22、中央へ
フー(マーシェ)五歳→八歳
ディコが西の国境付近に勤務している間、毎日夕方になるとマーシェは剣の稽古をつけてもらった。
マーシェの剣はもともと、5歳とは思えないほどにしっかりと鍛えられていた。
ディコははじめ手加減をして打ち合いをしようと考えていたが、剣の振り方を教えて打ち合いをしたとき、すでにマーシェはディコの剣を叩き落とす勢いで突進してきた。そして手加減などしていられないとディコが気づくのはすぐだった。
身長差こそあったものの、少なくともマーシェは剣を振るのを恐れなかった。それに、驚いたのは、どんなに足場が悪くても体勢を崩すことはなく、どんな方向にも対応できていることだった。
ただ勘が良いだけではなく、しっかりと鍛えられていたのだと実感した。
◇◇◇
そうして3年が経つころには、マーシェは体力も増え身体も少し大きくなり、立派にディコの相手ができるまでに育っていた。
「マーシェ、良いか、もし軍に入るのなら、仲間がいるということを覚えておけ」
「仲間?」
「軍隊は結束だ。全ての軍人が味方であり仲間である。独りよがりの剣ほど危険なことはない」
「はい」
「常に仲間のために剣を振るい、仲間の邪魔をせず、仲間を助けるんだ」
「はい」
マーシェは、自分の剣に足りないものは、そういった仲間への信頼や絆だということはよくわかっていた。しかしまだ共に剣を振るう仲間には会ったことがない。強いて言えばディコがそれだが、ディコが味方になって共に戦う機会はまだなかったのだから、ディコの言う仲間のための剣というものが理解できないのは仕方がないということもわかっていた。
「実は、次の秋に中央に戻らなければならなくなった」
「中央に?」
「そうだ。だから今まで通りここに来て剣を教えることができない。それに中央に戻ったら多分昇進する。そうすると今まで以上に忙しくなるはずだ」
「じゃあ、僕……」
これからマーシェは誰に剣を教えてもらえばいいだろうか。
「お前、軍に入るつもりはあるか?」
「うん」
「じゃあ、カイに頼んでみるんだ。入隊できる年齢は14歳で見習い、正式には16歳からだけど、マーシェの実力なら多分もっと早く入れるはずだ。俺も推薦する。だからカイにどうしたら良いか聞いておくんだぞ。今いくつだ?」
「今? 8歳」
「8歳かー。いくらなんでもまだ無理か。うーん、せめてなんとか中央に来られないかなあ」
「僕も行きたい! カイに聞いてきます!」
マーシェはすぐにカイに中央に行きたいと話にいった。カイはマーシェの言うことならだいたい何でも聞いてくれるはずだ。
「中央だって? まあ、私も中央での仕事もあるから構わないが。なんでだ?」
何も聞かずに中央に行く許可が下りると思ったが、理由を尋ねられた。
「ディコが中央に戻るんです」
「ああ、そうか。剣の先生がいなくなってしまうからな。ふむ、まあ良いだろう。勉強も礼儀作法も問題ない。お前がしっかり頑張ったのだからな」
それでマーシェは、カイと一緒に、カイの中央の館に引っ越したのだった。