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番外編:魔法使いの子ども

最終話です。

ヒー視点です。


 人としては尊敬できるところなどなく、どこをとっても悪い人間ではあるが、トクシックにひとつだけこれはすごいと思うことがある。

 それは人を見る目があるということだ。

 トクシックは子どもを引き取る時、彼の勘で僕たちを見つけ出した。

 わざわざ力のある種族の子どもを探したわけではない。ただ、彼の趣味に合うかどうか、賢いか、言うことを聞くか、そういうところを重視して見つけたんだと思う。

 僕が引き取られる前、一人子どもがいた。

 美しい顔立ちをしていて線の細い少年だった。僕よりかなり大きくて、多分そのころ10歳か11歳くらいに見えた。

 その子は僕が来てすぐに死んでしまった(実際にはトクシックに殺された)んだけど、本を調べるようになってから気づいたけれど、力のある種族の子孫だった。


 ノルはヴォンテールという風と大地を愛する、癒しの種族の血が流れているし、マーシェは伝説の剣士の孫だ。それも後から知ったことだけど、トクシックはそれと知らずに引き取ったにもかかわらず、すべて当たりを引いていた。

 それはトクシックの目が確かだったからだろう。


 でも、じゃあ、僕は?

 僕は確かに、他の子どもよりも賢い。自分で言うのもなんだけど、頭が良いのはわかる。一度本を読めば覚えるし、忘れない。でも、僕にはノルやマーシェのような人と違う力はない。

 唯一人と違うといえば、年齢だけか。

 僕がトクシックの家に引きとられた時は、6歳だった。孤児院でそうしろと言われたからだ。だけど実は僕は10歳だった。どういうことかというと身体が小さかったんだ。赤ん坊の時から孤児院に10年間暮らしていた。その間他の子どもはどんどん僕より大きくなっていった。僕は他の子の半分くらいしか大きくならなかった。だからトクシックに6歳と紹介されたけど、本当は10歳だったんだ。

 そういう意味では特殊かもしれないけど、ノルやマーシェとは全然違った。



 ロズラックの魔術師の塔で働くようになったのは19歳の時だった。実年齢では24歳だけど、見た目は16歳くらいに見られた。(自分で言っててややこしい。とにかく、身体の成長が遅いってことだ)



 魔術師の塔での仕事は面白かった。だいたい魔術師という人種は面白い。今までまがい物の魔法を使うトクシックを見てきたからわかるけど、本当にトクシックはまがい物だ。

 まず、魔術師というのはとても繊細な人達だということ。彼らは話をする時もあまり声を出さない。場合によっては言葉も発しない。声を少し出すだけで伝わったりする。口を閉じたまま「んん、うん」みたいな感じで声を発するだけだったりするんだ。

 最初は面食らったけど、ここにいる間にそれもわかるようになってきた。

「はい、これですか?」

 布を取ってくれと言われたと思う。一応これで良いか確認のために聞くと、ポレミクは頷いてくれた。

 ほらね、なんとなく彼らの言うことはわかるんだな。


 それにトクシックは、力のある石や骨や草や、そういったものを使って魔法を行っていたけれど、魔術師は全然違った。魔力は彼らの内側にあるから基本的に道具を使うことはない。道具を使うのは人間だけだ。人間が使えるようなものは魔道具というらしい。

 魔術師が使う杖は、彼らの内側にある魔力を効率よく放出するためのものであって、それ自体が魔力を持ってるわけじゃないってことだ。



「それで、マーシェがあっちに行った時、あなたが呼び寄せたのですか?」

 ポレミクが聞いてきた。こういう複雑なことはちゃんと言葉にしてくれる。

「いえ。僕は何も。僕はただ、研究室の鏡でマーシェを見てただけです」

「その鏡は魔道具?」

「違うと思うけど、そうだったのかもしれません」

「どうして違うと思ったの?」

「だって、トクシックがあれで何か魔法をやってるのを見てないからです。あの鏡はトクシックが出かける時に自分を見るだけだったから」

「でもセインは、その鏡でマーシェを見てたのでしょう?」

「ええ。一応僕も、ずっとトクシックのそばにいましたから、それくらいのことはできるようになっていました」

「それくらいのことって?」

「だから、ちょっと魔法みたいな……鏡を見てマーシェを思い浮かべれば、マーシェの居場所がわかるっていうか」

「そうですか。じゃあ、ちょっとこの鏡でやってもらえます?」

 ポレミクはそう言いながら、手鏡を僕に渡した。

「はい、じゃあ」


 僕は鏡を眺めてその中にマーシェを探した。

「マーシェは訓練場ですね。部下に剣の稽古をつけています。ほら、彼の剣は本当に鮮やかだ。見えますか?」

 僕は手鏡をポレミクに見えるように向けた。

「ええ」ポレミクは微笑んでいる。「うん、うん」

「えっ、普通の手鏡? どういうことですか?」

 これは魔法の手鏡じゃなくて、普通の鏡だと言われた。

「それはあなたの魔法ですよ、セイン」

「は?」

「前から思っていたのですが、あなた、もしかして23,24歳くらいでしょう?」

「え? はい」

 なぜ今、年齢の話?

「普通の手鏡でマーシェの居所が見られるのは魔法です。あなたが我々の言葉を理解しているのも魔法です。あなたが実年齢よりずっと若いままなのも、あなたが魔術師だからですよ」

「は?」

「あなたは24年前に殺されたセレンの子どもだったのですね。我々はずっとあなたのことを探していたのですよ」

「え?」

「すぐにお父様に連絡をしましょう。ああ、彼がどんなに喜ぶでしょう」

「え、お父様って……僕の?」

「お母様、セレンは亡くなりましたが、お父様は魔術師の国にいらっしゃいます。良かったですね、セイン」

 まさか。

 僕が魔術師だったなんて。

 混乱しているとポレミクは「んん、ん」と言った。

「はい。ありがとうございます」

 感激して、涙が止まらない。

 僕は、魔術師の子どもだった。


 トクシックの目はやっぱりすごかった。


これにて完結となります。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます! やっと読みに来ることができました……。 ネタバレあり感想になってしまいますが。 後半の緊迫した展開は、途中で目が離せなくなって、国境の不審な火の調査を始め…
[一言] 完結おめでとうございます!(^^) ※以下、ネタバレありです。 marronさんは童話なども含めてほっこりあたたかなお話が多い中、こちらはバリバリのダークファンタジーでしたね。 でも、ハラ…
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