41、森で出会う仲間
ガサガサと動き、藪から現れたのは入隊試験を受けている仲間だった。
「あっ」
その人はマーシェを見ると驚き、それからいきなり泣き顔になった。
「君、指令はどのくらい進んだ?」
今にも泣きそうな情けない顔をしたままその人はマーシェに尋ねた。きっとなかなか指令がうまくこなせていないのだということは、マーシェにもわかった。
「はい、だいたい順調だと思います。あなたは?」
もうほとんどできた、とは言わないでおいた。
「俺は、まだひとつも。なあ、軍のマークのついた葉っぱを見かけなかったか? ひとつでも良いんだ。だいたいどんな感じなのかわかれば、残りは自分で見つけるから」
いきなりその人はすがるような声で聞いてきた。
「たくさん見つけなければならないんですか?」
なるほど、だからあちこちで軍のマークのついた葉っぱを見かけたのか、と納得した。
「ああ、10枚以上持って帰ってくるようにって指令なんだが」
「あっ、こういうのですか?」
マーシェはまるでたった今気づいたかと言うように、その人のすぐ横にある葉っぱを取って見せた。
「おおっ、こ、これだー!」
やっと見つけてその人は大喜びした。
「だったら、たぶんこの道沿いに2,3枚は見かけた気がします」
「本当か!? ありがとう、ありがとう! よーしっ」
と、その人はまた藪に入って行きそうだったので、マーシェは慌てて叫んだ。
「道沿いですよ! 普通に歩けば目線にありますから」
「わかった、ありがとう~!」
その人は藪から出て来て、道に戻ると喜び勇んでマーシェの言った方向へ走って行った。
マーシェは最後の指令をこなし、張り紙に目印を書いた。あとは森を抜け切るだけだ。もう向こう側はかなり近いはずだ。太陽の位置からしても、そんなに遅くはないだろう。順番では最後の方に入森したが、もしかすると順位を上げているかもしれない。
しかしこういう時に油断が生まれる、ということをマーシェは知っていた。ここは慎重になったほうが良いだろう。
と思ったその時、向こうにまた仲間を見つけた。見つけたというか、聞こえた。
「うりゃ、こっち来んな! しゃーっ」
何かを威嚇しているような大声を出している。
近づかないほうが良いだろうか。それとも、困っているかもしれない。少なくとも指令をこなしているような感じではないし、平穏な雰囲気はない。
マーシェはわざと音を立てて自分の居場所を知らせるように歩いた。
しかしその人は振り向かない。
そのまま歩いて行き、その人のそばへ行くと、彼が一体何に対してあんな大声を出しているのかを見つけた。
「あっ、蛇じゃないですか」
蛇はとぐろを巻いて首を高くもたげている。これは攻撃の姿勢だ。しかもその蛇は毒があるものだとすぐにわかった。
「おう、お前、危険だから下がってろ」
その人は短剣を持ってじりじりと蛇とにらみ合っている。
本来この蛇はあまり人間を襲わない。自分が襲われそうになった時だけ反撃してくるのだ。だからとぐろを巻いていても、こちらが大人しくしていてそっと離れれば攻撃されることはない。
「でも、危険ですよ。下がったほうが良いんじゃないですか?」
「見てろよ、このやろ」
蛇はチロチロと舌を出して、こちらの出方を伺っている。
こちらが動かなければ蛇も動かない。
それなのに、その人は「うりゃー!」と叫んで蛇に突進していった。