3、ミー
フーの生活は変わった。
孤児院で食糧や毛布の取り合いをしていたのが嘘のように、貴族の服を着て食事は十分に与えられて、一人部屋でふかふかのベッドで眠った。
しかし、仕事は今までと同じくらいはあった。
体を鍛えるという名目で、水汲みと薪割りをやらされた。普通の貴族の子どもは薪割りなどやらないはずだ。
それから勉強もした。まだ3歳のフーにはジッとして勉強をするのは苦痛だった。
しばらくすると、剣の稽古が始まった。トクシックはフーを強い男にしたいようだった。
体を動かし、勉強をし、衣食住が整っていれば、今までの孤児院の生活よりもずっと良い、と思うだろう。
しかしそうではなかった。
トクシックはフーが一度で覚えなかったり、返事が遅れるとすぐに殴った。それも平手ではなく、何度も殴りつけ蹴り飛ばしたり踏みにじったりした。時には硬いもので殴られたりもした。フーは賢い子だったので、たとえ3歳でも殴られないように回避できることは多かったが、それでもまだ幼く、トクシックが望むようにはできないことは多々あった。
上手くいかなければ、トクシックの気に入らなければ殴られる。泣けばもっと殴られる。
フーは幸せではなかった。
いつも厳しく、蔑まれ、そして常に緊張を強いられて、身体も頭もいっぱいだった。
フーが引き取られて数か月後、また子どもがやってきた。
「ヒー、フー、来なさい!」
「はいっ、今まいります!」
「はい、ただいま!」
ヒーとフーはトクシックに呼ばれると、何をしていてもすぐに走って行った。
玄関ホールにはヒーよりも少し大きい子どもが立っていた。フーがここに来た時と同じような、粗末な服を着ていて、それでも顔は美しく朗らかな少年だった。
「新入りだ。ヒー、部屋に連れていけ」
「はい、トクシック様」
「フー、お前の仕事を教えてやれ」
「はい、トクシック様」
「お前はミーと呼ぶ、わかったか」
少年はミーと呼ばれて、一瞬驚いたようだったがすぐに微笑んだ。
「僕の名前ですね。わかりました」
ミーがそう言うと、トクシックは三人を一瞥してすぐに自分の部屋へ行ってしまった。
「ミー、こちらへ」
ヒーが言うと、ミーは「うん」と言ってついて来た。