17、地震
フー6歳、ヒー9歳、ミー10歳
三人の子どもたちが、トクシックに引き取られてから2年ほど経った。
最初の頃は逃げ出したいと思っていたが、次第に逃げることを諦めるようになった。しかもだんだんと、この生活でも良いのではないかと思うようにもなっていた。
それは、トクシックが時々子どもを連れて来ては、実験動物のように扱い、ひどく痛めつけて殺してしまうのを何度も見ているうちに、自分たちはトクシックに殺されずに特別に扱われているという気にすらなったからだった。
とはいえ、三人がトクシックになついていたかというとそうではなかった。相変わらず緊張を強いられ、いつも殴られないようにビクビクしていなければならず、大嫌いだった。
それにトクシックの不気味な魔法や研究はどうしたって好きにはなれなかった。
三人は、いかにして生きるか、それだけしか考えなかった。
ある日、フーが剣の訓練のために屋敷を出ようとした時だった。
聞きなれない低い地鳴りのような音が聞こえた。この屋敷に来て軽度の地震は少しはあったが、それとは違う地響きのようなものを感じる。
異変を感じ、フーは家から出ることができなかった。
「フー、来い!」
研究室からトクシックの金切り声が聞こえる。
地鳴りの恐ろしさで体がすくんでいたが、それよりもトクシックの剣幕の方がずっと恐ろしく、フーはよろめきながらも研究室へ戻った。
室内ではトクシックが大きな鉱物のような物を掴みながら、反対の手でミーの襟首を引っ張っていた。
「お前はそこで俺を守れ、入口を守れ」
「は、はい」
何から守るというのかわからず、フーは剣を構えてただ入口を向いた。しかし、襟首を持たれているミーのほうが心配である。フーは少しずつトクシックの方ににじり寄って、いざというときはミーを助けられる位置まで移動した。
トクシックを守るより、トクシックからミーを守りたい。
ヒーを見ると同じ考えのようで、ヒーもまた白い石を持ったまま、ミーのそばまでやってきていた。
戸口を見たまま剣を構えていると、突然家が大きく揺れだした。
立派な屋敷がギシギシと軋み、窓から黄色い光線が差し込んできた。明らかな異常事態にトクシックはパニックに陥り、ミーを盾にするように隠れた。
あまりの揺れに立っていられないほどで、フーがよろめいたその時だった。
鼓膜を破るほどの勢いでバン! と爆発音がして、まるで空が破けたのかと思うような光が窓から差し込んできた。目がくらみトクシックは床に突っ伏している。ミーとヒーは互いにしがみついている状態だった。
よろめいた顔をあげると、戸口に人影があった。
この屋敷とその周辺にはトクシックの魔法がかけてある。この家は外からは見えにくいし、人が近づいたことなど今まで一度もなかった。それなのに、研究室の戸口に人が立っているのだ。ただものではない。
そう思った時には、フーの手から強い力で剣がもぎ取られていた。そして戸口に現れたフードを被った人物はフーに近づくと、フーの腕を掴んだ。
「「あっ、フー!」」
ヒーとミーが叫ぶ。その瞬間フーの姿はフードの人物と一緒にかき消えた。
屋敷の天井は飛び、研究室だったところは廃墟のようになっていた。その瓦礫の中で、ヒーとミーは呆然と立っていた。