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読んでもらうための短編・エッセイ集

回復役の少年はパーティーのリーダーにクビと言われたら、聖女のお姉さんがかばってきてくれて、いつのまにか上司ガチャが最悪から最高に逆転していた話

作者: イーサーク
掲載日:2021/05/22

「ジーク、お前はもうパーティーからクビだ!」


 パーティーのリーダーにそう言われて、僕は泣きそうになる。


 冒険者ギルドの酒場の中で、ギルドの仲間たちが見ている前だったから尚更だ。


 すぐ後ろには、憧れている聖女のお姉さんもいるというのに。


「どうしてですか、リーダー!?」


 僕は訳が分からず、リーダーに叫んだ。


 このギルドに入ったことで、僕は子供の頃からの夢だった冒険者になれた。

 だからこのパーティーで、リーダーの雑用係としてずっとがんばってきたのだ。

 それなのに……こんなところで、夢を潰されたくなかった。


「どうしてです。どうして僕がクビなんですか!?」

「そんなの決まってんだろ! お前は回復役のくせに、ろくに回復しやがらねえからだ!」

「そ、それは、魔力を温存するためだって何度も……」

「ほら、これだ! 新人のくせに、いつも、いつも言い訳ばかりしやがって!!」


 ほら、いつも、これだ。

 戦士職であるリーダーは、確かに強いけど、いい上司じゃない。

 いつもいつも怒ってばかりで、どんな些細なことでもうるさく言うばかりだ。


「俺がいくら命令しても、親切に叱ってやっても、口答えばかりしやがってよ!」


 僕の話なんて、ろくに聞いてくれない。


「全く、もういい加減、うんざりだ! 今すぐここから……」

「待ってください! リーダー!」


 その時、後ろからきれいな女の人の声で、誰かが叫んできた。

 リーダーの視線が僕の後ろの方を向き、僕もそっちを振り返る。


 そこにいたのはポニーテールの金髪で、とても可愛くて、スタイル抜群のあの人だった。


「今度ばかりは許せません……ジーク君がクビだなんて、私は反対です!」


 健気にそう言って、僕をかばってきてくれるのは、聖女のお姉さん。

 パーティーの前衛を務めるエースで、僕の憧れの人、聖女クレアさんだ。


「クレア、てめえ……俺に意見するとはどういうつもりだ!」


 リーダーが、クレアさんに食いついた。


「だってジーク君、いつも私たちを守ってくれたじゃないですか!」


 クレアさんは、負けじと言い返す。


「ジークが守った? 何言ってんだ、お前?」

「支援魔法でですよ。そうよね、みんな!?」


 クレアさんは埒が明かないと、周りにいるギルドの仲間たちの方を振り向いて、皆に呼びかけるようにたずねた。


「ジーク君は、いつも支援魔法で私たちを守ってくれてたわよね?」

「……そうだ」


 すると剣士さんが、手を上げてくれた。


「俺は、ジークの支援魔法には何度も助けられた」

「私も。麻痺した時にはどうしようかと思ったけど、すぐに治してくれたわ」

「そうだぜ。普段は頼りねえくせによ。ジークは、もう立派なパーティーの要の一人だぜ」


 みんなが、ギルドのみんなが、僕のことをそこまで言ってくれるなんて……。


「はあ!? 何、言ってるんだ、お前ら。揃いも揃って酔っ払ってんのか!?」


 それなのに、リーダーは話を全然聞こうとしてくれない。


「もう! 私たちの話を聞いてください、リーダー!」


 その後、クレアさんの口から僕がしていたことについてリーダーに伝えられた。


 僕が防御魔法で、前衛の仲間たちの防御力を上げていたこと。

 僕の防御魔法はとても強力で、かけるタイミングも非常に的確だったこと。

 毒や麻痺などバッドステータスがかけられると、すぐに治してくれたことなど。


 話をまとめると、僕は支援魔法でパーティーのみんなを守っていた。

 そのおかげで仲間たちが傷つくことはなかったから、僕が回復魔法をかける必要は余り無かったというのだ。


 クレアさんが意見を求めると、仲間たちは「そのとおりだ」と言ってくれる。


 僕は、感動した。

 皆が言ってくれたことは、僕自身も自覚できていなかったことだった。


 それなのに、クレアさんが僕のことをそこまで見てくれていたなんて。

 みんなにも、感謝したい。


「話は以上です。わかりましたか、リーダー?」


 そう言うクレアさんに、僕は今すぐにでも抱きつきたい気持ちになっていた。


「んなわけあるかー! お前ら、揃いも揃って頭どうかしてるぞー!」


 それなのに、リーダーはみんなの話を全く聞こうとしない。

 ギルドとパーティーのみんなが、同じことを言っているにも関わらずだ。


「……リーダー、いい加減にしてください。私たちの話を……」

「うるせえー! お前らの意見なんて聞きたくねえんだよー!」


 リーダーのその一言に、僕とクレアさん、ギルドの皆は固まった。


「どいつも、こいつも、この俺に逆らいやがって! お前ら全員、クビだー!」

