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51、伝令


 三日目の朝になると、マーシェは腐った油の匂いと鳥のことをディコに伝えるべきか悩んだ。しかし今は三日間の偵察中である。通常であれば偵察中は誰も動いてはいけないものである。しかも今回は中隊丸ごとの大規模偵察であるため、情報を伝達することが難しい。

 このまま偵察を続けるべきではある。

 しかし、マーシェは心が騒いでたまらなかった。


 夕暮れ前、マーシェはついにこのことをスプトゥに伝えに行った。スプトゥは第三小隊の隊長だ。第三小隊はある程度固まっている。まずはスプトゥに聞くのが良いだろうと判断した。

 とはいえ、三日三晩不動の偵察のはずで、マーシェが動くことは本来ならばあってはならないことである。

 マーシェはできる限り静かにスプトゥのところへ行った。

「バレてる?」

「そうだと思います。それにあの火はなんか変だと思いませんか」

 それがどういう意味か、スプトゥにもわかっていた。

 もし今夜、ディコ中隊が荒れ地であの鳥に襲われるようなことがあった場合、非常に危険ということだ。

 ディコ中隊はすでに二日間も不眠不休で気を張ったまま偵察をしている。体力的には限界に近い。そんなところで予測不能の何かに襲われればひとたまりもないだろう。


 しかしそれは、あくまでも憶測である。

 敵はこちらに気づいていないかもしれないし、もし気づいていたとしてもいきなり襲ってくるという確率は低い気がする。

 どう考えるか。

 軍人として、どう考えるか。

 偵察中にわざわざマーシェが伝えに来たのだ。それはきっと、意味がある。


「ディコ中隊長に伝えよう」

 偵察のさなか、異例の伝令を出すこととなった。

 モヴェズヴィルの城壁から気づかれないように、静かに行動しなければならない。もし城壁の外の荒れ地にロズラック軍がいるとわかれば、さすがに彼らも攻撃してくるかもしれない。しかしこちらは偵察をしているのであって、戦う準備はあまりされていない。戦いに来たのではないからだ。

 だから気づかれてはならない。

 伝令はゆっくりと静かに行われるしかなかった。


 伝令が伝わったかどうかがわからない、不安な中、三日目の日が落ちようとしていた。

 マーシェが持ち場に戻りじっとしているとやがて日が沈み、三日目の夜がやってきた。その時、伝令が帰ってきた。

 各小隊ごとに、可能な限り国境隣接地帯まで戻るようにとの命令だった。

 やはりディコ中隊長の判断は、マーシェと同じだった。この夜に荒れ地にいることは非常に危険だという判断である。

 移動はモヴェズヴィルの城壁から悟られないように静かに行わなければならない。ちょうど日が沈み見つかりにくくなったとはいえ、中隊は100人もいる。それが全部移動すれば、空気が慌しくなるだろう。気を付けなければならない。


「第二小隊、第一小隊へはお前が伝令に行ってくれ」

「了解であります」

 マーシェは伝令を任され、第三小隊を離れ西へ向かった。

 その日の空は曇っていて、暗い夜だった。そんな荒れ地をマーシェは一人、第二小隊へと走って行った。



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