19、カイの家
フーはマーシェと呼ばれます
フーが気づいた時、豪華な寝台にいた。目を開けた時寝ぼけていて、まだトクシックの館にいるのだと勘違いしていた。それで朝の水汲みに行かなければと思って起き上がった。
「目が覚めたかい?」
男の声が聞こえてそちらを向くと、そこには見知らぬ青年がいた。いや、会ったことがある。あの広い部屋でマーシェの大叔父と紹介されたカイという人だ。
「君を混乱させてしまって悪かった。申し訳ないが、魔術師が君を寝かせたんだよ。そして、少し記憶を緩やかにしてくれた」
「記憶をゆるやかって?」
「うん、つまり君はとても過酷な辛い目にあっていたし、友だちのことで興奮している。そして、両親のことやいろんなことでいっぱいだろう? それを全部考えていたらまともな思考になれない。だから記憶の辛い部分や今あまり考えなくて良いものは、記憶の奥の方に置いといて、まず考えなければいけないことを考えられるようにしてくれたんだよ。それで、わかるかい?」
「……ううん、わからない」
フーは素直に答えた。
トクシックの前でこんなふうに答えたらすぐに殴られるだろう。だけど、今フーの記憶の表面にトクシックの異様な恐ろしさはなかった。それでこのように、普通の子どものように答えることができたのだ。
「記憶がなくなったわけではないのだよ。思い出そうと思えば思い出せるから、心配しなくていい。それより確認しておきたいのだが、君のことをマーシェと呼んでも良いかね?」
「はい」
その言葉でマーシェは自分がフーではなくマーシェだと認識できた。
「私は君の大叔父だ。叔父さんと呼んでくれても、カイと呼んでくれてもいい。これから一緒に暮らそう」
「おおおじって?」
「まあ、遠い親戚のことだ。マーシェのお母さんの……叔父だ。さて、今は夕方だ。ちょっと屋敷を案内しよう」
大叔父と言っても、とても若く見えた。子どものマーシェから見ても大人というよりは、お兄さんのように感じられるほど若いと思った。
カイの案内で、マーシェは館を見て回った。
大きな屋敷で、使用人がたくさんいた。使用人たちはマーシェを見ると微笑んでくれた。
サロンに行くと、あの人が待っていた。マーシェを連れてきたフードの人だ。
「起きましたか? 具合はいかがですか?」
「えっと、大丈夫です」
「彼は魔術師ポレミクだ。普段は王城に勤めているが、マーシェが落ち着くまでここに滞在する」
「よろしく、マーシェ」
「……はい」
マーシェはポレミクが魔術師と聞いて、少し身を固くした。
ポレミクが悪い人ではないというのはわかっている。しかし、マーシェにとって魔法を使う人間は悪い人間だと、そういう風にしか思えなかった。