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番外編:奴隷

本編完結しています。

こちらは番外ヒー編となります。

ヒーが10歳ごろです。


 フーがいなくなって2年ほど経った。

 僕とミーの身体が大きくなってくると、トクシックは僕たちに対してさらに心を打ち砕くようなことをするようになった。彼の元々の性癖なのだろう。あの地下室のベッドが毎晩使われるようになり、僕たちは隔日で相手をさせられるようになった。地下室の不気味さ、臭さ、それだけでも吐くほどなのに、そこで痛めつけられ征服される苦しみ。僕たちが逃げることを諦めるようになるほど心を蝕まれたのは、これが一番大きかった。


 だけどミーは、自分が逃げることを諦めたにも関わらず、僕のことを逃がそうと考えていた。

 ある日、彼は森でものすごいものを見つけてきた。

「これは古の鳳の卵ではないか。でかしたぞミー」

 トクシックはそれを見ると大喜びだった。力のある生物の中でもこれは大発見だったからだ。魔術書を調べ、その卵を孵すよう命じられ、僕は卵を温め始めた。昨日や一昨日産み落とされた卵じゃない。気も遠くなるような古代の生き物の卵だ。孵るはずはない。そう思いながらも温める。トクシックは呪いを言ったり変なスープを作って僕に食べさせたり(それでまた下痢をしたのは僕だ。なんで僕に飲ませるんだ、意味が分からない)そうして、卵を温め始めてから1年が経ったある日、卵が割れた。


 中からは雛が出てきた。

 真っ黒で腐臭が酷い、それでもそれは嘴を動かして羽を広げた。

「よしよし、孵ったな」

 いやこれ、孵ったの? 僕には腐りかけで死にかけにしか見えないけど。だけどトクシックは喜んだ。そしてまたそれを僕に育てるように押しつけた。

 臭くてドロドロの雛は最初から大きかった。だいたい卵だって僕の頭より大きかったんだ。バカほど生肉を食べるし、糞は臭い。一日中ぼーっとしてる癖に、こっちの言うことなんて聞かない。

 殺してやりたい。


 だけどミーは違った。

「こいつはもう死んでるんだよ。トクシックの魔法で生きてるように動いてるだけさ」

「そうなの?」

「だから愛情なんてなくたって気にしなくていいんだ。大きくすればトクシックは何も言わない。でもね、」

 ミーは顔を寄せてきた。

「あの鳥は大きくなる。アレに乗って逃げるんだ」

「な、何言って、」

「本当だよ」

 そのために拾ってきたとミーは笑った。そんなこと考えてたなんて思わなかった。でも、鳥に乗って空を飛べれば、トクシックから逃げられるかもしれない。

 それで僕は、この臭くて嫌な鳥をせっせと育てた。

 トクシックの奴隷として身も心もボロボロになりながら、この鳥を大きくした。ほとんど逃げることを諦めていたにもかかわらず、やっぱり心のどこかでトクシックから逃げ出したいと思っていたからだ。


 ミーがトクシックに殺されてから僕は一人だった。

 ミーは酷い殺され方をしたけど、死んでしまえばもうトクシックに痛めつけられることはない。少し羨ましかった。もう苦しくて怖くて惨めな思いをしなくて良いんだ。

 これからは一人で耐えて行かなければならない。


「鳥からガスが出ている。手始めにモヴェズヴィルの老人を焼いてみるか」

 トクシックはみみっちい世界征服にいそしんでいる間、手元にあるものはなんでも利用した。この黒い鳥の匂いまで使おうってんだ。そのガスだか油だかに魔法をかけてこれに火が少しでもつけば、簡単には消せないようにした。

 僕はこの鳥を連れてガスを撒き、そこに魔法の火をつける。そうすると火をつけられたもの、それは木だったり家だったり、老人だったり、それらは酷い焼け方をする。とにかくそうしてモヴェズヴィルの人たちを脅して、トクシックはこの国を乗っ取った。



 何年かすると鳥はミーが言った通り、本当に大きくなった。これなら僕くらい軽々と乗せるだろう。僕は鳥に乗る練習を始めた。

 いつかトクシックから逃げるためだ。

 鳥の背中に乗って鞭を入れる。鳥は最初全然飛ばなかった。

「ほら、飛べ、羽を動かせ」

 ドタドタ走るようにはなったけど、なかなか飛ぼうとしない。羽を無理やり引っ張ったりしているうちに、少し羽を持ち上げられるようになった。ずっと室内にいたから飛び方をしらないんだ。

 外に出して羽を引っ張ったり鞭を入れる。

「飛べっ、こらっ」

 鞭を入れると鳥は惨めったらしく顔をそむける。ああ、まるで僕みたいだ。そう思うともっと腹立たしくなった。



 一年ほど頑張ったところで、鳥は僕を乗せて飛べるようになった。飛べば鞭を入れられないと学習したからだ。本当に腹が立つ。

 これで僕は逃げられる。

 そう思った時だ、トクシックが鳥に乗った僕を見つけてしまった。そして鼻で笑ってこう言った。

「これからは空から油を撒いて、国境に火をつけてこい」

 そんなことだろうと思った。

 いや、でも良いんだ。今はトクシックの言うことを聞いてやろう。言うことを聞いてやればトクシックは僕を疑わない。

 トクシックは鳥がもうちょっとマトモに飛ぶように魔法をかけた。

 僕が空を飛ぶ時、トクシックは魔法を使って監視していた。僕が逃げないようにだ。当然だろう。

 だけどきっと隙があるはずだ。遠くへ逃げよう。いつか絶対に。

 それまで、この鳥は僕の奴隷だ。




お読みくださってありがとうございます。

番外編をあと一話で完結となります。

よろしくお願いします。


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