第22.4.10話 父娘4.10 -the Past of Ayana-
叔母の家に宿泊し、翌日はそのままKYUTEの打ち合わせへと向かう。
打ち合わせ場所である大学のカフェテリアに到着すると、既に香坂と四方田の2名は机にPCや書類を広げ話し込んでいた。
「おはようございます。お二人とも随分と早くにいらっしゃったのですね」
声をかけると、ちょっと歌詞について打ち合わせていてね、と香坂が首をすくめる。
私が席に着いて程なく、私に顔を近づけジッと覗き込んでくる。
「それより、彩奈……。ちょっと疲れた顔しているんじゃない?」
香坂の言葉に、隣の四方田もコクコクと頷く素振りを見せる。
「そう見えるかしら。私って結構顔に出やすいタイプなのね。心配かけてごめんなさいね」
「目元もちょっと腫れているみたいだし、何かあったの?言いにくい内容なら別に構わないけど」
アイシングやコンシーラーなどで隠したつもりであったが、やはり女性同士ではあっさりと見抜かれるものらしい。
遅かれ早かれメンバーには相談しなければならない内容であるため、経緯をかいつまんで説明すると、香坂はやや驚いた反応を見せる。
「ふーん、そんなことがあったのね。でも、正直意外だったわ。彩奈が親御さんと口論するほどにKYUTEに思い入れがあったなんて」
香坂の言葉に思わずハッとする。
「そうね。私も自覚していなかったけど、おそらく皆の想像以上に、私はKYUTEのことを大事に思っているのかも」
「確かに、あなたにとってKYUTEは自分の存在価値を高めてくれる場所だものね」
その意味をすぐに咀嚼できず軽く首をかしげると、香坂は言葉を続ける。
「私はまだ彩奈とは付き合いが浅いけど、その私ですら分かる程にあなたって自己肯定感が低いわよね。そんな容姿をしていながら不思議でしょうがないけど。まぁ、KYUTEにいることがレーゾンデートル足り得るのであれば、それにこしたことはないわよね」
そう口にする香坂の表情からは、彼女が何を考えているのかは伺い知れない。
一方で、自分が漠然と抱いていたKYUTEへの思いを的確に言語化され、その内容がストンと腹落ちする。
(そういうことだったのね。私がこうしてKYUTEに執着するのは、自分の存在価値を見出せるから。理由がこうしてハッキリすると、我ながら随分と情けないものね)
そう思いつつも、香坂の言葉を素直に認める姿勢を見せることは己のプライドが邪魔をする。
「ありがとう、しずく。とりあえず自分が何をしたいのかは見えてきたわ。望み薄ではあるけど、父ともう一度話してみるわ」
そう微笑みかけると、香坂は何やら考え込む素振りを見せる。
「ねぇ。お父さんへの説得、私にも協力させてもらえないかしら」
一呼吸おいて香坂が繰り出した提案は、私が想像だにしていなかったものであった。




