76、トクシックの呪い
トクシックのかけた魔法でヒーの首輪が取れない。
「もうトクシックは死んだんだ。やつの魔法は解けるはずだ」
マーシェは力づくでヒーの首輪を取ろうとした。しかしそれはどこにも継ぎ目がなく、どうやって取ったらいいかわからない。剣で切ろうにもヒーの首が傷ついてしまう。
「無理だよ、フー。僕はもう、トクシックと一緒に溶けちゃうんだ」
「諦めないで、ヒー、きっと取れる」
そうこうしている間にもトクシックを溶かした液体は首輪から伸びる鎖をジュージューと溶かしていた。
「どうしたらっ」
「良いんだ。僕はトクシックの子どもだから、アイツと一緒に溶ける運命なんだ。フーは危ないから離れていて。僕が溶けてしまっても、僕のこと、忘れないで」
「何言ってるんだ。絶対に違う、ヒーはあいつの子どもじゃない、僕たちはアイツの子どもなんかじゃない、絶対に」
マーシェが力強く言うと、首輪がピキと音を立てた。
「ほら、魔法が解けかかっている。絶対に外れる」
「でも、もう」
「ヒー、お願いだ。希望を持って、ほら、音が出てる、きっと外れるから」
マーシェは必死だった。
たとえこの首輪が取れなくて、ヒーが溶けてしまうことがあっても、せめてトクシックの子どもではなく、ただの子どもになって欲しかった。
鎖はほとんど溶けて、ドロドロの液体はもう首輪に到達した。紫色の煙を出しながらヒーの首を溶かそうとしている。
「フー、ごめん。さようなら」
「いやだ! ちがう、僕はフーじゃない。マーシェだ。そして、君はセインだ。思い出して、君はセインだ」
「僕は、セイン?」
ヒーは思い出した。
今まですっかり忘れていた、自分の名前を。
フーがマーシェになったように、ヒーはセインだ。せめてセインとして死にたい。
そう思った時、首輪が飛び散った。
「うわああっ」
首輪の破片の鋭さにマーシェは顔を覆った。
「は、外れた」
セインは自分の首が、いや、体中が軽くなったのを感じた。手も心も頭の中もすっきりとしている。
トクシックの呪いが解けたのだ。
セインには、トクシックの子どもであって逃れることができないと、さんざん呪いをかけられてきた。こんな首輪までされて、身も心もすっかりトクシックの奴隷と成り下がっていたのだ。しかしセインは取り返した。彼はもう、トクシックの子どもではない。
「ああ、でも首が」
首輪は取れたが、首についてしまった少しの液体は残っていた。それはセインの首を少しずつ溶かし始めた。
「良いんだよ、マーシェ。君は僕を救ってくれた。これ以上はないほど幸せだ」
首が痛むのだろう。少し顔をしかめ、それでもセインは微笑んでいた。
「いやだ、セイン」
「でももう、無理だよ。ほら、離れていて」
「いやだっ、僕も一緒に行く」
マーシェはセインにしがみついた。
「な、何言ってるんだ。君は生きられる。幸せになって」
「嫌だ。僕たちは一緒だ。僕とセインとノルも、僕たちは仲間だ」
「そうだ。そうだね、ノルも。僕たちは仲間だ」
死んでしまったノルのことも、二人は忘れない。トクシックは死んだのだ。三人はもう自由だ。
その時、セインが持っていた白い棒が光りを発した。さっきトクシックから取り上げたあの棒だ。それがいきなり光りだし、二人のことを包んだ。