第23話 決着
喫茶店や居酒屋で話をして他者に聞かれるリスクと自宅へ一緒に行くところを見られるリスクを天秤にかけた結果、後者の方がまだマシだろうと判断し、連れ立って自邸へと向かう。
家への道すがら互いに言葉を発することはなく、人気のない住宅街には二人の足音のみが響き渡る。
戸松は息苦しさを感じるも、同時に、長きにわたる懊悩から解き放たれることへの安心感も綯い交ぜとなり、ふわふわと落ち着かない気持ちとなる。
やや湿気を帯びた風が、夜の闇を縫って吹きすさび、二人は思わず目を細める。
ジメジメとした空気にあてられ重い足取りになりつつも、やがて自宅玄関にたどり着き、香坂がやや乱れた髪を手で撫で付ける。
憂いを帯びたその姿は随分と妖艶に映り、戸松は軽い眩暈を覚えるものの、首を振ってその感情を無理やりに意識外へと追いやる。
「ここに来るのも随分と久しぶりな気がする」
感慨深げな様子の香坂に戸松は、そうだっけ、と返す。
「日数にしたら高々数か月程度だけど、フェスだったり彩奈のことで密度が濃い日々を過ごしていたからかな……」
中身のない会話を繰り広げながら、メインルームへと場を移す。
テーブルを挟んで二人向かい合って着座し、あとは本題を切り出すだけとなるも、話し合いのトリガーをお互い引くことが出来ず、スピーカーのホワイトノイズだけが薄っすらと部屋に響き渡る。
「……あのさ、彩奈とお父さんのゴタゴタを見て思ったんだ。気持ちだとか考えっていうのは、言葉にしてちゃんと伝えないとすれ違いが起きちゃうなって。そして、そういうのは月日が経つにつれて修正するのがどんどん難しくなっちゃうってことも」
やっとのことで会話を切り出した香坂は、先ほどまでの出来事に思いを馳せながら目を細める。
戸松はとにかく香坂から話を聞きだすことに躍起になっていたが、彼女の言う通り、お互い腹を割る努力が真っ先に必要であったと今になって気づかされる。
「……その通りだね。多分、俺としずくの間にもいろいろとすれ違いがあると思う。この場では、俺は自分の思っていることを正直に話すよ」
「そうね、私もそうしなきゃね……」
呟く香坂の目は暗く淀んでいる。
「……それじゃ、何から話そうか」
気まずさに耐えられず、戸松はぎこちない切り出し方をしてしまう。
「……そうね、とりあえずトモが一番気になっているのは、私がトモを避けていた理由じゃない?」
無言で頷き返すと、そうよね、と香坂が苦笑いをする。
「ねぇ、惟子さんと以前ここで作詞をしたの、覚えている?」
「……? あぁ、覚えているよ」
いきなり話が逸れたことに戸惑いながら首肯する。
「あの時さ、二人の会話を聞いちゃったんだ……」
いつの間にか、香坂の目は涙で滲んでいた。
紆余曲折ありましたが、ようやく本筋に戻ってこれました!




