77、ノルの癒し
本編最終話です。
白い棒が発する暖かい優しい光りに包まれて、セインの首にあった紫色の液体とそこから溶け出した傷は、ゆっくりと消えていった。
そして床に溜まってまだシューシューと嫌な臭いを出していた液体も、徐々に消えた。
セインは首を押さえたまま、呆然としている。
「これ、どういうこと?」
マーシェがきょとんとしていると、セインはハッとして手をあげた。
「これだ、これのせいだ」
その手には白い棒が握られていて、まだ少し光りを発している。
「これ? トクシックの魔法の棒?」マーシェが聞いた。
「違う。コレはノルの骨だ。トクシックが、これが一番魔力の吸い上げが良いからって、気に入って使っていたけど、これはノルの骨なんだ」
本当に、トクシックはどこまでもおぞましかった。
しかしそのおかげで、ノルの力がここに発揮されていた。
「ノルが治してくれたんだ」
「本当、ノルのおかげだ。よかった。ノルも開放された」
二人はノルの骨を見ながら微笑み合った。
それから二人は研究室を後にした。
研究室にあった不気味なガラス瓶はみんな割れて、カサカサになったり溶けたりしてなくなってしまった。
「でも、たぶんトクシックが集めたまがいものの魔法はまだ残っている」セインが言った。
「うん。ロズラックに戻って魔術師に来てもらおう。それが一番安全だ」
マーシェがそう言うと、セインは少し困った顔をした。
「ねえ、僕もロズラックに行っても良いだろうか」
「何言ってるの。当たり前じゃないか」
「でも僕は、ロズラックの兵隊にずいぶん酷いことをしたし、身寄りもないし」
「セインは僕のお兄さんじゃないか。カイに言えば喜んで迎えてくれるよ」
「カイ?」
「うん、僕の、おじいさん」
「え、それって、伝説の戦士というあの、」
セインは顔をパっと明るくさせた。相変わらず彼は、知識が豊富で、新しいことを知ったり、何かを確かめたりするのが好きなのだ。それを見たマーシェは笑ってしまった。
そうしてセインはマーシェの言った通り、カイに会い、しばらくカイと一緒に暮らした。
それからカイの勧めで、魔術師の下働きとして塔で働くこととなった。セインは魔法に関してのたくさんの知識があり、魔道具を扱うこともできた。それで、軍で使う魔道具を作る手伝いをするようになった。
ノルの骨はできる限り持ち帰り、カイの家の持ち物である墓地に埋葬した。
◇◇◇
「マーシェ、昇進したんだって!? おめでとう!」
セインは仕事で軍司令部へ行くと、マーシェの執務室に顔を出した。
「あれ、セイン。なんでここに、ていうか、なんで知ってるの?」
「魔術師の塔はなんでも知ってるんだよ。マーシェ、おめでとう」
「ありがとう。ねえ、帰りに一緒に報告に行かない?」
マーシェが誘うとセインは笑顔で頷いた。
「それはいいね。じゃあ、仕事終わったらここに寄るね」
「うん」
マーシェは16歳で中隊長に昇進した。
軍の中でも異例のことだった。しかしこれは、軍内のすべての兵隊の推薦であった。
二人はその日の仕事を終えると待ち合わせをして出かけた。
花を買い墓地へ行く。
「ノル、僕昇進したんだ」
花束をノルの墓に置く。そこに二人も座って空を見上げた。
おめでとう、とノルの声が聞こえた気がした。
お読みいただきましてありがとうございました。
これにて本編が完結いたしました。
この後番外編を書く予定です。
よろしかったらお付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。