52、遠くの火
マーシェは第二小隊へたどり着き、ディコの伝令を伝えると、第二小隊はすぐに集合した。
「このまま東へ向かって国境隣接地帯へ戻ってください。暗いですから気を付けて」
「わかった。マーシェ、君は?」
「僕は第一小隊へ伝えに行きます」
そう言うと、マーシェはすぐに荒れ地へ駆け出した。もう辺りはすっかり暗くなっている。これだけ暗ければ、城壁からは見られないだろう。それくらい真っ暗だった。それでもマーシェはとても夜目が効く。足元のゴツゴツした荒れ地を走ることができた。
第一小隊へたどり着き伝令を伝える。
「なんだって、こんな時間に移動?」
「はい。急いでください」
「第一小隊、集合!」
静かではあるが小隊長が集合をかけると、兵隊が集まってきた。隊を組んですぐに荒れ地へ出発となったが、歩みが遅い。
「急いでください」
マーシェが言うと、小隊長はためらった。
「君は、よくその速さで歩けるな」
「え?」
見れば、どの兵隊もまるで手探りで、いや足で地面を探って歩いている。あまりの暗さに見えないのだ。
「僕は目が良いみたいです。僕が先に歩きますから、剣を掴んでついて来てくれますか」
「ああ、それは助かる。一列縦隊、前者の剣を持て」
「はい」
剣に掴まって歩くことで、彼らはなんとか荒れ地を歩くことができた。
しばらく歩くと、前方に第二小隊がいるのが見えた。彼らもまた、この暗さで歩くことができずにいたのである。
マーシェが近づくと彼らはとても驚いたが、ここでグズグズしているわけにはいかないことはわかっていた。彼らもまた、第一小隊と同じように一列になって、互いの剣を頼りに歩くこととなった。
無言で、なるべく足音をさせずに進む2小隊をマーシェは引き連れて歩いた。
マーシェ一人ならもっと早く歩ける、いや走れるが、彼らに合わせなければならない。それが軍隊だ。マーシェは気持ちが焦るのを感じながらも、これが最速であることもわかっていた。
しばらく歩くと前方にまたロズラックの兵隊が見えた。それはスプトゥの率いる第三小隊だった。マーシェが追い付くほど、辺りは暗く普通の兵隊には歩くのが困難だった。
第一小隊と第二小隊と同じように、前の人の剣の先を掴んでもらい、マーシェが先頭になって歩いた。
実は、地面の見えない兵隊たちは、マーシェの剣に引っ張られるように歩いていた。そのため、マーシェは後ろに30人もの男たちを従えてそれを引っ張らなければならなかった。一歩進むのもとても重いのである。
歩みはいよいよ遅く、マーシェに負担がかかる。
それでもマーシェはできる限り急いだ。嫌な予感がするのだ。あの腐った油の匂いが微かにではあるが漂っている気がする。
不安は次第に大きくなる。
不安を拭うようにマーシェが歩いていると、真っ暗な荒れ地に小さな明かりを感じた。
「おっと」
異変に気付いたマーシェが立ち止まる。後ろの兵隊たちがつんのめるようにして、止まった。
真っ暗だからこそ気づく、小さな光。しかし明確な明かりは見当たらない。マーシェはきょろきょろと周囲を見渡した。
腐った油の匂いがする。
そしてはるか後方を見ると、向こうに火の手が上がっているのが見えた。
「スプトゥ小隊長、後ろを見てください」
マーシェの小さな声を聞き、すべての兵隊が後ろを振り返った。
「俺たちの隊のいた辺りだ」
第一小隊の隊長が呟いた。