人は見かけによらない その四
翌週の放課後、俺は大講義室に座っていた。
座っていたというと自発的な感じで正確ではない。正確には、座らされていた。
隣の席には同じクラスの学級委員、町野里子が座っている。
大講義室では、秋に行われる文化祭の予算会委員会が始まっていた。
俺のクラスでも文化祭で出し物をするため、その予算を確保するために出し物や必要とする予算の説明をするのだ。その説明のために、町野さんに連行されたのだった。
「それでは、各クラスの予算は以上で決定しましたので、次は各部活の展示内容と予算について協議します」檀上で仕切っている文化祭実行委員の男が淡々と議事を進めていく。
その隣には、青目さんがメモを取っている。
学生会の書記は会議のたびに仕事があるので大変だ。
「で、どう、最近。バイト始めたんだって?」町野さんは役目が終わって暇になったのか、小さな声で聞いてきた。
「ああ、駅前の手羽先屋。なかなか忙しいよ。でもまあ、楽しいよ」
「そりゃ良かったわね。私も始めようかしら、バイト。あ、そういえば、建築の青目さんも同じバイト先なんだって?」
「情報通だな。そうだよ。土曜日一緒にシフト入っていたよ」
「なんか、意外だよね。あの青目さんでしょ。大人しそうで、あんまりバイトとかするイメージ無かったよ」
町野さんは、あごをツイッと動かし、大講義室の前方で議事を取る青目さんの方に目をやった。
「そうそう、俺も意外だった。けど、一緒に仕事したら、結構、テキパキと動くから、やっぱり真面目な人は仕事できる人だと思ったよ」
「そうなんだ」
「でも、酔っぱらいのお客さんの大声とかに戸惑っている感じもあったから、彼女は彼女で大変なんだと思うよ」
俺はふと、仕事終わり直後の青目さんが泣いていたことを思い出した。
「……うん、結構、戸惑いはあると思うよ。なんというか、いろいろ苦労していると思うから町野さんも寮、同じ階だったろ。なんか声かけてあげてよ」
「珍しく若木、気が回るわね。そんな紳士的行為をしても、別にあなたのポイントアップなんかしないわよ?」
笑いながら町野さんが頬杖を突く。
「いや、でも、あ、どうだろう、言っていいのか分からないけど、うーん、まだ内緒にしてほしいけど」
俺はあの青目さんの様子を相談するか迷ったが、俺一人ではどうすることもできないので相談することにした。
「なによ、何かあるなら言いなさいよ」
「難しい問題だから、ここだけの話にして相談に乗ってほしいんだが、青目さん、バイトの終わりに泣いていたんだよ」
「は? それは重大なことじゃない! なによ、ちゃんと説明しなさいよ」
俺は、土曜の夜のことを町野さんに説明した。
町野さんは一通りの話を聞くと、うーんとうなってしばらく考えていた。
「やっぱり、ほっとけないわ、それ。ちょっと、私もなんとかできないか、考えてみる」
町野さんも町野さんで、やっかいごとに首を突っ込むタイプだな、と俺は思った。
気が付くと、大講義室の前方で大騒ぎになっていた部活の方の予算の奪い合いも、どうやら終わったようだった。




