「だったらレモンティーかアップルティーお願い出来ますか?」
*
「ごめん先生、それって一体なんのこと?」
*
ということで。
その『どこのどれかは知らないけれど、誰もがみんな知っているリンゴ』って言われて、わたしの頭のなかは『?』マークでいっぱいになっちゃったんですね?
そこでその音楽の先生は続けて、
*
「あー、だから……、それはアレよ、数学の『=』を想い出してみるとわかりやすいんじゃないかな?」
*
って言ってくれたんですね。
そう。つまり、それはこういうことらしいんですね。
『1+1=2』
これってあたり前のことですよね?
うんうん。でも、これって本当に当たり前のことなのかな? って、先生はいうワケです――もうちょっと進めてみますね。
『1+X=2 であるならば、X=1である』
これももちろんあたり前のこと……って、いま、そんなふうに想えました?
なにかおかしな感じを受けませんでした?――もうすこし進めてみますね。
『X+Y=2のとき、
X=1であるならば、
Y=1である。
ゆえに、X=Y=1である』
これももちろんあたり前のこと……って、いま、ふつうに想えました?
ひょっとして、
「なんで、ちがう記号のXとYが『=』で結ばれるんだろう?」
みたいな感じになったりしませんでした?――もうすこし考えてみますね。
例えばここで、『X』を『リンゴ』に、『Y』を『バナナ』に置き換えてみますね。
すると――、
『リンゴ+バナナ=2のとき、
リンゴ=1であるならば、
バナナ=1である。
ゆえに、リンゴ=バナナ=1である』
ってなるんだけど、これももちろんあたり前のこと……とは、さすがにもう想えないんじゃないですか?
「なんでリンゴとバナナが『=』で結ばれちゃうのよ?」
って、一瞬でも想いませんでした?
*
「そうそう。だからそれはね、単純な記号でしかない『X』や『Y』を具体的な事物でもある『リンゴ』や『バナナ』に置き換えたからなのよ。だから一瞬、あたまが不思議な感じになっちゃったの」
「あーーーー?」
「わかってくれた?」
「あー、ええ、うん?」
「わかんなかったかな?」
「なんとなく?」
「ま、いつか分かるわよ」
*
と、いうところで。
ここでお話はやっと『the apple』と『an apple』に戻ることが出来るわけですね。
つまり。
この音楽の先生や例のユーチューブの先生によれば、わたしたち人間って、数学だけじゃなくて、この世界? 現実? を把握するのにも、この『=』ってやつを使っちゃってるってことらしいんですね。――分かります? 分かりにくいかな?
えーっと。
つまり。
たとえばここに2本の大根があったとするじゃないですか?
そうそう。
で、そのうちの1本には『ス』が入ってるんだけど、残りの1本には『ス』は入っていないとするじゃないですか。
すると、それでも不思議なことに、わたしたちって、このちがう2本の大根を見ながら「これは同じ2本の大根だ」って想うことも出来るわけですよね?
そうそう。
つまりこれが『=』ってことで、それはつまり『同じ』ってことを意味していて、だからこそ『神の名において平等』っていうことになるらしいんですね。……ここまで大丈夫ですか?
わたしはこの話を聞いたあと三日ぐらい知恵熱が出ちゃったんだけど……え? やっぱりちょっと休憩を入れたい?
あー、そうですね。
だったら、わたしもお店のお片付けがすこし残ってますし……、30分ぐらい休憩にしますか?
そうそう。じゃあ、えーっと、8時ごろの再開ってことで。
はい? コンビニ? コンビニだったら来た道をまっすぐ戻っ……そうそう。
だったらコーヒー淹れ……ってそうですね、お店の片付けするんでしたね、わたし。
あー、だったらレモンティーかアップルティーお願い出来ますか?――うんうん、あったかいほうで。
え?! おごってくれるんですか? やった!
ええ、ええ、じゃあ遠慮なくゴチにならせていただきますよ! 姐さん!!
はいはーい。じゃ、わたしもササッとお片付けしちゃうんで。
はーい、気を付けていってらっしゃーい。
カラカラン。
(続く)