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第22.4.12話 父娘4.12 -the Past of Ayana-

「お前は話を聞いていなかったのか?そんなの決して認めるわけがないだろう」

帰宅して早々に父へ再び自分の気持ちを伝えると、結局は昨晩の応酬の再演となってしまう。

感情的にまくしたてた昨晩とは対照的に、努めて冷静かつ真摯に話をしたつもりであったが、その思いは全く伝わらず、今は寧ろ虚しさばかりがこみ上げてくる。


「しずくのお父様、ちょっとよろしいでしょうか」

意気消沈し挫けかけた折、タイミングを見計らっていた香坂が話に割って入る。

簡単に自己紹介をし、そのうえで、自身がKYUTEからは離れた立ち位置にいることも併せて伝える。

感情論で話をするつもりがないというニュアンスが伝わったのか、父の眉間に集まっていた皺が若干和らぐ。


「それで、先ほどのやり取りを見てふと思ったのですが、しずく達の活動って高々お遊びの延長線上にあるものですよね。大学生の本分たる勉強もきちんと熟しているのに、それでも活動を反対される理由は何でしょうか」

香坂の問いかけに父は押し黙ったままである。


「正直なところ、彩奈も頭ごなしに否定されていると思っているからこそ、ここまで反発しているんだと思います。どうしてダメなのか、筋道立ててご説明いただければ彩奈も納得するのではないでしょうか」

なおも言葉を畳み掛け、父が私の活動を否定することに論理的な説明を求めていく。

語り口こそ父サイドへ立っているが、それがさらに厭らしさを煽っている。


「そんなの、アイドルみたいな活動はチャラチャラしているからに決まっているだろうが。枕営業とかが平気で横行するような世界に身を置くなんて、須川家の沽券にかかわるだろう」

ようやく父から繰り出されたのは、思い込みと偏見に満ちた物言い。

その内容に思わず冷笑が口から零れる。


「……なるほど。彩奈たちの実際の活動内容と、お父様の認識でかなりズレがあるように思われます」

なおもフラットに言葉を打ち返す香坂がいてくれることに、頼もしさと感謝の念を抱かざるを得ない。


「どちらかと言えば、あの子たちは部活動のノリでアイドルをやっています。アイドルということもあってへそ出し程度はしていますが、重きを置いているのは歌やダンスなので、テイストとしては軽音楽やチアリーディングの方が近いかもしれません」

「しかしだな……」

「それに、繰り返しになりますが、この活動は遊びの延長線上で行われています。人気や売り上げを求めていないので、いかがわしいことをするインセンティブがそもそも存在しえないんですよ」

「……」

父は言い返すことなく、むっつりと黙り込んでいる。


「そうだ、お父様も彼女たちの活動を一度ご覧になっては如何でしょう。ね、彩奈。やましいことなんて何にもないし見られても大丈夫でしょ?」

如何にもわざとらしい口ぶりで香坂が私に問いかけてきたため、つい頷きを返してしまう。

永遠とも思われる静寂が過ぎ、やがて、勝手にしろ、との台詞を口にしながら父が居間から立ち去る。


「あれ、意外とあっさり方がついたわね」

拍子抜けしたかのように香坂は肩をすくめる。


「……ありがとう、しずく」

香坂の言葉で現実をようやく認識でき、思わず彼女の手を握りしめる。


「全然大したことしていないわよ。なんだか拍子抜けしちゃったわ」

「そうは言っても私にはできないことよ。ねぇ、どうしてここまで私に肩入れしてくれたの?」

「……ちょっとした罪悪感からかしらね。実のところ、私は彩奈のことを、流されるままに動くばかりで、自分の意志で立ち上がるなんてことはしないタイプだって勝手に認識していたの」

香坂の指摘は正鵠を得ており、決まりの悪い顔をしてしまう。


「そして、私はそんな風に見えていたあなたが正直好きではなかったわ。でも、あなたはこのアイドル活動に価値を見出して、親に反対されてもKYUTEに居続けるべく闘った。勝手に誤解を抱いてあなたを嫌っていたにもかかわらず、その間違いに気づくとその罪悪感を薄めるためにこうして出しゃばっただけの自分本位の理由よ。……そう、本当に私は自分勝手な人間なのよ」

最後の含みを持たせた言い回しは、彼女が触れてほしくてそうしたのか判別できず、結局そのまま聞き流してしまった。


長きに渡る回想もようやく終了しました。

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