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63、抜け殻


 魔術師ポレミクは、ディコの最期を看取った。その時、ディコの小さな声を記録していた。それは魔法で、心の声を全て知ることができた。

「それによれば、マーシェ、君が黒い鳥と油の真相にたどり着き、全ての小隊に知らせてくれたそうだね」

「……いえ、」

「君は全偵察地をほとんど休みなしに走り抜けたそうではないか。暗闇の中、中隊を率い、最後はディコ中隊長と二人で戦い、敵兵を蹴散らした。そしてディコ中隊長をここまで連れて帰ってくれた。よくやった。

 ディコ中隊長の最期の言葉では、君の昇進を望んでいた。そのつもりでいたまえ」

 マーシェはなにも、返答できなかった。


◇◇◇


 あの後、軍は荒れ地にディコ中隊の生存者を探しに行った。

 しかし荒れ地には生きている者は誰もいなかった。マーシェが戦った辺りにはモヴェズヴィル兵の遺体が大量にあったが、あとは遠ざかるほどディコ中隊の兵隊たちの遺体が点々と転がっていたそうだ。

 ディコ中隊で生きて帰ってきたのはマーシェだけだった。

 みんなあの火に巻かれて、そして暗闇でモヴェズヴィルの兵隊に襲われて死んでいった。ほとんど戦うこともなく、何が起こったのかわからないままに命を落としたのだ。

 あの時、スプトゥから離れずに戦っていれば、あの時、もっと鳥のことをきちんと説明していれば、あの時ディコのことをちゃんと見ていれば……救えた命があったかもしれない。

 そう思うとマーシェは苦しくてたまらなかった。


 マーシェはしばらく、立ち直れなかった。

 ディコ中隊はもう誰もいない。マーシェが入隊する前からずっとディコについていたのに、もういないのだ。

 ディコの執務室の整理に行かなければならないのに、とても行くことができなかった。

 訓練だけは参加したが、ぬけ殻のようだった。


 それでも機械的にマーシェは動いていた。マーシェの健気な様子を仲間たちはみんな見ていた。いつもと同じように接し、いつもと同じようにそばにいてくれた。

 彼らはどうしてこんな状態のマーシェに、普通に接することができるのだろう。手柄を立てたマーシェを羨むことをせず、上官や仲間を失ったマーシェを憐れむこともない。軍人として、人の生き死にを見つめているからこそ、そんなマーシェの気持ちが痛いほどわかる。だから、普通に接することができるのだ。


 一歩間違えば、マーシェと同じ立場にもなるし、一歩間違えば、マーシェを悲しませて先に死んでしまうかもしれない。軍人は命を懸けて戦うのだ。だから仲間の気持ちがわかる。

『マーシェ、良いか、もし軍に入るのなら、仲間がいるということを覚えておけ』

『軍隊は結束だ。全ての軍人が味方であり仲間である』

 ディコの声が聞こえた気がした。

 同じ立場の仲間がたくさんいる。一人じゃない、と。


 ディコの最期の願いは、マーシェに後を継いで中隊長になってもらうことだった。とはいえ、マーシェはまだとても若く経験も少ない。中隊長として十分な素質はあるが、様々なことを鑑みて、マーシェは小隊長に昇進した。



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