30、救出失敗
声もなく三人は互いを不安そうに見つめた。
そうして数分が経った時、三人の真ん中に突如若い魔術師が現れた。うずくまりボロ布のようだった。若い魔術師は震えながら
「すみません」とだけ言った。
それは、子どもたちを救出できなかったということだ。
マーシェは全身の血の気がスッと落ちていくような気がした。ヒーとミーは助けられなかった。まだあのトクシックの屋敷にいるのだ。いや、屋敷ごともうどこかへ逃げてしまっただろう。また一から彼らを探さなければならない。
「くっ、うううっ、うっ」
マーシェはあまりの辛さに嗚咽を漏らした。
わかっている。
トクシックはただものではない。簡単にヒーとミーを救出できるわけではないのだ。
もしかするとあの時、マーシェが叫んでしまったから、そのせいで救出できなかったのかもしれない。
それにこの魔術師は酷い有様だった。
マントはほとんど破け、全身が傷だらけだ。片足が明らかにおかしな方向に曲がっているうえに、片目が潰れ血を流していた。
魔術師の片目の傷は、刃をスッと横に引いてできたもので、最小限の労力で最大の苦痛を与えるものだった。そう、それはマーシェがトクシックに仕込まれたあの技だと気づき、トクシックがまだマーシェのことを狙っているのだということの証でもあり、マーシェは背筋がゾッと冷たくなった。
ポレミクはマーシェに小さな魔法をかけ落ち着かせると、若い魔術師を連れて消えた。
次の朝、マーシェが少し落ち着くとカイが昨日の作戦のことを教えてくれた。マーシェは魔術師の魔法のおかげで取り乱すことはなかったが、それでも心は痛み苦しくてたまらなかった。
「トクシックの魔法はね、彼の力じゃないんだ。トクシックは不思議な力のあるものを利用して術をかけている。だから条件がそろえば生身の魔術師よりもずっと強い力が使えるんだ。それで、昨日の作戦は最初からほとんど負けていたようなものだった。
それでも魔術師たちはマーシェのために、君の友だちのために命をかけて救出に向かってくれた。彼らができなかったことを、責めないでやってくれ」
マーシェは静かにうなずいた。そんなことはマーシェにもわかっていた。ただ、悔しくてどうしても心の中では魔術師を責めてしまいたくなった。
「トクシックは、君をおびき寄せたかったのだ。そのためにミーを殺しその叫びを利用した。実際にその声を君は聞いたね。それであそこに近づいた君に聞こえるように、今度はもう一人の子ども、ヒーを痛めつけて叫ばせたそうだ。魔術師たちはトクシックと戦うよりも、ヒーを助ける方を優先した。そのせいでトクシックに酷く痛めつけられたらしい。どちらにしろ、ヤツは君のことをまだあきらめていない」
自分のせいだった。マーシェがあそこにいれば、ミーは殺されることもなかったし、ヒーもあんなに叫ぶほどいたぶられることはなかったはずだ。
ミーは自分のせいで殺されたのだ。
「マーシェ、思い違いをするな。トクシックが全ての元凶なんだ。君のせいではないんだよ」
「でも、僕が戻って来なければミーは殺されなかった」
「いや違う。君たちの絆を利用したトクシックが悪いのだ。彼はまだ君たちのことを子どもだと思っている。大人になる前に自分の思い通りにさせるために君が欲しいだけなんだ。だから負けるな。君はもっと強くなれ。そうすればトクシックに負けない」
負けていたのはマーシェの心。
ヒーとミーがいなければ生きていけないと思っていたマーシェの弱さだ。
しかし違う。マーシェは強くなる。トクシックに負けないくらい強くなって、今度こそヒーを取り戻すのだ。
卑怯な悪い魔法を使うトクシックに、正統派の魔術師が対抗できるはずがなかった。マーシェはそれに気づくと、自分が強くなることを心に誓った。
いつの日か、絶対にヒーを助けに行く。そして殺されてしまったミーの心も開放する、そのためにマーシェはますます剣に打ち込んだ。