回復役の少年はパーティーのリーダーにクビと言われたら、聖女のお姉さんがかばってきてくれて、いつのまにか上司ガチャが最悪から最高に逆転していた話
「ジーク、お前はもうパーティーからクビだ!」
パーティーのリーダーにそう言われて、僕は泣きそうになる。
冒険者ギルドの酒場の中で、ギルドの仲間たちが見ている前だったから尚更だ。
すぐ後ろには、憧れている聖女のお姉さんもいるというのに。
「どうしてですか、リーダー!?」
僕は訳が分からず、リーダーに叫んだ。
このギルドに入ったことで、僕は子供の頃からの夢だった冒険者になれた。
だからこのパーティーで、リーダーの雑用係としてずっとがんばってきたのだ。
それなのに……こんなところで、夢を潰されたくなかった。
「どうしてです。どうして僕がクビなんですか!?」
「そんなの決まってんだろ! お前は回復役のくせに、ろくに回復しやがらねえからだ!」
「そ、それは、魔力を温存するためだって何度も……」
「ほら、これだ! 新人のくせに、いつも、いつも言い訳ばかりしやがって!!」
ほら、いつも、これだ。
戦士職であるリーダーは、確かに強いけど、いい上司じゃない。
いつもいつも怒ってばかりで、どんな些細なことでもうるさく言うばかりだ。
「俺がいくら命令しても、親切に叱ってやっても、口答えばかりしやがってよ!」
僕の話なんて、ろくに聞いてくれない。
「全く、もういい加減、うんざりだ! 今すぐここから……」
「待ってください! リーダー!」
その時、後ろからきれいな女の人の声で、誰かが叫んできた。
リーダーの視線が僕の後ろの方を向き、僕もそっちを振り返る。
そこにいたのはポニーテールの金髪で、とても可愛くて、スタイル抜群のあの人だった。
「今度ばかりは許せません……ジーク君がクビだなんて、私は反対です!」
健気にそう言って、僕をかばってきてくれるのは、聖女のお姉さん。
パーティーの前衛を務めるエースで、僕の憧れの人、聖女クレアさんだ。
「クレア、てめえ……俺に意見するとはどういうつもりだ!」
リーダーが、クレアさんに食いついた。
「だってジーク君、いつも私たちを守ってくれたじゃないですか!」
クレアさんは、負けじと言い返す。
「ジークが守った? 何言ってんだ、お前?」
「支援魔法でですよ。そうよね、みんな!?」
クレアさんは埒が明かないと、周りにいるギルドの仲間たちの方を振り向いて、皆に呼びかけるようにたずねた。
「ジーク君は、いつも支援魔法で私たちを守ってくれてたわよね?」
「……そうだ」
すると剣士さんが、手を上げてくれた。
「俺は、ジークの支援魔法には何度も助けられた」
「私も。麻痺した時にはどうしようかと思ったけど、すぐに治してくれたわ」
「そうだぜ。普段は頼りねえくせによ。ジークは、もう立派なパーティーの要の一人だぜ」
みんなが、ギルドのみんなが、僕のことをそこまで言ってくれるなんて……。
「はあ!? 何、言ってるんだ、お前ら。揃いも揃って酔っ払ってんのか!?」
それなのに、リーダーは話を全然聞こうとしてくれない。
「もう! 私たちの話を聞いてください、リーダー!」
その後、クレアさんの口から僕がしていたことについてリーダーに伝えられた。
僕が防御魔法で、前衛の仲間たちの防御力を上げていたこと。
僕の防御魔法はとても強力で、かけるタイミングも非常に的確だったこと。
毒や麻痺などバッドステータスがかけられると、すぐに治してくれたことなど。
話をまとめると、僕は支援魔法でパーティーのみんなを守っていた。
そのおかげで仲間たちが傷つくことはなかったから、僕が回復魔法をかける必要は余り無かったというのだ。
クレアさんが意見を求めると、仲間たちは「そのとおりだ」と言ってくれる。
僕は、感動した。
皆が言ってくれたことは、僕自身も自覚できていなかったことだった。
それなのに、クレアさんが僕のことをそこまで見てくれていたなんて。
みんなにも、感謝したい。
「話は以上です。わかりましたか、リーダー?」
そう言うクレアさんに、僕は今すぐにでも抱きつきたい気持ちになっていた。
「んなわけあるかー! お前ら、揃いも揃って頭どうかしてるぞー!」
それなのに、リーダーはみんなの話を全く聞こうとしない。
ギルドとパーティーのみんなが、同じことを言っているにも関わらずだ。
「……リーダー、いい加減にしてください。私たちの話を……」
「うるせえー! お前らの意見なんて聞きたくねえんだよー!」
リーダーのその一言に、僕とクレアさん、ギルドの皆は固まった。
「どいつも、こいつも、この俺に逆らいやがって! お前ら全員、クビだー!」
「……いいえ。クビになるべきなのは、リーダー、あなたの方です!」
