五人兄弟 その四
私、町野里子は何事もテキパキ終わらせたいと思っている。
テキパキという言葉を使えば真面目で有能そうに聞こえるが、要するに気が短いだけなのである。
今やっている学級委員も、学期のはじめに行われたクラスの学級委員選出で、クラスの連中がやりたくないとグダグダ言い出したのに耐えきれず勢いで立候補してしまったことが原因だった。
ただ早く帰りたかっただけなのに……。
目の前にいる若木は、このクラスの中ではまだマトモな部類の人間だったので学級新聞の制作にあたってスタッフとして引き入れた。
マトモな部類と言っても、こいつはこいつで、また話が長い。
『結論を先に言え』と言いたいが、この学校に来ている学生は皆、ひと癖もふた癖もある面倒くさい連中なので言っても聞かない。
仕方がないのでうまく話の合いの手を入れて、話を進めるしかない。
「次郎さんのコップを見なかった……。あ、次郎さん、食事中は飲み物を飲まないタイプなの?」
「いや、五人とも、みんな同じように飲み食いしてたよ。とはいえ次郎の印象は薄いから、本当に覚えているかというと、正直自信がない」
「そういえば次郎さんは目立たないタイプって言っていたわよね。じゃあ、やっぱり見落としていたんじゃないの? 次郎さんが食事の時にコップ使うの忘れて、台所に置きっぱなしだったとか」
「いや、でも食器の片付けでパッと見た時、コップは五つあった」
「おじさんのコップもあったとかじゃないの?」
「叔父さん夫婦もうちの親も食事の時は缶ビールを飲んでいたから、コップは使ってなかった」
若木の話は、確かにちょっとした疑問だった。
事件というほどではないが、なんだかよく分からないので真相を知りたくなるというのは、新聞や週刊誌の記事としては良い題材だと思う。
若木、偉いぞ、やるじゃないか。
「で、結局どういうことだったの?」
「分からん」
「は?」
「いや、だから分からん。なんだったんだろうな、あれ」
「……は? 何よ、結局どうだったのか確認もしていないし、分かってもないの?」
「そうだよ、だから最初から『疑問がある』って言ってるじゃん。それがどうしてだったのかは、闇の中……」若木はそこでニヤリと唇の端を上げた。
「藪の中ね」ややイラっとしながら応える。
「闇の中でいいだろ」
「そんなのどちらでもいいわよ。もう、それじゃあ疑問だけ出して解決編出す前に打ち切りになる推理小説みたいじゃない。記事にならないわよ、もう」
ダメだった。
若木の話は面白いのだが、雑談で盛り上げるだけ盛り上げて最後を放り投げて皆で笑うというパターンも多いんだったわ。
うまくいくと思ったのに、もう少し考える必要がある。とはいえ、今日はこの話をここで続けても特に解決するあてないので、切り上げよう。
私は、あきらめが良い方なのだ。
「まあ、しょうがないわ。じゃあ、今日はここまでにして、明日この話の落としどころを考えてきてね」
帰ると言っても、うちの学校は一年生と二年生の多くは学校内にある寮で暮らしている。
私と若木はともに寮住まいだったので、教室の戸締りをした後、校舎の裏口から中庭を抜けて寮に向かった。
「結局、若木の勘違いだったのよ。それか、ネームシールが次郎さんの分だけはがれちゃったとか。安物なら剥がれたりするんじゃない?」
仕事がスッキリ片付かなかった不満を発散するような気持ちで、私は少し大きめに足音を立てて歩きながら言った。
「そうかもしれないけど、それにしたって、ネームシールは次郎が手配したらしいんだ。次郎は目立たず無口で何考えているか分からないけど、仕事はしっかりこなすタイプだからな。安物のネームシール注文して失敗するなんてことはしないはずなんだ」
納得がいかないという感じで若木は難しい顔をしているが、納得していないのはこっちの方だ。と思わず言いそうになるのを耐えて息を止めたところで、中庭の横道から人影が飛び出してきた。
「おつかれー。二人そろって変な顔して、どうしたの?」
飛び出してきた人影は、大きなリュックを背負った男だった。
日沈後の中庭の外灯の下なので、色はよくわからないがおそらく派手な色のランニングシューズを履いている。夜は少し寒いのではないかと心配するような薄いランニングシャツの胸には大きく『橋田』と書いてある。って橋田くん!
「わっ! 橋田くん! 部活帰り? お疲れさまっ」突然、人が出てきて驚いたのもあったが、私はついつい早口になってしまった。
「で、どうしたの。なになに、なんか困りごと?」
人が困っている風に見えるのに、橋田くんは無邪気に笑いながら私たちの顔を覗き込んでくる。
運動部らしく短く整えられた髪が軽く揺れる。
好奇心旺盛な橋田くんに、私はさきほど若木が話した『疑問』を説明した。
しばらく三人横一列になって歩きながら、橋田くんはその話を聞いていた。
時折うんうんとうなずきながら、彼は最後まで私の話を聞いてくれた。
「なるほどね。じゃあ、たぶん、分かった」話を聞き終わった後、数秒の沈黙ののちに橋田くんはサッパリとした口調で言った。
「え? 分かったって、ああ、話の流れがってこと?」
「いや、その疑問の答え」
相変わらず、橋田くんはサッパリとした口調で言った。




