6、剣の訓練
トクシックに引き取られた中で、フーだけが剣の稽古をしていた。それは彼は一番小さいとはいえ、身体能力が明らかに高いということがわかっていたからだ。
トクシックはフーのために特別な仕掛けのある部屋を用意してあった。その部屋は、フーを攻撃してくる装置や、足元がぐらぐら揺れたり落ちたりする床や、端から端まで剣を持って駆け抜けるだけでも命がけとなるような仕掛けが施されていた。
フーはそこで毎日剣だけでなく、予想もつかない攻撃から避けたり身を守ったり、そしてそれらに反撃したりという訓練をしていた。それらの装置は訓練をするというよりは、フーを痛めつけるために造られているようなものだった。しかもトクシックの気まぐれで、時々入れ替わったり新しい装置が増えたりして、そのたびに大けがをしていた。
4歳のフーには厳しいものばかりで、痛めつけられるだけのその部屋が大嫌いだった。
「どうだ、しっかり鍛えているか」
フーが部屋の中で訓練をしていると、珍しいことにトクシックがやってきた。
フーは急いでトクシックの前に行った。
「はい、トクシック様」
肩で息をしながらフーは答える。
「外に出ろ、一緒に来い」
「はい」
珍しいこともある。トクシックはいつも研究室にいて、そばにはヒーがいるのだが、今日はヒーを研究室に残してここに来たらしい。
外に出ると、泥でできた子どもの像が立っていた。
「今日は素晴らしい攻撃の仕方を教えてやろう」
「はい、ありがとうございます」
トクシックはなぜかご機嫌だった。その機嫌を損ねてはならない。新しいことを教えられてうまくできなければまた機嫌が悪くなり、下手をすれば自分で持っている剣で死ぬ羽目になる。フーはとても緊張していた。
「この泥人形を見ろ。人間の顔の構造は実に単純。お前が狙うのは目だ」
「はい」
トクシックは一度フーの持っていた剣を取り上げると、その泥人形の顔に切っ先を近づけた。
「構え方はどうでも良い。お前はまだ小さいからな。しかし狙いは目だ。深すぎず浅すぎず、両目を一直線に切りつける、それだけだ」
「はい、わかりました」
「わかったらやってみろ」
「はい」
フーはトクシックから剣を受け取ると、その泥人形の顔に剣を向けた。そして目のくぼみの辺りに剣先を当て横にひいた。
「やることはわかったな。あの木で練習すると良い。どんな時でも、それができるように訓練するのだ」
「はい、わかりました」
トクシックはそれだけを言うと、研究室へ戻って行った。
今日は本当に機嫌が良いのだろう。それ以上何も言われず、フーはホッと息を吐いた。
しかし安心してばかりもいられない。あのトクシックが言ったことはとても難しい。人の目はとても細い。実際に生きている人間は動くのだから、目を狙うというのは簡単ではない。それに、深すぎず浅すぎずというのはどういうことだろう。頭全部を切ってしまうほど深くはなく、まつげに届くくらいでは足りないというのだろうか。
どれだけ訓練すればそれができるようになるのか、想像もつかなかった。