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5、二人の介抱



 フーがこの家に来て一年が過ぎるころには、3人はこのトクシックの異様な恐ろしさを次々と体験していた。

 トクシックは魔術師ではないはずなのに、不思議な力を使うことが多かった。頭のいいヒーはその助手をさせられていて、その恐ろしさの近くにいさせられた。

 ある日、フーがいつものように水汲みと薪割りを終わらせ、トクシックの作った仕掛けのある部屋で剣の練習をしている時だった。

「フー、来なさい!」

「はいっ、すぐに行きます」

 いつもは、剣の練習をしている時はあまり呼び出されない。集中しなければ危険な、仕掛けのある部屋は気を付けないと怪我をしてしまうからだ。トクシックはそれがわかっていて、鍛錬中はあまり声をかけてこなかったが。


 いつもと違うと思いながらフーがトクシックの部屋へ行くと、大きな作業机の横にヒーとミーが倒れていた。

「この二人を部屋に戻せ」

「はい、只今」

 フーは4歳。7歳の子どもを持つことは普通は無理である。しかし、普段から水汲みをしているフーにはヒーを肩にのせて、足は引きずってしまうが、部屋まで連れて帰ることができた。とはいえ、ヒーは完全に口から泡を吹いていたし、背中に乗せると時々ビクンと痙攣するような異様な状態だった。

 ヒーを部屋に戻し、ミーを担ぐ。

 ミーはヒーに比べれば幾分かましではあった。ぐったりして動けないが意識はあった。とはいえ、自分よりもずっと大きな身体のミーを運ぶのは大変な仕事だった。

「運んだか、のろま!」

「運びました」

「では、ここを拭け」

「はい、すぐに」

 汗を流し肩ではあはあと息をしていても休む暇はない。

 フーが雑巾を持って二人の倒れていた床を拭くと、嫌な臭いが漂った。それにフーの手もヒリヒリと痛んだ。


 何があったか正確なことはわからないが、ヒーは薬品を飲まされたのではないだろうか。泡を吹いて倒れるほどのことだ。場合によっては死んでいただろう。

 最初は恐ろしいと思ったフーだったが、それが二度、三度と起こるたびに、フーはそれに少しずつ慣れた。とはいえ、自分がその役をやるのは絶対にゴメンだと思っていた。

 不思議なのは、ヒーが倒れるとまずはミーが呼ばれ、ミーも倒れるとフーが呼ばれるということだった。

「それはまず僕が実験台になるからだよ」

 三人で勉強中にヒーがそう言った。

「実験台?」フーが聞く。

「そう、トクシックは毒薬の研究をしていて、それを僕に飲ませるんだ」

「毒ってわかってて、飲むの?」

「飲んだって飲まなくたって同じだもの」

 ヒーはうんざりと肩をすくめながら答えた。

 その意味は勿論、フーもわかった。毒を飲めば死ぬほど苦しいし、飲まなければ死ぬほど殴られるだろう。どちらも同じだ。直接トクシックに殴られないだけ、毒の方がましなのかもしれない。

「でも一応、トクシックだって毒消しをする。あの白い指輪で、ある程度の毒消しはできるんだ。その実験でもあるし」

 トクシックは魔法のようなことをするが、それは彼自身が魔法使いだからできることではない。ヒーはそれを知っていた。トクシックの魔法のような力は、トクシックが身に着けている石やそれを加工したもののおかげなのだそうだ。

「じゃあミーも?」

「ううん、僕は違う。僕は呼ばれたらヒーに手を当てろって言われるだけさ」

「どういう意味?」

「さあ、わかんない」

 ミーはあっけらかんと答えた。

「ミーがどうして手を当てるのか、それも研究中なんだよ」

 ヒーがそう答えると、ミーは少しおどけた顔をして見せた。

 こんなに怖い実験をされていても、ミーはなんだか場を和ませる。日々の恐ろしい研究や折檻に耐えられたのは、ミーの存在が大きかった。



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