69、トクシックとの再会
トクシックは首輪を引っ張ってヒーを引き寄せると、マーシェに向かって蔑むような眼をして言った。
「フーじゃないか。探していたよ」
トクシックに声を掛けられるとマーシェはあの地下室の腐臭がしたような気がした。ゾッと背筋が寒くなり身体が震える。
「お前が誘拐されてからずっと探していた。こんなところにいたのか」
トクシックは嫌な笑いをしてジリジリとマーシェに近づいてきた。そうして「父さんと一緒に帰ろう」と言ったのだ。
ガッツェ隊の中から「父親?」と声が上がる。
「違う、お前は父親じゃない。お、お前は、僕の、両親を、両親を殺した奴だ」
マーシェは声を振り絞った。
こんなヤツを父親だと思われたくなかった。
コイツが自分の両親を殺したことを知ってると、トクシックに言ってやりたかった。コイツは人殺しだとみんなにばらしてやりたかった。だけどそれを口にする時、マーシェは震えていた。自分の中身を抉り出すような苦しみだった。
「何を言ってるのかわからない、両親のいないお前を孤児院から引き取ってやったのは私だ。それにお前に剣を教えたのも、戦い方を教えてやったのも私、そうじゃないか?」
確かに言っていることは正しい。マーシェは一瞬反論することができなかった。
「ち、違うっ、ヒーを離せ。ヒーも僕も、お前の子どもじゃない。そんな首輪をつけて父親だなんて言うな」
「お前が誘拐されてから、私は子どもを失いたくなくてね、ヒーが誘拐されないためにしかたがないのだ」
トクシックの言葉はまやかしだった。
ガッツェ隊の兵隊たちが混乱するようなことを言い、マーシェを苦しめる。その言葉自体がまやかしであり毒であった。
ガッツェ隊の隊員たちは、それでもマーシェの心を感じていた。父親と名乗るあの男は、優しそうな言葉を話すあの男は、マーシェの敵だ。そう感じられたのは、彼らは共に戦う仲間だからだ。マーシェを信頼しているからこそ感じられたのだ。
兵隊たちはマーシェとトクシックが話すのを観察した。そして、マーシェがあのヒーという青年を助けたいと思っていること、その首輪を掴んでいるあの男を敵と思っていることがわかった。それで、足音をさせないように少しずつその輪を縮めていった。剣に手をかけながら攻撃の隙を伺う。
トクシックはそれに気づいていた。
「ガラの悪い友だちと付き合うもんじゃない、フー。お前は帰ってきなさい」
マーシェは周囲を見渡す。それからガッツェに目くばせして小さく頷いた。
「僕はあなたの息子でもなく、ましてや奴隷でもない。あんなところに戻るはずがない。ヒーを離せ」
マーシェは剣を構えた。
「ヒーを離す? そんなわけがないだろう。なあ、ヒー?」
トクシックはヒーの首輪の鎖を持ち上げる。首が閉まる形になってヒーは苦しんで顔をしかめた。
「やめろっ、ヒーを離せ。さもないと」
「さもないと、なんだね? 私に剣を向けるとは、良い度胸だ!」
トクシックはヒーの鎖とは反対の手を上に上げると白い棒(杖というには太い、不格好な白い棒)を振った。