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第22.9話 父娘9

「なんですか、それ……」

戸松がこれまで聞いたこともないような低いトーンで、香坂がつぶやきを漏らす。


「私たちは、こんな現場も知らない人に引っ掻き回されてあんな思いをする羽目になったんですか?」

須川父を睨め付ける香坂の眼に炎が灯る。

前回は丁寧な口調で娘との諍いをとりなしてくれた子が、突如打って変わって自分を責め立ててくることに、須川父は理解が追い付かない。


「言っておきますが、彩奈をこのままやめさせる方が、メジャーで早々に挫折したしがない地下アイドル上がり、って認識になりますよ。……えぇ、お父様がおっしゃるとおり損切は大事ですが、この件に関してはタイミングを明らかに間違えていると思います。外様から活動を眺めるだけの立場とは違って、エンタメの世界は現場が自ら種を蒔いて育てるところです。プロモーションのやり方やスピード感、ライブのキャパの選択……そういった諸々の戦略を緻密に組み立てるのがレーベル側の仕事ではないんですか?それを半ば公私混同の理由で素人が引っ掻き回して、スタッフも私たちも疲弊させて、挙句の果てに戦略をミスったから辞めさせる?ふざけないでくださいよ」

周りが制止する間もなく、香坂が強い口調で一息に捲し立てる。

その姿に一同唖然としており、彼女が言葉を途切れさせるとリビングは静寂に包まれる。

その雰囲気を察知して気まずさを覚えたのか、香坂は俯きながら口を真一文字に結ぶ。

そして、言葉を発することが貯められる雰囲気が一層と増していく。


「……ありがとう、しずく」

永遠とも思われる時間が過ぎ、やがて、須川が香坂の手の甲に自身の手をそっと重ね合わせる。

香坂に向かって頷くと、今度は父と対峙する。


「ねぇ、お父さん。私のことをお父さんが心配してくれているのは分かったわ。今までそれに気づかず反発してごめんなさい」

須川が父に向って頭を下げる。

須川父も、娘が頭を下げることは全く想定していなかったのか、明らかに戸惑っている様相であり、顎を手で撫でつける素振りを見せる。


会話の主導権を握った須川が言葉を続ける。

「お父さんの言う通り、私の本分はあくまで学生よ。こうしてKYUTEとしての活動は増えたけど、最後はちゃんと大学を卒業して就職するつもりでいることに変わりはないわ」

須川父は無言で娘の話に耳を傾ける。

ただ……と、須川はいよいよ核心に切り込む。

「私、KYUTEでの活動がとても楽しいの。関係者の人には申し訳ないけど、私はKYUTEが別に売れなくてもそれはそれでいいと思っているし、その烙印を押されても構わない。そこは分かってほしいの」

須川父はここにきて、娘が実際に目指す方向と自身が思い抱いていた娘の理想にズレが生じていることを認識する。


「ねぇ、私が活動する理由をちゃんとお父さんに伝えれば、こんなことにはならなかったのかな……」

須川の吐露は、ダメ押しとばかりに父の心を深く抉っていく。

やがて、須川父は深いため息をつき、ダラリと姿勢を崩す。

先ほどまでと異なり丸まった背中は、威厳あふれる会社役員ではなく、意気消沈した一人の父親の姿そのものであった。

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