68、落ちた鳥
マーシェは慌てて逃げる。あの火も油も悪い魔法だ。触れるわけにはいかない。
しかし、マーシェはただ逃げるだけではなかった。
なぜ一人この広場に立って待っていたのか。そう、あの黒い鳥を捕まえるためだ。
マーシェは振り返りざま、持っていた短剣を思い切り投げた。
――ギィイイイーーーー!
聞いたことのない耳障りな音が鳴る。
短剣はしっかりと鳥に突き刺さっていた。
「おおー!」
ガッツェ隊から歓声が上がる。
「まだだ、待機!」
マーシェは叫びながら、剣を持ち鳥の落下地点で待った。空に上がろうとしていた鳥はそのままの形で落ちてくる。あの鳥は羽ばたきもしないでどうやって上がったのか、考えてもしょうがない。
広場に大きな音が響く。落ちてくるととてつもない大きな鳥だった。
その鳥の上にヒーが蹲っている。鳥の上に落ちたため、ヒーは無事なようだった。
マーシェは先に鳥に切りかかった。
短剣はどこに突き刺さったのかわからないが、まだ鳥は生きていたからだ。それでも痛がって暴れたりしていなかった。とにかくこれを殺してしまわなければならない。
鳥の首を何度も切りつけて、それを落とす。
「やったー!」
ガッツェ隊が叫び、飛び出してきた。もう待機、などしていられないのだろう。
大喜びで広場に掛け出てくる。
「ヒー」
鳥に乗っていたヒーは、あのころとほとんど変わっていなかった。
聡明な顔だちをしていて、マーシェよりずっと大人っぽい目をしている。貴族の服を着ているのがまた良く似合う。
マーシェは胸がいっぱいになった。
やっとヒーに会えたのだ。
「ヒー」
何と声をかけて良いかわからない。
手を出して、鳥から降りるように促すと、ヒーは首を振った。
「ダメだよ、フー。早く逃げて」
「ヒー? 鳥から降りて、逃げよう。ロズラックなら君を匿ってくれるから」
ガッツェ隊の面々が集まってきて、二人を見守っている。
「無理だよ、フー。僕が失敗するとトクシックが怒る。知ってるだろ?」
「でも、ここにはトクシックはいない。今がチャンスだ。早く逃げよう」
マーシェがもう一度手を差し伸べると、ヒーは恐る恐る手を伸ばした。そしてマーシェはヒーの手を掴むと鳥から下した。
「ガッツェ中隊長、彼は僕の友だちなんです。お願いです、すぐに保護してください。ポレミク、来てください」
こういう時は、兵隊よりも魔術師がいてくれた方が良い。
マーシェが呼ぶと、すぐにポレミクが来てくれた。ポレミクならマーシェがトクシックのところにいたこと、ヒーを助けたがっていたことを知っている。
ポレミクは微笑んで言った。
「良かったですね、マーシェ」
「はい」
やっとヒーが助け出された。どんなにこの日を待ちわびただろう。この日のためにマーシェは生きてきたのだ。
「ヒー? こちらへどうぞ」
ポレミクがヒーを保護しようと、近づいた時だった。
「あうっ」
ヒーが首を押さえた。
「ヒー?」
見ると、ヒーの首には首輪が付いていてその鎖の先をトクシックが引っ張っていた。