第20話 フェス
慌ただしく準備を進めるうちに、いよいよフェスの当日を迎える。
たった2曲の披露のために捧げてきた労力は莫大であり、採算の取れない初期投資段階にこれほどのコストをかけられるレーベルの資本力に、戸松は舌を巻く。
当日戸松が行わなければならない作業はほぼなく、また、KYUTEの出番も夕方近くであったことから、昼下がりに紗枝と連れ立ってゆったりと会場へ向かう。
「いやぁ、無事に関係者席押さえられてよかったね。こういうところに入り込むなんてそうそうできるものでもないし、いい体験になりそう。まぁ、私は普通の席でワイワイ盛り上がるのも嫌いじゃないんだけどね」
とりとめのない話をしながら会場入りすると、現在パフォーマンスを披露しているバンドの演奏や歌声、観客の歓声が波となって体全体に押し寄せる。
「うわ、お腹に低音が響く感じ久しぶりだなぁ。KYUTEにこのキャパは結構プレッシャーなんじゃない?」
「そうなんだよね。数か月まではインディーズだったグループが、2曲だけとはいえ、アウェーの、しかもこんなでかい箱で歌うのは相当きついと思うよ。しかも、ここに出ることになったのはレーベルのごり押しがあったからだろうってみんな思っているだろうしね」
戸松の言葉に、紗枝が苦々しい顔で応じる。
「うわ、実際にねじ込みだったとしても、当の本人たちにとっては災難でしかないよね」
「ホントにね。ここしばらくは今回披露する2曲だけをとにかく練習してきたから、かなり高レベルなパフォーマンスを見せられると思う。でも、こういった事情なだけに、口さがない人たちは口パクだとか誹謗中傷してきそうだしね。知名度はグッと上がるのは間違いないだろうけど、果たしてこのやり方が最適解かって言われると個人的には疑問符がつくかな」
会場の熱気とは対照的に、二人の間には重い空気が流れる。
「まぁ、総合プロデューサーの方もそれは認識していて、そんな論調がトレンドになった場合の対応企画を今練っているところ。少し前に流行ったファーストテイクで歌唱力をアピールするとかどうだろう、なんて話もしてるし」
「ふーん、いろいろと考えなきゃいけないことが多くて大変ね。んで、今日はそれだけじゃなくてプライベートの方でもグイグイ攻めていくと。しずくちゃんにとっては精神的に負担の大きい1日になりそうね」
「そこは分かっていても突っ込んじゃだめでしょ。ってか、今日姉ちゃんにまで出張ってもらうことになったのは、しずくがなぜか俺のことをあからさまに避けて、剰えKYUTEのみんなにそれを気取られて迷惑をかけているからじゃん」
戸松の訴えに、紗枝は驚きの表情を見せる。
「え、他の子たちにもバレたの?」
「しずくが落ち込んでいるってことにはみんな気づいているよ。で、うち一人は、しずくの様子が不自然な理由は俺にあるんじゃないかって疑ってる。理由は分からないけど、しずくにすごく肩入れしてる感じだったから、周りを巻き込む程には発展しなさそうなのが救いかな」
ステージ上ではバンドによる演奏がギターソロへと突入し、観客のボルテージも最高潮へ達している。
「とりあえず、しずくへ話をするにしてもKYUTEの出番が終わってからだし、今のところは普通にフェスを楽しんでいてよ。関係者席だから大人しくしての観賞になっちゃうけど」
戸松の言葉に、紗枝はひらひらと手を振るだけであった。




