第4.2話 レコーディング2
「おはようございます」
程なくして、KYUTEの面々がスタジオに入室する。
香坂は戸松へチラリと視線を向け、目が合うと微笑んできた。
戸松は手を挙げるにとどめ、レコーディング準備を再開する。
「どもー、戸松さん。今日はよろしくお願いします」
レコーディングエンジニアとのブリーフィングを終え、一息ついたところで種田と須川が駆け寄ってくる。
「ああ、こちらこそよろしくお願いします。ラフアレンジがぎりぎりになっちゃって申し訳ないです。問題なく歌えそうですか?」
「仮歌を何回も聞き込んだので大丈夫です。戸松さんが一晩でメロを作り上げたのもすごいですけど、しずく達もすぐに歌詞を仕上げてくれて、仮歌のデータは早い段階でいただけました。さすがにちゃんとしたアレンジがついたバージョンを受け取ったのは2~3時間前ですけど、レコーディングには支障はないと思います。仮歌データを頂いた後、みんなでカラオケ行って練習とかもしましたし」
須川が今日に至るまでの経緯も含め詳しく解説してくれたことで、戸松もホッとする。
(今回のレコーディングでの一番の懸念材料は、メロディや歌詞を十分にインプットする余裕がなかったことだった。スムーズに歌うことさえできれば、AutoTuneとかでいくらでも音程修正はできるし、滞りなく今日の作業は進められそうだ)
思案しつつ、迅速なレコーディングに向けて指示を出す。
「ありがとうございます。状況は大体分かりました。では時間もあまりないので、そろそろレコーディング作業に入りましょう。まずは新垣さんから行うので、彼女を呼んでもらっていいですか?」
「了解です!」
種田が威勢よく新垣の元へと向かう。
「騒がしくてごめんなさいね。優美は戸松さんをすごく尊敬していて、あなたの役に立ちたいと最近前のめりになっているの。迷惑をおかけしない限りは大目に見てくださるとうれしいですわ」
須川の言葉に思わず苦笑いをしてしまうが、自分を慕ってくれる妹分のような存在がいることに喜びを禁じえなかった。