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72、休息の夜


 マーシェは全員が広場から退避したのを見計らい、泥人形と向き合った。そしてその泥に殴られて土に埋まった。

 そこまでは、隊員たちが見ていた光景だ。

 それからマーシェは泥の中でもがき、泥の中を這いつくばって移動したというのだ。そのまま行けるところまで這っていくのは大変だったが、二体目三体目の泥人形が攻撃していた時、すでにマーシェはそこにはいなかったのだという。


◇◇◇


 ガッツェ隊は駐屯地に戻り報告をすると、今回の件が全てトクシックの計略であったことがわかった。

 どうやらトクシックは、モヴェズヴィルをすでに掌握しているようなのだ。そしてあの鳥を使って少しずつロズラックを手に入れ始めているということだった。

「しかしあの黒い鳥はマーシェが捕らえて殺しました」

 ガッツェが報告すると、司令部ではマーシェをすぐに昇進させようという話が出た。しかし今はそんなことを話している場合ではない。早急にトクシックをなんとかしなければならない。

「トクシックのことだ。何もわからないうちに人間を奴隷のようにするやつだ。今すぐ総力を挙げて叩き潰さなければ」

 軍司令部では本格的な戦闘のために召集がかけられ、作戦が練られることとなった。


「ということだから、ガッツェ中隊もしばらく南西部国境地域(ここ)に留まることとなる。大隊が到着後合流、上層部の方針が決まり次第すぐに出撃となる」

 ついに戦争が始まることとなった。

 マーシェが入軍してからしばらくは平和だったが、国境辺りは時々小競り合いがある。兵隊たちにとってはこの日が来るのは当然だ。しかし相手はあのトクシック。普通の戦争とは少し違う。それが不安である。


 それまでの間、ガッツェ隊は短い休息となった。

 今回の任務は思いがけず大きくなり、隊員たちはへとへとであった。久しぶりに一日休息日があり鋭意を養う。マーシェは一度カイの家に戻った。


◇◇◇


 その日の夜だった。

 マーシェが寝ていると、窓がコツコツと叩かれた。

 軍人であるマーシェはすぐに覚醒し、短剣を持つと窓の方へ鋭い視線を送った。

 窓の外に細い人の影が見える。そして小さな声がした。

「フー、僕だよ」

「ヒー?」

 窓の外にいたのは、ヒーだった。


 マーシェはすぐに窓に寄った。しかし、ヒーは窓に映っているが実体ではなかった。幻影の顔や首には痣や傷があった。あまりの痛々しさに苦しくなる。

「ヒー、きっと助けに行くから」

 窓に映った幻影に呼びかける。ヒーは悲しそうに首を振った。

「いいんだ、フー。それより、トクシックが君の居場所に気づいてしまった。早く隠れたほうが良い。軍をやめて国を出て」

「ヒー、頼む、そんなこと言わないで。僕が助けに行くから。絶対行くから。確かにトクシックの力は大きい。だけど、僕たちは戦うから」

 ヒーは悲しそうに微笑んだ。

「たくさん、仲間ができたんだね、フー。でも僕は無理だよ。今日も結局ダメだった。僕のことは良いから、フーには静かに暮らして欲しい」

 二人の話は平行線をたどった。

 お互いがお互いのことを心配していて、一歩も譲らない。

 不幸であってほしくない、それだけだ。


 マーシェは窓に手をついた。思わずヒーの腕が掴めるのではないかと思ったのだ。そこに窓があって、その向こうにヒーがいる。

「あっ」

 何ということか、マーシェはガラスをすり抜けてヒーの腕を掴んでいた。そして天と地がひっくり返ったような気がした次の瞬間、マーシェはヒーの腕を掴んだまま、どこかの部屋に立っていた。



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