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20、図書室



 次の日、朝食をとると、マーシェはまた魔術師と話をすることになった。

 ヒーとミーを探すために、マーシェに聞かなければならないことはたくさんあるのだ。カイと魔術師ポレミクは、マーシェの記憶の辛い部分を必要以上に刺激しないように気を付けながら話を進めなければならなかった。

「なるほど、彼らの本名を聞いていたのは良かったです。ヒーはセイン、賢い少年ということですね。セインはどこから来たか聞いていますか?」

「ううん、聞いてない。ヒーはぼくより先にあそこにいたし、多分孤児院から来たと思う」

「そうですか。ではもう一人は?」

「ミーは、ヒーよりもひとつ年上で、ノルって名前。あと、ヴォンテール? それの血がなんとかって言ってた」


「ヴォンテールですって? 本当ですか?」

 ポレミクの声が急に鋭くなったので、マーシェは体を強張らせた。大人の男性というだけでも緊張するのに、ポレミクは魔術師だ。悪い人ではないとわかっていても、マーシェにとって大人の魔術師は恐ろしい。

「え、あの、」

「ノルは何か特徴があったかい? たとえば、目や爪が赤いとか、背が高くて身軽だとか?」

 カイが優しく言いなおしたので、マーシェはホッとしてカイの方を向いた。

「目は普通、茶色。爪は、わからないけど、背はヒーよりもずっと高かった」

「ミーのほうが一つ年上と言ってたね? ずっと大きかったのかい?」

「うん。ミーはすらっとしててすごくお兄さんで、撫でてくれるとすごく安心した」

「やはりヴォンテールの生き残りです。混血だと思いますが、まだいたとは」

 ポレミクはマーシェにかまわず、立ち上がり部屋のあちこちを歩き始めた。それを見るとマーシェはますますポレミクに対して不安が募った。


「大丈夫、ポレミクは一生懸命考えるとあんなふうに歩き回るけど、そういう癖なんだ。気にしないで良いんだよ。さあ、話はそのくらいにして、マーシェの勉強をみてやるかな。こちらへおいで」

 カイは優しくて、マーシェのことをよく見ていて心を軽くしてくれた。

 カイはマーシェを図書室へ連れて行った。

「ここは図書室だよ。今日は本を読んであげよう。好きな本を持っておいで、あのあたりに絵本もたくさんあるよ」

「うわあ、すごい」

 カイの館の図書室は壁の三面が床から天井まで本で埋め尽くされていた。しっとりとした本の匂いが心地いい。


 マーシェは感激して本を探し始めた。

「ヒーがいたら喜ぶだろうな」

「ヒーは本が好きなの?」

「うん。ヒーはどんな本でも好きだし、すぐに覚えちゃう。トクシックの家にも本はたくさんあったけど、ヒーはもう全部読んじゃったんだって。これを見たら喜ぶと思う。あ、これにしよう」

「どれ、決まったかい?」

「うん」

 マーシェは手に取った本をカイに見せた。

「数学書じゃないか。読み聞かせには向かないなあ」

 カイが苦笑するとマーシェは首を振った。

「自分で読める。わからないところだけ教えてください」

「なんだって、自分で? 本当かい?」

「うん」

 マーシェはそう言うと、部屋の中央にあるふかふかの椅子に腰かけて、本を開いた。大人しく本に没頭していくマーシェを見ていて、カイは驚きを隠せなかった。


 自分も本を持ち、そっとマーシェの隣に座りしばらくその様子を見ていたが、マーシェはすっかり本の世界に入っているようだった。

 トクシックはこんなに小さな子どもに何を教えたかったのだろうか。考えれば考えるほど、恐ろしいことだと思うのだった。



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