39、ヒーの夢
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落雷は運よく、マーシェの向こう側に落ちたが、スプトゥから見るとちょうどマーシェに落ちたように見えた。
「マーシェ!!」
スプトゥが走って戻ってきた。マーシェの向こう側の土が煙を上げている。
マーシェは無事だった。ただ至近距離に落雷したため、少し体が痺れているようだった。スプトゥはマーシェを連れてそこを離れた。
任務が終わり、駐屯地へ戻るとマーシェは魔法使いのところに連れていかれた。魔術師ポレミクが診ても、マーシェは無事だった。
ただ、マーシェのマントは少し補修が必要だった。
このマントは、色々な衝撃に耐えられる。とはいえ、至近距離の落雷では痛むのだ。このマントのおかげで、マーシェは無事だったのだろう。
それを見てマーシェは、あの時の若い魔法使いの有様を思い出していた。
あの時、若い魔法使いはボロボロだった。マントがほとんど破けてしまっていたはずだ。いったいトクシックの魔法はどれだけ威力があるのだろうか。魔術師のマントを引き裂くほどの魔法に、どうやって対抗したら良いのだろう。
そんなことを考えながらその日は休んだ。
そのせいだろうか。マーシェは夢を見た。いや、それは夢ではなかったのかもしれない。
「フー、会いたかったよ」
夢の中で、ヒーに話しかけられたのだ。
「僕もだよ。ヒー。絶対に助けに行くから、待ってて」
マーシェがヒーにそう言うと、ヒーは首を振った。
「ううん、僕のことは良いんだ。君はもうここに戻っちゃいけない。トクシックに何をされるかわからない。君はね、君の血は僕と違って利用価値がある。だから、戻ってきちゃだめだ」
「どういう意味、ヒー? 血に利用価値があるって」
「気にしないで、フー。君は軍隊で活躍しちゃダメだよ。もしまた活躍しそうになったら、また雷を落とすから。気を付けて」
「雷って、どういうこと? ヒーが雷を落としたってこと?」
「ずっとトクシックのところにいるからね、僕にはこのくらいのことができるんだよ。僕が君の場所に気づいてるってことは、トクシックは知らない。だから安心して。トクシックのことなんて忘れて、軍隊なんてやめて、そうすればフーは安全に暮らせるから」
「違うよ、ヒー。僕は君を助けたいんだ」
「良いんだよ、フー。僕はね、フーには静かに暮らして欲しいんだ、軍隊にいたらトクシックに見つかりやすい。だから軍隊はやめて・・・」
「ヒー、待って、ヒー!」
目を開けると暗闇だった。今は、真夜中だ。
これは本当に夢だろうか、それとも現実にヒーが話しかけてきたのだろうか。
もしそうだとしたら、聞き捨てならないことがたくさんあった。
ヒーはマーシェに助けられることを諦めている。そのために雷を降らせたというのだ。そんなことが可能だろうか。
それより気になるのは、マーシェの血のことだ。トクシックにとって利用価値のある血とはなんだろう。
夢だったとはいえ、これは現実だと思うことにした。
マーシェの血には何かがある。きっとそれが真実なのだろう。