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38、落雷



 東長川はロズラックの中心部から東へ行ったところで、大きな川がさらに東の海へ流れている。その中流で氾濫があり、重要な橋が二本、流れてしまった。

 今回はその橋をかけ直すことが第一任務である。橋のこちら側をディコ中隊が、あちら側をもうひとつの中隊が直し、さらに川の周囲を片づける任務を違う中隊が行うことになった。つまり3つの中隊が出動している。


 東長川の流された橋を見て、ディコ中隊は途方に暮れた。

 大きな川ではないとはいえ、結構な水量で足場も荒れていたからだ。


 最初のうちマーシェはとても緊張していたが、硬くなっている場合ではなく、どんどん仕事をしていくうちに次第に現場での動きができるようになった。

 橋を渡すのはすぐにできたものの、それぞれの橋台に固定する作業は大変なものだった。

 この地域では、川岸に高い主塔を据え(主塔は流されていなかったので、それを利用する)、そこにかずらを編んだもので橋を吊る仕組みになっているのだが、このかずらを吊るす作業、そして固定する作業は大変に力がいる。それに足場が悪くなっていて、作業は難航した。

 マーシェも太いかずらをしっかりと握り、小隊長の掛け声に合わせて引っ張り、足場の泥と格闘しなければならなかった。しかし流石に軍隊の統制はすばらしく、お互いがお互いを補いながら、難航しつつも着実に仕事を進められた。

 マーシェも軍の一員として仕事ができて、来て良かったと思った。


 五日目で作業は終わり、次の橋にとりかかる前に最後の点検をしている時だった。

「あっちの橋は、魔術師が来て直すそうだよ」

 ディコ中隊長が隊員に伝えると、みんなからため息が漏れた。

 軍隊の、しかも3つの中隊が五日もかけてやっと一つの橋を架けたというのに、魔術師はほんの杖の一振りで直してしまうのだ。勿論仕事を手伝ってくれるのは助かるが、こうも簡単に仕事をされると、なんかやるせない。

 とはいえ、魔術師もきっと、すでに五日も経っていたために手伝うことにしたのだろう。


 その点検中に、マーシェは見つけてしまった。

「スプトゥ小隊長、主塔の上の留めはアレで良いんですか?」

 上のかずらが一か所外れてしまっているように見える。

「外れてるなあ。すぐ留められると思うが」

 それで、スプトゥ小隊長がそこに上ることとなった。

 高い主塔の一番上まで登らなければならないため、命綱を数人で持って作業を見守る。そこにマーシェも加わった。


 スプトゥはするすると主塔に上り、上のかずらの外れているところを直した。それからすぐに降りてくるだけだったが、その時、いきなりピカと空が光り、続いて腹に響く轟音が響いた。

「雷だ!」

 隊員たちは驚き、一瞬命綱を離しそうになった者すらいた。

「気を付けろ! 急いで下せ」

「スプトゥ小隊長、気を付けて!」

 空は晴れているはずなのに、バリバリと空を裂きながらまたも雷が鳴った。強い風が吹きつける。晴れた嵐のようだ。

 命綱を引きながらもスプトゥを下す。スプトゥは上から「フードを被り、低姿勢になれ!」と叫んだ。

 そして着地すると「全員避難! 低姿勢で主塔から離れろ!」と言いながら小隊を引き連れて走った。

 その時、また空が裂けた。突風が吹きつけ、数人のマントが煽られて転がる。

「川に落ちるぞ!」

 マントが煽られた勢いで、身体の軽いマーシェは川べりまで滑っていた。川はまだ嵐の名残で水量が多く木の枝なども勢いよく流れている。そんな川に落ちては危険だ。慌てて班員が戻って来る。

「掴まれ!」

 班員が手を伸ばしてマーシェを掴まえてくれた。マーシェはその手を掴み、滑り落ちそうになっている川べりから上がった。しかし、その時また落雷があった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の進み方、描かれ方が丁寧で読みごたえがあり、とても好きです。 人物の名前もよくある系じゃないから、別世界の話として、読めて安心します。 [一言] 楽しみに続きを読んでいきたいです
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