65、国境警備
国境警備隊に加わると、マーシェは早速司令部に配置された。
黒い鳥のことをわかっているのはマーシェだけだ。酷なこととはいえ司令部はずっとマーシェを待っていたのだ。
「一番手っ取り早いのは、マーシェの言う黒い鳥を捕獲することだ。できそうかね?」
「僕が見た限りでは、かなり大きな鳥に見えました。暗闇で見たので確かではないですが、捕獲となるととても難しいと思います」
マーシェは司令官にも臆さず答えた。
「普通鳥を捕るには、罠か網ですな」年よりの参謀がゆっくりと話す「大きな鳥となると、大きな網が必要ですねえ」
大きな網を放るのは技術がいるうえに、黒い鳥が見えるのはマーシェだけ。それはマーシェに託されるのだろうか。それに火をつけられたら、網はすぐに燃えてしまうだろう。やっかいな相手ゆえに考えることはたくさんある。
どちらにしろ、マーシェが鳥を捕らえるというのが決まったようだ。
ガッツェ中隊ではマーシェをいかに補佐するかが話し合われていた。
「油に触るのが危険なんだろう? どうやって避けたら良いんだ?」
「匂いがしたら、傘を被るとかはどうだろう」
「それ良いアイディアだな」
「もし油に引火したらかなり危険だ。悪い魔法の火だから消えないんだ」
マーシェはそう言ってから、ハッと気づいた。
これは悪い魔法だ。
わかっていたのに忘れていた。これは大事なことだ。
ただの火ではない。ただの油ではない。悪い魔法によるものなのだ。
脳裏にトクシックが浮かぶ。いや、トクシックとは限らないかもしれないが、どちらにしろ同じようなことを考える悪い魔法、まがい物の魔法使いの仕業だ。
「一回で仕留めないと、反撃されてよけい酷いことになる」
「じゃあ、火のことを覚悟してやるしかない」
「なんとか火を消すことができれば良いんだが」
「ポレミクに来てもらおう」
悪い魔法に普通の人間が太刀打ちできるはずがない。こういう時こそ正攻法の魔術師だ。とはいえ、正しい魔術師が太刀打ちできるかというと、そうでもないことをマーシェは知っていた。
◇◇◇
国境前の広場でマーシェは一人、網を持って空を見上げていた。
真っ暗な空にはあの時のように、星も見えない。
味方はみんな広場の見える物陰に隠れている。
マーシェが網を投げて、成功しようと失敗しようと、すぐにマーシェを助けに行けるように準備している。ガッツェ中隊全員が見守っている。
その外側には、国境警備隊の兵士たちが囲んでいる。これだけの備えがあれば、前回のようにはならないはずだ。
とはいえ、最初のきっかけはマーシェにかかっていた。
鳥を見つけたら網を放って捕獲する、シンプルな作戦を決行する。
空は相変わらず真っ暗で、風もなく空気が張り詰めている。
今夜は現れないのか、と思うほど静かだった。
しかしその時は来た。
ほんの少し空気が揺れる。その中にあの時と同じ、腐った油のような匂いが含まれている。
「来た」
マーシェは網を持ち、国境の空を睨んだ。