第19.2話 不調2
「やっほー、トモ。ちょっとお願いがあるんだけどさ」
応答ボタンをタップするや否や、紗枝の声がスマホから響く。
北山にもその音声は届いていたようで、気心知れた紗枝の声にクツクツと笑う。
「紗枝ちゃん元気ー?」
返事をする前に北山の声が割り込み、やむなく戸松はスピーカーモードに切り替える。
「あれ、ゆいっちじゃん。もしかしてお仕事の邪魔しちゃった?」
「いやいや、愛しの弟君が胃腸炎で苦しみのさなかにいるんで、甲斐甲斐しくもお見舞いしているところですよ」
「え、トモが体調崩すなんて珍しいね。暇だし私もお見舞いに行こうかな。ゆいっちもいることだし」
戸松の携帯で通話をしているはずが、持ち主そっちのけで話が進んでいく。
「それじゃ、今から行くね。そっちって病人向けの食べ物とかストックある?」
「りょうかーい。あ、そういうのは私が買っておいたから特に何か買ってこなくても大丈夫だよ」
「そうなんだ、ありがとうね。それなら二人で飲むお酒でも買っていこうかな。それじゃあね」
戸松が意思表示する間もなくとんとん拍子に話が決まり、程なくして紗枝が戸松の家に到着する。
「いらっしゃい、お義姉さん……なんてね」
北山が我が物顔で歓迎の意を示す。
「なによ、あたしはあなたの義姉になったつもりはないわ……この泥棒猫っ」
傍から見たら薄ら寒い軽口を二人してたたき合う。
反応するだけ両者が調子づくだけだと思い、戸松は聞き流すものの
「「で、あんたはどっちの味方なのよ」」
二人して小芝居を継続する。
「いや、くだらないことしてないで、俺は一応病人なんだし休ませてよ」
紗枝を迎えるべく玄関に来たものの、芳しくない体調は布団への強い引力となって戸松に襲い掛かる。
「はいはい、とりあえず私たちは旧交を温めるからさっさと布団に戻りなさい。なんかあったら呼んでね」
「いや、あんたたちしょっちゅう二人して飲んでるし、旧交もクソもないでしょ。ってか、姉ちゃんが提げているその袋の中身、どう見ても病人の家に来る人の荷物じゃないよね」
「いや、ほら、病人の傍に来たことだし、ちゃんとアルコール消毒をしなきゃと思ってね」
紗枝が抱えるスーパーの袋からは何本もの酒が透けて見える。
「とりあえず、おとなしく寝ておきなさい。着信でも入れてくれればこの部屋に来るから。私がお酒よりもトモのことを優先するなんて、震天動地と言っても過言じゃないでしょ」
「いや、姉ちゃんがそれを言っちゃだめでしょ。とりあえず来てくれてありがとう。キッチンの戸棚に入ってるツマミ、好きなの食べていいから」
紗枝が部屋から退出したのを確認し目を閉じると、喋り疲れたこともあって戸松はあっという間に眠りの世界へと落ちていった。




