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第22.10話 父娘10

「……そうか」

須川父がやっとのことで絞り出した言葉には覇気がなく、戸松にはややかすれ気味に聞こえる。

戸松を含む周りの面々は、固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「彩奈、お前は昔から自己肯定感が低かったからな。てっきりアイドル活動を始めたのも承認欲求からだとばかり思いこんでいた。前も話したが、お前がアイドルなんて浮ついたものに手を出すこと自体、俺は元々反対だったんだ。とはいえ、香坂くんと以前あんなやり取りをしたもんだから、一度くらいはKYUTEのステージを観ないと批判できんと思ってな。で、実際に行ったわけだ」

衝撃の発言に、一同驚愕の表情を以て応じる。

一方、香坂と須川の二人は気恥ずかしさからか、頬が紅潮している。


「意外にもKYUTEに人気があった上に、お前も随分と熱心にやっているのをそこで目の当たりにした。あくまでも香坂君は部活的な立ち位置と言っていたが、お前たちが本心ではどう考えているのかなんて分かりようもない。最初は大学生の間だけの活動のつもりだったとしても、これだけ人気があれば卒業後も就職せずにこのまま活動を続けていきたいという気持ちが湧き上がる可能性は少なくないだろう。そこで、仮にそうなったとしても食っていけるよう、早めにメジャーへ移行させる必要があると判断したわけだ。もちろん、ダメだったらこうして強制だったさせる前提でな」

須川父が淡々と言葉を紡ぐ。


「たまたまうちのグループ会社が音楽事業をやっていて、俺も会社の中ではそれなりに発言権があったから、こうして出向に手を挙げたわけだ。ユニット選定の段階からいろいろと手を回して、KYUTEも対象にねじ込んだ。そうやってお前を陰ながら支えていたつもりだったんだがな」

いつの頃か田中が言及していた出来レース疑惑が事実であったことが判明するも、今や戸松も田中もそれを追求する気分にはなれない。


「香坂くんには先程あんな風に言われたが、ほとんどのアイドルはあんな大舞台に立つ機会なんて与えてもらえない。知名度がないならパフォーマンスでねじ伏せる。それぐらい出来なければ、今後も大衆から人気を勝ち取ることが出来ないだろう。アイドルなんて水物である上、若さがモノをいう世界だからな。だが、そもそも俺がしたことは彩奈が求めるものを阻害するだけだったのか……」

須川父の目からは光が消え、最早そこにいるのは、ただの抜け殻と化した初老の男性でしかない。

香坂の考えに対する否定はあったが、彼女もそれに言い返すつもりもないようで、じっと須川父を見つめる。


「お前の言うとおり、お互いにもっとちゃんと話をすべきだったな……。今となってはもう何も言うまい。学業と就職に差し障りがない限りに、彩奈の活動にもう口は出さんことにするよ」

かくして、無事に須川の活動は存続することと相成ったが、皆手放しで喜ぶような気持にはなれなかった。

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