31、見習いへ向けて
二日に一度、マーシェはディコの剣の訓練を受けている。ある日、兵営にある訓練場に行くと声を掛けられた。
「マーシェ!」
「あ、スプトゥさん」
「わお、名前覚えてくれたのか。こないだはごめんな。首大丈夫だったか?」
「大丈夫です。先日はすみませんでした」
マーシェは深々とお辞儀をした。友達のように話しかけてくるスプトゥとの距離感がいまいちわからないらしい。
「敬語なんていらないよ。スプトゥって言ってくれ。なあなあ、それよりさ、マーシェはディコ中隊長の空き時間に来るんだろ?」
「うん」
「それだと二日に一ぺんじゃん。時間があるならさ、俺たちと一緒に訓練しないか?」
「えっ、良いんですか!? 僕も一緒に?」
マーシェがあまりにも嬉しそうな顔をするのでスプトゥもとても嬉しかった。
それでマーシェは毎日兵営に通い、ディコとの訓練のほかに、一般の兵隊たちと一緒に訓練に混ぜてもらうことになった。
「剣の訓練ばかりじゃなくて悪いが、身体を作るのも大切だからな」
「はいっ!」
「わはは、いい返事だな!」
重い物を運んだり、高いところに登ったり、走ったり転んだりするのは、兵隊たちには体力づくりの一環だったが、マーシェにとっては遊びのようだった。
それに鬼ごっこのようなゲームもたくさんやった。
こういうものはディコと二人ではできないことで、しかも今まであまり友だちのいなかったマーシェにはとても新鮮だった。遊んで楽しみながら団体戦のやり方を自然に学んだ。ボールを使ったゲームや目隠しをするものもあって、味方という存在がいかに重要かが理解できるようになった。
当然兵隊たちの中で一番若いマーシェは、人に頼るということも自然に学べた。マーシェのようになんでもできる子どもは、頼ることが難しいこともあるが、兵隊たちは体も大きく体力もある。技術ではすでにマーシェも引けを取らなかったが、大人に頼らなければできないこともたくさんあった。逆に小さく身軽なマーシェだからできることもあり、そういう時は兵隊たちもマーシェに頼りマーシェに任せることがあった。
そういう関係を作れるようになると、マーシェは周囲を見る目が養われ、見習いとして入隊できる14歳になる前には立派な兵隊に成長していた。
◇◇◇
「特例ではありますが、本人の希望もありますし、見習い生として入隊を許可していただきたいと思います」
兵隊たちは総隊長に、またカイに、マーシェが入隊できるように働きかけてくれた。
実は最初、カイはあまりいい顔をしなかった。その時マーシェは12歳になっていたが、身体は小さく細く、賢くても、やはり子どもだったからだ。
「マーシェ、私は君が入軍するのはいささか早いと思うのだよ」
「心配してくれて、ありがとうございます。僕は決して自分の実力を驕っているわけではないと信じてください。僕は、毎日兵隊の皆さんと訓練を一緒にしていて、自分の弱さを知ることができました。だからこそ、みんなのために、人のために軍隊で働きたいんです」
「軍隊に入れば、ヒーを助けられるからか?」
カイの目をしっかりと見つめ、マーシェは言葉を探した。
「勿論、それもあります……でも急いではいません。僕はまだトクシックに勝てるとは思えません。でも、そのために自分を鍛えたいんです。自分の弱さを知ることは、強くなるために必要なことでした。兵隊の仲間となら、僕は強くなれると思うんです」
カイとマーシェはたくさん話し合った。マーシェがいかに本気であるか、カイが思っているよりもたくさんのことを考えているかがわかると、カイは入隊を許可してくれた。
それでこの年、マーシェは12歳にして入隊(見習い)となったのだった。