第19話 不調
(……新垣さんに須川さん、なんかどんどん逃げ場がなくなっている気がする。二人の話しぶりからすると、しずくへ距離を置いた方がいいなんて言った日には、他メンバーも巻き込んで関係がこじれた挙句、グループ瓦解なんてことも起きるかもしれない。……昔は恋心だけで動いていたのが、今となっては自分の気持ちそっちのけで対応しなければならないのか。しかも、どう動いたとしても胃が痛くなる展開しか想像できないし、ままならないな)
あれこれと思い悩むうち、戸松の体が不調を訴える。
心労に加え、ここ最近の繁忙で体調を崩したのかと思案しつつ、やむを得ず病院へ行ったところ神経性の胃腸炎と診断される。
「いやー、元々とまっちゃんってインドア作家なのに、ここ最近は打ち合わせやディレクションに出張ってもらってばかりだったしな。いやはや申し訳ない。ライブ用音源の提出も上がっているし、音響スタッフとの調整も終わって山は越えたし、ここらでゆっくり休んでくれ」
診断結果を田中へ電話越しに伝えたところ、田中は流石に申し訳ないと思ったのか、いつもの軽い口調はなりを潜め、まじめなトーンで休養を指示する。
尤も、現在一番負担がかかっているのはKYUTEメンバーと田中のはずであり、そのような状況下で田中の心配ごとを増やしてしまったことに戸松も自責の念を抱く。
「こんな時期にすみません。快復したらまた頑張ります」
「まぁお大事にな」
息も絶え絶えに詫びの言葉を発すると、受話器の向こう側で田中が苦笑いをする。
切電後、背中を丸めながら布団にもぐりこみ、戸松が次に意識をとりもどしたのは、田中との会話を終えた数時間後、北山が鳴らした玄関チャイムの音によってであった。
「やっほー、元気ですか?なんて、そんなわけないよね。あなたの女神、北山さんがお見舞いに来たよ」
重い体を引きずりつつ玄関の扉を開けると、いたずらめいた笑顔で北山が腕に抱えたスーパーの袋をこれ見よがしに持ち上げる。
「あー、田中さんから聞いたんですか。わざわざすみません」
「いいのいいの。ほら、病人はさっさと布団に戻りなさい。胃腸炎ってことは、まだ食べ物は受け付けない感じ?とりあえず流動食とか買ってきたから、食べられそうになったら適当に食べておいてね」
勝手知ったる北山は、テキパキと見舞いの品を冷蔵庫やキッチンの戸棚へ放り込む。
「それにしても珍しいね、智久君が体調崩した上に、症状が胃腸炎だなんて。なんかストレスたまっているんじゃない?」
戸松が布団に入り一息ついたタイミングで北山が話しかける。
「最近忙しかった上に心労が重なったからですかね。さすがにフェスへの参加ともなるとプレッシャーも段違いですし」
「ふーん、そんなもんなのね」
両者共通認識の事項について言及しなかったことに対して北山がどう思ったのか、その表情から窺い知ることはできない。
その後、戸松が布団にもぐったまま北山と四方山話をするうちに、携帯が着信を知らせる。
北山を見やると、気にしないで応答して構わないとの身振りで伝えてくる。
手帳型のスマホケースを開き、架電者を確認すると、”姉”と表示されていた。




