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48、悪い心


 マーシェが14歳になると、班長に推薦された。

 マーシェは模擬戦でも一度も負けなしであったし、戦術だけでなく人当たりも良かった。誰にでも親切で信頼もあり、若さなど関係なしに班長になることをみんなが了承していた。

 マーシェはこれはやはり、自分の中に流れる戦士の血のおかげなのかもしれない、と感じていた。


 マーシェが班長になりしばらくすると、カイは元の家に戻った。そちらの方が静かで暮らしやすいし、カイはもう隠居したいと思っていたのだ。

 カイがロズラックの南西部にある家に戻ってしまったということは、マーシェの保護者がそばにいないということになる。

 それを心配したディコは何かとマーシェを気にかけてくれた。

 マーシェはディコの付き人として働いていたのもあり、訓練以外の時はディコの執務室にいたし、ディコに時間のある時はいつも稽古をつけてもらっていた。


「マーシェの剣は変わったな」

「え?」

 稽古の終わりに、ディコはしみじみと言った。

「昔はがむしゃらで、やっつけようって気合ばかりだったけど、最近、特に入隊試験の後くらいからずいぶん変わったよ」

「そう? がむしゃらじゃないですか?」

「うん、ずいぶん気を使っている気がする。稽古でなんかあったか? 自分より弱いやつばっかりだからやりにくいか?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

「うん?」

 ディコは少し心配しているようだ。心配するようなことはない、と言えばいいのだが。

「たぶん、入隊試験でルナさんと戦ったのが、怖かったから」

「ルナが?」

「あ、いやいや、ルナさんが怖かったってわけじゃないんだけど」

 そう言いながら、マーシェはちょっと周囲を見た。ルナもディコの付き人なのだから、いつ執務室に戻ってきてもおかしくない。

「そんなに心配しなくても、あいつなら大丈夫さ」

「いえあの、ルナさんの剣はすごいです。僕の……心の中の悪いものが全部出そうになって、それで怖かったっていうか」

「心の中の悪いもの? マーシェは素直で良い奴だと思ってるけど、もしかして悪いやつなのか?」

 ディコは少し笑いながら、たぶんマーシェの気持ちをほぐすつもりでそう言った。でもマーシェは真面目な顔をしたままだった。


「うん。僕……昔、トクシックっていう悪者のところで育てられて、」

「ああ、少し聞いてるよ」

「敵を痛めつけるための剣を仕込まれてるんです。訓練の時は訓練の通りにできるんだけど、ルナさんの剣はすごく正確すぎて、隙を見せるとすぐに負けそうだった。それで隙を見せないようにしていたら、昔の自分が出てくるようだった。僕は、本当は悪いやつなのかもしれない。訓練で仲間を傷つけたらどうしようって、あの試合の後よく考えるんです」

「なるほど」

「でも、トクシックのところに残った友だち、ヒーを助けたい。だから僕は強くなりたいんです。僕はそのために軍隊に入ったんです……でも、こんな僕が人を助けるための仕事なんて、無理かもしれない」

 マーシェが下を向いてしまうと、ディコはマーシェの頭を撫でた。

「良いんだよ、マーシェ。それは自分のためじゃない、大事な友だちのためじゃないか。それで良いんだ。マーシェは悪いやつじゃない。

 もちろん誰だって私利私欲を求めるさ。強くなりたいという理由に私怨のあるやつだっていくらでもいる。でもそれは本当の心だ。逆に、その若さで正義のためだって言うヤツなんていないんだよ。友だちのヒーのために、頑張れ。軍は結束、みんなお前のことを応援しているから」

「うん……ありがとう。僕もディコを応援します」

「ありがとう。期待してるよ」

 仲間を思うからこそ心配もある。ディコはマーシェなら大丈夫だと信じていた。その心を感じ取って、マーシェはもっと頑張ろうと思うのだった。


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