18、大叔父
地震があり、研究室にいたはずだ。
それが知らない人間に腕を掴まれた、その次の瞬間には、フーはまったく知らないところにいた。足元が安定すると、フードの人はすぐにフーの手を離した。
「大丈夫ですか?」
フーは何が起こったのかわからず、目をきょろきょろとさせるしかできない。
これは一体どうしたことだ。
トクシックの魔法だろうか。それにしては、ここにトクシックがいない。
「ここ、どこ、ですか?」
やっとのことでフーが言うと、フードの男はフーに目線を合わせるようにしてしゃがんで顔を覗き込んできた。
「ここはロズラックの西、カイ・クゥピュル・デ・レクトリシテ伯爵の館です。我々はあなたを探していました、マーシェ」
ロズラックが何か、カイ・クゥ……伯爵が何者かわからない。
わかったのは、ここは荒れ地のあの屋敷ではないということだ。
「ヒーとミーは、ヒーとミーは!?」
「ヒーとミー? あなたはマーシェでしょう? カイはずっとあなたのことを探して、」
「ヒーとミーは!? ぼく、戻らなきゃ、ヒーとミーがっ、死んじゃう」
ここはあの荒れ地の館ではなくて、フーひとりがここに来ている。ということは、ヒーとミーはトクシックのもとに残っているということで、それはあの二人がトクシックの怒りによって殺されるのではないかと思ったのだ。
フーのただならぬ様子に、その人はフーを落ち着かせなければならなかった。
フーの話を聞くために、二人は大きな部屋に移動した。そこには車いすに乗った青年がいて、マーシェを見て優しく微笑んでいた。
「マーシェ、落ち着いてそこに座ってください。ちゃんと話を聞きますから、私たちを信頼して全てを話してください」
フーはふかふかの椅子に座らされた。それだけで気持ちがとても落ち着く気がした。そしてフーは話し出した。覚えている限り、孤児院から引き取られてトクシックが子どもたちにどんな仕打ちをしていたかを。そして、ヒーとミーが危険だから早く助けてほしいと。
大人たちは口を挟まずしっかりとフーの話を聞き取った。
フーがあらかた話し終わると、最初にフーをここに連れてきた人が口を開いた。
「あなたはまだ小さいのにとても賢いですねマーシェ。まず私たちは急いであなたの友だちヒーとミーを探さなければなりません。ただしそれにはとても難しい条件があるんです」
「条件?」
「血のつながった人、親戚がいなければなりません。トクシックの魔法で隠されている子どもたちを探すためには、血のつながりがなければ探し出すのはとても困難なのです」
「血のつながり?」
マーシェはその人の言葉が飲み込めず困惑していた。なぜならマーシェ自身、孤児なのだ。両親はとっくに亡くなって、親戚にも引き取り手がなかったはずだ。
「ここにいるカイは、あなたの大叔父に当たります。彼はあなたのご両親が亡くなった時外国に行っていたために、あなたのことを知らなかったのです。しかし、帰国してからあなたの両親がトクシックに殺されたこと知り、そしてあなたが孤児院に入れられたことを知ってから、死に物狂いで探したのですよ。そう、それには2年以上もかかってしまいました」
ここにいる人たちは正しい人だと思う。フーはそれを肌で感じていた。
しかし、フーを混乱させていることには変わりなかった。
フーはただ、ヒーとミーを助けて欲しいだけなのに、そこに至るまでにフー自身の情報が多すぎる。フー(マーシェ)の両親がトクシックに殺されたと聞いて、完全に思考が停止してしまった。