23、短剣
マーシェは中央の町に引っ越し、そして忙しくなったディコとの剣の稽古は一日おきとなった。今までの半分の練習時間とはなったが、カイは、マーシェに中央の貴族の子どもを少しずつ紹介した。マーシェは軍隊に入りたいのだから貴族と仲良くする必要はないと思っていたが、カイは人脈はいくらあっても良いと言っていた。それにマーシェは同じ年ごろの普通の子どものことを知っておいたほうが良い。たとえうわべだけでも上手くやれるように、とカイに言われ、マーシェは納得した。
とはいえ、結局同じ年ごろの子どもと遊ぶことはたくさんのことを知ることになった。人との接し方だけでなく、乗馬や買い物ちょっとしたことはそうやって学んでいった。
◇◇◇
「さあ、今日は訓練場を貸してもらえたから、ここでやろう」
ディコとの剣の訓練はいつもカイの家でやっていたが、その日は軍の訓練場を使わせてもらえることになった。
ディコが子どもに稽古をつけるというので、兵隊が物珍しそうに数人覗いてみていた。
「剣はコレ」
ディコがマーシェに放ってよこしたのは、長剣と短剣を一つずつだった。
「え、二本?」
「軍用の剣は基本的にこれ。今日は短剣の方を少し練習して、それから二刀もできたらやろうか。時間があるかな?」
「遅くなっても良いよ!」
「そうはいかない。マーシェが遅くなったら俺がカイに怒られるから」
わははと笑いながら、ディコは短剣を持った。
「さあ、じゃあ短剣の持ち方を教えよう。まず短剣は長剣とは大きく違うことがあるが、なんだと思う?」
「長さじゃなくて、ってこと? 切り方ってことですか?」
「まあ、そうだな。長剣は戦闘用だが、短剣は必ずしもそうではないってことだ。もし密林に一人で放り出されても、短剣があれば道具として使えるだろう? もともと短剣は生活道具だったとも言われている。そしてそれを軍隊で使用する時は、たいていは護身用だということだ」
「護身用? 攻撃はしないんですか?」
「それで済むならそれに越したことはない。身を守って逃げるだけで十分ならわざわざ深追いをして危ない目に会う必要はないんだ。まあ、短剣で戦おうって時はたいてい接近戦だから攻撃しないで逃げ切ることは不可能だが」
「じゃあ、攻撃してもいい?」
「んー、まあ、そうだな」
ディコは苦笑しながら答えた。どうも、マーシェの戦い方は物騒なのだ。必要以上に攻撃してしまうような気がしてならない。
「じゃあ、まず持ち方から。基本形がこう、短剣は機動力だから、適宜持ち替えをする。一通り、持ち替えられるようにやってみるか」
「はい!」
訓練にかかってしまえばマーシェは真面目だった。しっかりとディコの言うことを聞き、言葉の裏にあることも聞き取ろうとした。
はじめはニヤニヤとマーシェのようすを見ていた、外野の兵隊たちは、マーシェの剣のすじの良さに驚きを隠せなかった。