。

宜しければ、ご意見賜りたく。

(温かめ希望…)

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