クレアさんは恐ろしく怒って、リーダーに言い放つ。
「なんだと!?」
「どんなに言っても、私たちの意見を聞いてくれない。もううんざりです! リーダー、あなたをこのギルドから追放します! どう思う、みんな!?」
クレアさんがまた意見を求めると、みんなからの声はすぐに上がった。
「そうだ、そうだー!」
「もうリーダーについていくのは、こりごりだわ!」
「はっきり言ってやるぜ。あんたは、リーダーに全く向いてねんだよ!」
ギルドの仲間全員が、リーダーに怒りの声を上げる。
「お前ら……この俺をクビにできると思ってるのかー!」
「できますよ。ギルドのみんなで。上にも掛け合いましょう!」
その後、クレアさんが呼びかけて、リーダー追放の署名が瞬く間にギルドメンバーのほぼ全員から集まった。ギルドマスターにも承認される。
リーダーは集まった署名を見せられて、さらなる醜態を晒したことで、ギルドのメンバーたちによって押さえつけられ、ここから力づくで追い出された。
あっという間のできごとに、僕は茫然と見つめることしかできなかった。
それから、
「災難だったわね、ジーク君」
クレアさんが僕の新しいリーダーとなり、
「けど、もう大丈夫。改めてこれからよろしくね」
「はい。僕の方こそ、よろしくお願いします、クレアさん!」
僕は、彼女のお手伝いのメンバーに選ばれた。
これからずっとクレアさんのそばにいられるだなんて……。
「フフフ。緊張しないで。今までどおりやってくれればいいんだから」
「そんな……クレアさんのお手伝いだなんて、僕、とても感激です!」
「私こそ、うれしいわ。ジーク君、とても頼もしいんだもの」
「僕なんて、たいしたことないですよ……。前衛でいつもがんばってるクレアさんに比べたら……」
僕は、恥ずかしくなってうつむいた。
「そんなことないわ。ジーク君だって、後衛の回復役としてずっとがんばってきたじゃない。私も、ジーク君に何度助けられてきたことか……」
「そんな……」
そこまで言われて、僕は顔を上げると、
「そうよ。ジーク君は、何度も私を守ってくれたわ……」
クレアさんは、恥ずかしそうに頬を赤らめ、困ったように伏し目がちな表情を浮かべていた。
僕に向かって、クレアさんは照れていたのだ。
今まで見たことがない、クレアさんのとても女の子らしい可愛さに、僕は胸がドキッとする。
「ク、クレアさん……?」
「ジーク君……今日、これから何か予定あるかな?」
「いいえ。特にないですけど……」
「それじゃあ、私と一緒に冒険に出かけない?」
「僕と、クレアさんで?」
「そうよ。君と私の二人っきりで……」
僕はクレアさんと一緒に赤くなりながら、ゆっくりとうなずいた。
――それから数週間が経って、
「クレアさーん!」
「あっ、ジーク君!」
休日の朝、待合せ場所である噴水前に着くと、クレアさんはもう待っていた。
「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」
「安心して、私もさっき着いたばかりだから」
僕もだけど、クレアさんは私服姿だ。
とてもきれいな白のワンピース。
清楚な彼女にぴったりな服で、体のラインも浮き出ている。
そんなクレアさんと、これから街の中をデートだなんて僕はもうたまらない。
「それじゃあ、行こっか?」
「はい!」
僕とクレアさんが、こういう仲になるまで時間はかからなかった。
ついこの間まで散々な人生だったのに、気づけばこういうことになるだなんて。
ああ、僕は幸せだなあ……。
「案内は、僕に任せてください。こっちには……」
「あっ、そっちはダメ!」
僕が先を進もうとすると、クレアさんが止めに入った。
「えっ……?」
「あっ、ごめん。いきなり変なこと言って」
「クレアさん、どうしたんですか?」
「そっちの道にね……リーダーがいたの」
クレアさんに話を聞くと、ギルドを追放されたリーダーは、道端でボロを纏って物乞いをしていたというのだ。
「すっかり落ちぶれていてね、見る影もなかったわ」
僕は正直言って、いい気味だと思った。
あの後、僕のことを全くわかってくれていなかったことが、自分でもはっきりとわかって、僕はリーダーを恨むようになっていたからだ。
それと比べて、クレアさんは本当に最高だった。
ああ、僕はいつまでもクレアさんと一緒にいたい。
「本当にごめんね。これから一緒に楽しもうって時に……ジーク君は、ああいう人には、絶対にならないでね」
「大丈夫です。僕は、絶対になりません。クレアさんがいてくれますから!」
「もう、ジーク君ったら!」
笑い合った僕たちは、誰かさんのことはすっかり忘れて、楽しいデートへと出発した。