「……いいえ。クビになるべきなのは、リーダー、あなたの方です!」


 クレアさんは恐ろしく怒って、リーダーに言い放つ。


「なんだと!?」

「どんなに言っても、私たちの意見を聞いてくれない。もううんざりです! リーダー、あなたをこのギルドから追放します! どう思う、みんな!?」


 クレアさんがまた意見を求めると、みんなからの声はすぐに上がった。


「そうだ、そうだー!」

「もうリーダーについていくのは、こりごりだわ!」

「はっきり言ってやるぜ。あんたは、リーダーに全く向いてねんだよ!」


 ギルドの仲間全員が、リーダーに怒りの声を上げる。


「お前ら……この俺をクビにできると思ってるのかー!」

「できますよ。ギルドのみんなで。上にも掛け合いましょう!」


 その後、クレアさんが呼びかけて、リーダー追放の署名が瞬く間にギルドメンバーのほぼ全員から集まった。ギルドマスターにも承認される。


 リーダーは集まった署名を見せられて、さらなる醜態を晒したことで、ギルドのメンバーたちによって押さえつけられ、ここから力づくで追い出された。


 あっという間のできごとに、僕は茫然と見つめることしかできなかった。


 それから、


「災難だったわね、ジーク君」


 クレアさんが僕の新しいリーダーとなり、


「けど、もう大丈夫。改めてこれからよろしくね」

「はい。僕の方こそ、よろしくお願いします、クレアさん!」


 僕は、彼女のお手伝いのメンバーに選ばれた。


 これからずっとクレアさんのそばにいられるだなんて……。


「フフフ。緊張しないで。今までどおりやってくれればいいんだから」


「そんな……クレアさんのお手伝いだなんて、僕、とても感激です!」


「私こそ、うれしいわ。ジーク君、とても頼もしいんだもの」


「僕なんて、たいしたことないですよ……。前衛でいつもがんばってるクレアさんに比べたら……」


 僕は、恥ずかしくなってうつむいた。


「そんなことないわ。ジーク君だって、後衛の回復役としてずっとがんばってきたじゃない。私も、ジーク君に何度助けられてきたことか……」

「そんな……」


 そこまで言われて、僕は顔を上げると、

 

「そうよ。ジーク君は、何度も私を守ってくれたわ……」


 クレアさんは、恥ずかしそうに頬を赤らめ、困ったように伏し目がちな表情を浮かべていた。


 僕に向かって、クレアさんは照れていたのだ。

 今まで見たことがない、クレアさんのとても女の子らしい可愛さに、僕は胸がドキッとする。


「ク、クレアさん……?」

「ジーク君……今日、これから何か予定あるかな?」


「いいえ。特にないですけど……」

「それじゃあ、私と一緒に冒険に出かけない?」


「僕と、クレアさんで?」

「そうよ。君と私の二人っきりで……」


 僕はクレアさんと一緒に赤くなりながら、ゆっくりとうなずいた。




 ――それから数週間が経って、


「クレアさーん!」

「あっ、ジーク君!」


 休日の朝、待合せ場所である噴水前に着くと、クレアさんはもう待っていた。


「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」

「安心して、私もさっき着いたばかりだから」


 僕もだけど、クレアさんは私服姿だ。

 とてもきれいな白のワンピース。

 清楚な彼女にぴったりな服で、体のラインも浮き出ている。


 そんなクレアさんと、これから街の中をデートだなんて僕はもうたまらない。


「それじゃあ、行こっか?」

「はい!」


 僕とクレアさんが、こういう仲になるまで時間はかからなかった。


 ついこの間まで散々な人生だったのに、気づけばこういうことになるだなんて。


 ああ、僕は幸せだなあ……。


「案内は、僕に任せてください。こっちには……」

「あっ、そっちはダメ!」


 僕が先を進もうとすると、クレアさんが止めに入った。


「えっ……?」

「あっ、ごめん。いきなり変なこと言って」

「クレアさん、どうしたんですか?」

「そっちの道にね……リーダーがいたの」


 クレアさんに話を聞くと、ギルドを追放されたリーダーは、道端でボロを纏って物乞いをしていたというのだ。


「すっかり落ちぶれていてね、見る影もなかったわ」


 僕は正直言って、いい気味だと思った。

 あの後、僕のことを全くわかってくれていなかったことが、自分でもはっきりとわかって、僕はリーダーを恨むようになっていたからだ。


 それと比べて、クレアさんは本当に最高だった。

 ああ、僕はいつまでもクレアさんと一緒にいたい。


「本当にごめんね。これから一緒に楽しもうって時に……ジーク君は、ああいう人には、絶対にならないでね」

「大丈夫です。僕は、絶対になりません。クレアさんがいてくれますから!」

「もう、ジーク君ったら!」


 笑い合った僕たちは、誰かさんのことはすっかり忘れて、楽しいデートへと出発した。

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