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14、目玉



 剣を手渡されたフーは、木の前にうつろな目をして佇む少年を見た。トクシックが自分のためにこの少年をここに連れてきたというのは、フーの剣の訓練のためだ。つまり、今ここで、フーはこの少年の目に切りつけなければならない。

「泥人形だけでは物足りんだろう?」

 トクシックはにやりと笑いながら、フーにそれをするよう目で促した。

 すでに機敏に動くことはないとはいえ、生きた人間の目に切りつけるなどできるだろうか。フーは言われた通り剣を構えた。

 少年の目が少し正気に戻る。今からこの剣で小さなフーに切り殺されると思ったのだろう。急に恐怖の色を浮かべた。しかし虐待によって、少年はみっともない泣き声をあげるだけで、体を動かすことができずにいた。


 目が合うとフーは躊躇した。

 生きている人間の目を切れば、当然相手の目が見えなくなる。

 自分がいつも与えられている痛み以上に、苦痛を与える。そんなことができるだろうか。

 フーの剣先が震える。

「はやくやれ」

 トクシックは少し苛ついたように促す。

「は、は、は、は」

 フーは怖くて、動き出せなかった。

「はやくしろ!」

 トクシックの低い声がフーを追い込む。

 やらなければならない。やらなければ自分が殴られる。やらなければ殺されるかもしれない。成功するかとかそういう問題ではなく、人を傷つけるか自分が痛むか究極の選択に立たされた。


 トクシックはフーの背中を蹴った。

 よろめいて剣を持ったまま倒れ込む。トクシックはフーの髪を掴んでそのまま立ち上がらせた。

「うう、うう」

 やるしかない。

 フーは意を決して剣を構え目の前の少年の目に切りつけようとした。怯えた目が自分を見ている。それでもそれを切らなければならない。

 しかし、頭ではわかっていても、身体はついてこなかった。

 切りつけようとしたその時、フーは「げぼ」と吐いてしまった。そのまま自分の吐瀉物の中に倒れ込む。げ、げ、と吐き続け、全身で人間を切ることを拒絶していた。


 フーには無理だと悟ったのだろう。

 トクシックはフーを蹴り踏みつけると、少年の方へ行った。そして首につけた鎖を引っ張り地面に倒した。

「お前ができないのなら、用はないな」

 そう言うと、トクシックは少年の目をいきなりくりぬいた。

「ぎゃああああああー!」

 信じられない激痛に少年は叫んだ。

 フーは自分の力が抜けていくのがわかった。

 この少年の目は、どちらにしろ痛めつけられたのだ。自分が切ろうが、トクシックがくりぬこうが、痛みを与えられて、暗闇に突き落とされるのだ。むしろ、剣で切ったほうが痛みが少なかったかもしれない。

 しかし目を失った少年を見て、フーはもうこれ以上意識を保っていることはできなかった。



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