五人兄弟 その二
「町野さん、兄弟とかいる?」
目を向けていた窓の外から教室に視線を戻すと、少し不機嫌そうな顔になった町野さんが机に広げた真っ白なノートを前にして頬杖をついて見上げている。
いや、見上げているというより、睨まれていると言っていい。
さっきまで背筋が伸びた優等生の雰囲気だったのに、今はまるで背骨がなくなったかのように体は机に倒れこみ、ギリギリ頬杖で支えているような状態だ。
明らかに機嫌が悪くなりつつある。
「中学生の弟がいるわよ。なに? 学級新聞に『私たちの家族紹介』みたいな記事を載せるっての? そんなのボツよ、ボツ。小学生ならまだしも、この歳になって家族紹介とか誰も読みたくないし書きたくないわよ」
「弟がいるならわかると思うけど、兄弟や姉妹って、実際はそんなに仲良くないよね」
「ま、まあ……。昔は結構かわいいところもあったけど、歳が近いとケンカしたりするわね。でも兄弟は仲が悪いと断定するのもどうなのよ?」
「いや、歳の近い兄弟なんて、たいてい仲が良くないもんだって。いとこ達の場合は高三から高一までが一つ屋根の下、五人いるんだよ。そりゃ何事も仲が良く円満に、とはならないよ」
「うそ、いとこさん達、年子なの? うわぁ、大変そう。そこはおじさんに同情するわ」
町野さんは目を丸くして驚いた。
「実際大変で、末っ子の食い意地が張っているから、兄弟みんな、自分の食べ物に名前書いて冷蔵庫に入れてるらしいよ」
俺は見えないプリンを持って、見えないサインペンでそれに自分の名前を書くジェスチャーをした。
町野さんは頬杖のまま、フッと鼻で笑った。
「そんな状態だからさ、最近は持ち物も区別できるようにしようってなったんだ。叔父さんは息子達がケンカしないように、何か買い与える時は決まって同じ物を五つ用意する。でも同じ物だから、どれが誰の物か区別できなくてケンカになってたんだって」
「どうしたって争う悲しき人間、って感じね」
いつの間にか頬杖をやめて体を起こして、椅子の背もたれに体を預けた町野さんが、しみじみとつぶやいた。
口元は少し笑っているので機嫌は少し戻ったらしい。
「で、この持ち物を区別するってところで面白いことがあったんだ。俺も最初、疑問に思ったから、これを記事にしたら、ちょっとしたクイズみたいで面白くない?」
ここまで前置きを長くして時間を使ったんだ。早く帰りたい町野さんの心理的にも、この題材を記事にして良いかなと判断するハードルは低くなっているはずだと願いを込めて、彼女の顔を覗き込んだ。
「まあ……、いいじゃない。そうよ、そういうのを早く出してよ」
町野さんはペンを持ってメモを取る姿勢になった。
どうやら早く帰る作戦は成功に近づいていそうだ。




